10日、電波の有効利用を検討する総務省の「電波有効利用成長戦略懇談会」の議論が行われた。公共用周波数をはじめとする電波を有効利用し、安倍内閣が掲げる成長戦略に反映する方法を探る。また、政府の規制改革推進会議も周波数帯の利用権を競争入札にかける「電波オークション」の導入について議論を行っており、電波の有効活用をめぐる政府内の意見調整が難航している。
菅官房長官 「電波オークション」の導入を前向きに検討
菅義偉官房長官は、「電波オークション」の導入を前向きに検討していると述べた。
菅義偉官房長官は13日の記者会見で、電波の周波数帯の利用権を競争入札にかける「電波オークション」の導入に関し「電波は国民の共有財産であり、有効利用されることが極めて重要だ。海外の動向も参考にし、電波の効率的な利用に資する方策を引き続き検討していきたい」と述べ、前向きな考えを示した。
電波オークションとは
電波オークションとは、周波数帯域の利用免許を競売で電気通信事業者に売却して事業を行わせるものである。有限な公共財である電波を有効利用するための手法である。オークションの方式には様々なものがあるが、1回のオークションは一日から数か月の期間で公開入札形式で実施される。
アメリカ合衆国の移動体通信事業者で、1996年に世界で初めて採用された。その後、ヨーロッパ各国の第3世代携帯電話で採用された。予想以上の高額でが行われたため、経営破綻する事業者が続出し、携帯電話事業開始の遅れの原因となったと批判されることもある。また、周波数帯域の需要と供給の実態に即しない「周波数バブル」であるとの批判もある。しかし現在では「オークション理論」を用いて制度は改善されており、国家にとって大きな税収源となっている。
一方で、OECD加盟国の約2/3は既に電波オークションを導入しており、実施されているオークションの大部分は、大きな問題や批判がなく運用できているのも実態である。
現在、日本では原則、総務省が審査して選ぶ比較審査方式が採用されている。
平成27年度の電波利用料金の収入
テレビ局に対し、移動体通信事業者はかなり金額が高い。
主な通信事業者・テレビ局 | 電波利用負担額 |
NTTドコモ | 約201億円 |
KDDI | 約131億円 |
ソフトバンク | 約165億円 |
NHK | 約21億円 |
日本テレビ | 約5億円 |
TBS | 約4億円 |
フジテレビ | 約4億円 |
テレビ朝日 | 約4億円 |
テレビ東京 | 約4億円 |
総額 | 約747億円 |
電波オークションを行うメリット・デメリットとは?
電波オークションを行うメリット
・オークションによる税収が、大規模の財源になる。
・先進国と同じ方式になる。
・電波を使用した天下り規制ができる。
・独立した電波管理機関の登場が期待できる。
・新しいテレビ局の参入が容易になる。
・電波周波数を有効利用できる。
電波オークションを行うデメリット
・転売目的での不正入札が増える。
・切り売りする手間が今の制度では複雑。
・既存の各テレビ局の反勢力。
・大企業が買占め、中小企業が参入しにくい。
・放送通信から献金をもらっている政治家に影響がある。
「電波オークション」を導入している海外の事例
海外で「電波オークション」を最初に始めたのはニュージーランドだった。その後、1996年にアメリカがモバイル通信を対象に電波オークションを導入。これは通信市場の拡大に伴い新規通信会社の参入や自由な競争が行われるメリットがあった。
アメリカ
導入目的
• 米国連邦通信法309条(j)(3)によれば、FCCは、周波数オークションの実施にあたり、①新技術、新商品、新サービスの迅速な開発、配備、②経済上の機会及び競争の促進並びに新技術の国民への開放、③周波数価値の一部分を公衆のために回収、④周波数の効率的かつ広範な利用といった目的を促進するよう努めなければならないとされている。また、同法309条(j)(7)によれば、FCCは、周波数オークションの実施にあたり、公共の利益等の判断の基礎を周波数オークションによって得られる歳入の期待に置いてはならないとされている。
• 周波数オークション導入時の下院報告書(HOUSE OF REPRESENTATIVES REPORT 103-11)によれば、同制度が導入された背景として、それまで免許人の選定手続として採用されていた比較審査方式及びくじ引き方式について、前者は選定に時間がかかる、後者は周波数を適切に利用する能力を有しない者が選ばれる一方、新技術を開発した者が選ばれない場合があることや転売目的での応募が多数あるといった問題点があることが指摘されている。
オークション収入の使途
1.一般財源(ただし、オークションの企画及び実施経費分はFCCが留保)
2.特別法により、特定財源とする場合あり
① 連邦政府無線局の周波数移行コスト補てん(周波数移転基金に繰入れ)
② デジタル放送移行(コンバータボックス用クーポン配付)・公共安全無線システム整備(デジタルテレビ移行・公共安全基金に繰入れ)
イギリス
導入目的
• 英国無線電信法第14条(1)によれば、OFCOMは、電波の最適な利用を促進することの望ましさを考慮して、周波数オークションの適用を決定することができるとされている。
• 所管庁である貿易産業省(当時)※1が1996年に議会に提出した報告書 (“Spectrum Management: Into the 21st Century”)によれば、オークション方式の利点として、①経済的効率性、②透明性、③(免許付与過程の)迅速性、④市場価値を反映した価格付け、⑤新規サービスの導入促進が挙げられている。また、貿易産業省の下部組織として周波数管理を所管していた電波通信庁※2が周波数オークション制度導入後に公表した報告書には、「オークションの主目的は歳入の増加にあるのではなく、将来の希少な周波数の効率的利用を確保することにある。」との記述がある(“STRATEGY FOR THE FUTURE USE OF THERADIO SPECTRUM IN THE UK (1998)”)
オークション収入の使途
一般財源
(ただし、OFCOMが電波監理のために要する経費については、①OFCOMによる留保制度又は②文化・メディア・スポーツ省による交付金(grant-in-aid)制度により、オークション収入の一部から賄われている。*)
*いずれも財務省の同意が必要。①については活用実績なし。
フランス
導入目的
• 法令上周波数オークションの目的を明示した規定はない。
• 周波数オークションが導入された1996年電気通信法案の提案理由説明に、周波数オークションの導入目的に関して、「オークション手続により本質的な規制目
的、すなわち効率的な周波数利用が実現されうる。・・・成功を収めた入札というものは、市場競争の下において割り当てられた周波数を最大限効率的に利用し、
経済的かつ効率的な周波数利用に努める体制及び能力を有していることを典型的に証明している。同時に、周波数経済的な選択基準は、競争を促進するという
規制政策目的にも資するものである。」との記載がある。
オークション収入の使途
一般財源
電波オークションは、GDPの上昇にも大きく貢献する。現在、OECD(経済協力開発機構)35カ国中の未導入はアイスランド、ルクセンブルク、日本の3か国のみである。メリットが多いため、制度の導入は期待されている。