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IoT時代の主役がはっきりした今、日本が取るべき産業政策を打ち出せ

 

 

 

 アメリカ・ラスベガスで毎年1月に開催される、世界中のエレクトロニクス・メーカーが集結するCES(consumer electronics show)。CES2018が示したものは、私たちの暮らしが大きく変わっていく予兆だった。

 

 IoT時代の本格到来により、思いもよらないものがネットワークに繋がり出す。そしてネットワーク側にはGoogleやAmazonなど世界的にIT企業が音声認識技術やAIを駆使して、ネットワークに繋がる機器や電子デバイスから集まってくる大量のデータを収集し、消費者をより便利に、より楽にしようとする姿勢が鮮明に打ち出されたものだった。

 

 CESはエレクトロニクス業界にとって、その一年を占う、非常に重要な展示会だ。consumer elctronics showとその名が示す通り、かつてはサムソンやLG、ソニー、パナソニックなど世界中のエレクトロニクス・メーカーが自慢のデジタル家電を競い合うようにして展示した。CESで並ぶ機器を見れば、その年のトレンドや各社が注力する技術とその方向性が分かったものだ。そのCESもデジタル家電の技術競争が一段落してしまったこともあり、ここ数年は隆盛に陰りが見えていた。しかも、この間に日本メーカーは市場から撤退を余儀なくされただけでなく、人材も流出した。

 

 

一気に主役に躍り出たグーグル

 

 エレクトロニクス業界を巡る状況が大きく変わったこともあって、CESがかつての勢いを失いつつあったのは必然だったが、ここへきて様相が変わってきた。プレーヤーが大きく変わったことを印象付けたのが2018年のCESとなったのである。CESの主役は世界的なIT企業Google。展示会はもちろんのこと、街のデジタルサイネージからバスから、どこを見てもGoogle一色だったのである。CES初出展のGoogleが一躍、展示会の主役をかっさらった。

 

 Googleがいきなり、主役の座に座ったのにはワケがある。2000年代初頭から始まった家電のデジタル化がいよいよ生活にもっと密着するところへ浸透してきたのだ。前述した通り、通信コストもストレージ・コストも劇的に下がったことで、あらゆる機器、電子デバイス、モノがネットワークに繋がり出しているからだ。IoT(Internet of Things)時代の到来である。2018年のCESを一言で表せば、「音声データぶん取り合戦元年」ということになるだろう。

 

 

なんでも知ってるGoogleが知らないコト

 

 すでにGoogleは私たちの生活に隅々に行き渡り、どこで誰と会っているか、食べ物から洋服まで消費者の好みについても検索エンジンを通じて知り尽くしている。今日、風邪を引いているかどうかすら、Googleは知っている。

 

 そんなGoogleがリーチできていないのが、「家の中」だ。私たちは家庭の中で常にオンライン状態であるわけではない。スマホから離れた瞬間に、消費者が何をしているか、何を望んでいるか、さすがにGoogleも分からない。Googleにとって家の中は未知の領域なのだ。GoogleはCESの会期中に行われたトークセッションで次のように語った。「Google homeを開発にするにあたり、誰も家のことを知らないことに気づいた。スピーカーに何をさせるか、ではなく、何が必要かを我々は知らないといけない」。

 

 Googleのこのコメントからわかることは、彼らは現在のAIスピーカーを家に入り込むための橋頭堡と位置付けているということだ。彼らはあのスピーカーが完成形だとも、完璧だと思っていない。むしろ、今は「ヘイ!グーグル!」から始まるAIスピーカーを通じて、家庭の中で人は何を語りかけるのか、何を知りがっているのかをGoogleはデータの蓄積を始めようとしているのである。

 

 

経産省が国産検索エンジンを開発しようとした時代があった

 

 googleの台頭が始まろうとしていた2000年代初頭、日本は経済産業省が「情報大航海時代」と銘打って、国産検索エンジンを開発しようとした。まだ危機感のなかった産業界と、Googleの資金力の前に、この国産検索エンジンは日の目を見ることなく、プロジェクトは終わってしまったが、この10年あまりの間にIT政策で日本はだいぶ、差がついてしまった。

 

 図らずも、今回のCESでパナソニックがメインに打ち出した発表が「車載機器は今後、GoogleAssistant、Amazon Alexaに対応する」というものだった。誤解を恐れずにいえば、パナソニックがGoogleやAmazonの軍門に降ったと言っていいだろう。

 

 IoT時代は今まで以上にプレーヤーの生存競争が激しくなり、頻繁に入れ替わっていくことだろう。そういう中で、インフラともいうべき、大量のデータを保有することになるであろう、GoogleやAmazonはプラットフォームを握る者として、絶対的なポジションを手にするはずだ。残念ながら、日本のエレクトロニクス・メーカーがそのプラットフォームを握る未来はやってこない。大事なことは、そのプラットフォーマーがはっきりとした中で、単なる製品を提供するだけのサード・パーティーの存在にならないために企業としてどういう戦略を立てるのか、だ。「日本はものづくりの国」という幻想を捨て、現状を直視するところから、日本の経済政策の立て直しは図られるべきだろう。