やや旧聞に属する話かもしれないが、今年6月、政府は国のIT政策の基本となる「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」の改訂を閣議決定した。この閣議決定で、行政サービスの100%デジタル化に向けて「デジタルファースト法案(仮称)」を速やかに策定することが確認された。
デジタルファースト法案の骨子は、行政事務の効率化、社会インフラの効率化などにあり、例えば、行政サービス改革や地方公共団体と民間のデジタル改革、自動運転や人工知能(AI)による港湾物流の最適化、「マイナポータル」を利用した健康管理サービスの整備などが掲げられている。
行政の生産性向上は待ったなしだが・・・
特に行政事務の効率化、生産性向上は待ったなしで、様々な手続きをデジタル技術で完結することを目標とし、社会全体をデジタル化していく狙いだ。今年秋以降の国会で、「デジタルファースト法案(仮称)」を策定して100%デジタル化していく。
すでに国に先んじて、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入したつくば市など、先進事例が地方自治体で登場しており、デジタルファースト法案によって、デジタル自治体行政は加速していくことになるだろう。
行政のデジタル化のメリットは計り知れない。現状の行政手続きは、印鑑証明を取得するのにも、住民票を発行してもらうのも、書類を手書きしないといけない、書類を持って役所の窓口で並ばないといけないなど、非常に生産性が低い。こうした時間のムダがデジタル行政によって消えていくのは、市民にとっては大きなメリットである。
18分で会社設立が完了するエストニア
最近、政治家の視察が相次いでいるエストニアがデジタル国家、デジタル行政の有名な事例だ。エストには九州ほどの面積に、132万人の人が住んでる、ヨーロッパの小国だ。エストニアでは、99%の公共サービスがデジタル化されている。
驚くべきは、その数字で、98%の企業がオンラインで設立され、その設立手続きはわずか18分程度しかかからないという。日本での法人登記は昔に比べて、格段に緩和されたとはいえ、やはり1週間程度はかかってしまう。ほかにもある。銀行取引の99.8%、確定申告の95%がオンラインで、世界で最初にインターネット投票を実現したのもエストニアである。
細かい技術の話はさておき、大切なのは、デジタルファースト法案を国会で議論する際に、日本としての哲学が問われてくる。ここは意外に、まだ議論もされていないし、この分野に関心のあるテクノロジー・サイドでも議論の痕跡は見当たらない。
デジタル化の哲学こそが重要
世界は急速な勢いで、電子政府化、デジタル政府化が進んでいて、それは4つに分類できる。その4分類は別稿にゆずるが、本稿で伝えておきたいのは、エストニアの哲学「Once-only」だ。ユーザーから一度情報を聞いたら二度と聞かないという意味で、これは制度を設計する時に最初に折り込んでおかないと、手続きのたびに個人情報を確認されるという、デジタル化されても、手間が変わらないという状況になりかねない。その点、エストニアは徹底している。
このほか、集めたデータの所有権は国民にあり、政府はどのように使われているかを国民に知らせなければならない「Data ownership」、最初からデジタルであるべきとする「Digital by default」のようにユーザーファーストの設計思想が徹底されているのがエストニアの特徴である。
デジタル化の技術はあくまでも手段だ。問われているのは、私たちの住む日本が国家として、どういう方向に進もうとしているのか、その哲学こそが問われている。デジタルファースト法案で、その辺の骨太な議論が野党からもぜひ、出てきてほしいものだ。