霞が関から見た永田町

霞が関と永田町に関係する情報を、霞が関の視点で収集して発信しています。

MENU

決算審議・会計検査院の重要性を再認識すべきだ

 

 

 

平成28年度決算が審議される


 現在、国会では平成28年度決算の審議が行われている。決算本体に加えて、予備費についても審査されている。


 民間企業の株主総会においては、決算こそ重要で、予算はそれほど注目されないのが普通ではないだろうか。


政治課題、国会の審議に関しては、これがまったく逆になる。年末、税制改正と並んで政府の予算案はマスコミでも大きく報道される。予算案が決定されると、新聞は一面トップの扱いで記事を載せ、他の面にも詳しい解説記事をつけることが当たり前になっている。


 ところが予算の決算書が提出された場合、これほどまで注目されることはない。国民の税金がいかに遣われたかという重要なテーマであるのだが、国民の関心は今一つで、マスコミが一面トップで報道することも皆無だと思う。

 

平成28年度予算案が閣議決定された時は、「一億総活躍社会」実現のための予算と吹聴されていたが、一般会計総額は96.7兆円と過去最大規模となる一方で、これまでの予算案とさして代わり映えもしないメリハリに乏しい予算案となったことなど批判が出されていた。


決算においては、当初予算だけでなくて補正予算も一体のものとなるから、あわせて審議されることになる。


平成28年度においては、補正予算が3度編成されている。第1次補正予算は熊本地震対策のためのもので、与野党が一致協力して早期成立にこぎつけた経緯がある。
他方、第2次補正予算、第3次補正予算は、バラマキ公共事業、国際機関分担金及び拠出金等が盛り込まれており、その内容もさることながら、各項目がそもそも補正予算に計上すべきものかという点でも問題が指摘されていた。

 

 

先ずは予備費の承諾の件が審議される


 憲法上の規定にもあるように、決算本体については、会計検査院報告書をつけた上で、国会に提出されなければならないとされている。しかし、予算について規定した憲法86条の「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」とまでの強い規定ではない。他方、予備費に限っては、国会の承諾を明確に求める内容となっている。


 以下が、決算、予備費に関する日本国憲法の条文である。

 

第87条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
○2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
○2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

 

 平成28年度決算については、先ずは予備費の件が審議される。既に述べたように決算本体と異なり、予備費は承諾するか否かが明確に問われ、これに関する国会の議決は法規範性を持っている。


 平成28年度は、通常の予備費(3,500億円)以外にも熊本地震復旧等予備費(7,000億円)が創設されている。これを盛り込んだ補正予算は全会一致で成立している。必要な措置であったと判断される。とはいえ通常の予備費と共にその使い道はしっかり検証されて当然だろう。


 必ずしも予備費を使うということにはならないが、熊本地震の直後に、民進党は政府に対して被災者生活再建支援金の額を引上げ(最高額を300万円→500 万円)を求めており、これは自民党が野党時代にも主張していたことである。安倍内閣が取り組んでいないとすれば、きちんとした説明を求めるべきである。

 

 通常の予備費、熊本関係の予備費、特別会計の経費増額の3件について、まとめて審議される。概要を示すと以下の通りになるが、必要な措置が盛り込まれているものばかりであり、基本的に是認されるべき内容と思われる。

 

【1.一般会計熊本地震復旧等予備費(使用額2477億円:48件)の主なもの】
・自衛隊施設·装備品の復旧等
・中小企業等グループ施設等復旧整備事業等に必要な経費
・公共土木施設の災害復旧等
・災害廃棄物処理事業に必要な経費
【2.一般会計予備費】(使用額319億円:10件)の主なもの】
・訟務費の不足を補うために必要な経費
・熊本地震による被災地域の緊急支援に必要な経費賠償償還及払戻金の不足を補うために必要な経費
・慰安婦問题に関する合意の実施に必要な経費
【3.特別会計予算総則第20条第1項の規定による経費増額(増加額174億円:2件)
・地方讓与税譲与金に必要な経費の増額(交付税及び譲与税配付金特別会計)

 

 

会計検査院の強化をはじめ決算・行政監視の強化について議論を深めるべき


 森友家計問題などに端を発し、公文書の改ざん禁止、会計検査院の権能強化などの必要性が求められている。関連の議員立法について、国民民主党、立憲民主党などの野党において条文化作業が進められている。


 予備費の後は、平成28年度決算本体の審議が行われる。決算は勿論のこと、行政監視機関をどう位置付けていくのか、会計検査院の権限を強化するのか、新しい組織を立ち上げるのか議論を深めていく必要がある。

 

 独立的な機関とはいえ、会計検査院は所詮行政機関であって、官邸や財務省に気兼ねなく厳格な検査を行うことができるのか、十分な検証を行える組織とはいえないのではないかなどの問題点が指摘されているところである。


 会計検査院とは別の組織を作るべきとの視点もある。過去には行政監視・評価機能を有する日本版 GAOを設置することを内容とする「行政監視院法案」が提出されたこともあるが、「米国と日本の政治システムの差を認識しないもので慎重な検討が必要である」という有識者の批判も聞かれた。


 国会そのものの調査権を強化すべきとの視点もある。衆議院における「予備的調査制度」の創設などはその一環である。参議院では、決算審査を重視し、内閣に対し早期提出を求め、早期審査をはかるなど、決算審査を充実させるために様々な改革が行われてきたことにも注目したい。


 衆議院では決算行政監視委員会、参議院では決算委員会、行政監視委員会という委員会構成になっている。衆参両院で決算についての議決が行われるが、決算そのものについて「是認」「否認」という採決を行うのは参議院だけである。

 

 いずれにせよ、決算、行政監視のための行政、立法府の関与はいかにあるべきか、どのような機関を設置してどのような権能を与えるべきか、大変難しい課題であるが、恒常的に検討を進めておくべきものである。


 決算審議・会計検査院の重要性を再認識しつつ、国会における国政調査権・決算審議のあり方、会計検査院などの改革等について積極的な議論を展開し、成案を得ることが急がれる。