衆議院予算委員会の閉会中審査が開催され、そこに安倍総理が出席することになりそうだ。
先日、文部科学と内閣の両委員会による連合審査会という形式で、閉会中審査が行われたばかりだが、そこで取り上げられた加計学園の問題について、参考人として招かれた文科省の前川喜平前事務次官の発言と菅官房長らの発言には食い違いがあるなど、真相が明らかとなったとは言えない状況にあった。前川氏の発言にもあった「行政が歪められた」という点について、特に手続ついての適正性が問われるべきであったのだが、質問に立った自民党の議員からは前川氏への個人攻撃が相変わらずされるなど、真相追及とは程遠いものであった。
そのような中での予算委員会の閉会中審査実施と安倍総理の出席となる。国会閉会後、真摯に説明責任を果たすと安倍総理自身が表明していることを考えれば、当然と言えば当然の出席と言えるだろうが、獣医学部新設に関して安倍総理の関与や安倍総理と獣医学部を新設する加計学園の理事長らとの関係などが取り上げられることを考えれば、出来るだけ閉会中審査やそこへの出席は避けたかったのではないだろうか。安倍総理の出席ということで、真相の解明へ少しだけ近付いたと言うべきかもしれない。
ところで、前川氏と同様に参考人として呼ばれた加戸守行前愛媛県知事から、文科省による獣医学部の新設の制限こそ行政を歪める行為であり、それが今回の国家戦略特区制度の活用によって正されたという趣旨の発言があった。この加戸氏の発言はマスコミなどであまり取り上げられなかったことから、ネット上などでは、マスコミによる歪曲だとか、加戸氏の発言が正しいから黙殺されたとか書かれている。加戸氏の発言自体は愛媛県としての立場を表明したに過ぎず、敢えて取り上げるべき発言でもなかったと思われるが、加戸氏の発言が真実の表明であり、前川氏への反論だと誤認する人がいるところに、この問題が正しく認識されていないことが表れている。
加計学園問題と言われるように、加計学園の名前がクローズアップされ、その理事長が安倍総理との腹心の友であったとされることから、安倍総理の関与が疑われているところである。しかし、適正な審査を経て、国家戦略特区として認定されて加計学園による獣医学部の新設が認められたのであれば問題ない。
連合審査会には、株式会社政策工房の原英史代表取締役社長も参考人として呼ばれていた。原氏は国家戦略特区ワーキンググループ委員を務めており、連合審査会でも、適正な処理がなされて加計学園の提案が選ばれたと発言している。この原氏の発言も、前川氏や民進党の主張を覆すものとしてネット上などでは取りざたされている。これも、この問題の複雑な位相からなる故の誤解である。
加計学園の問題は大きく分けて、三つの位相がある。
第一が愛媛県と加計学園の関係の部分。加戸氏が説明したのはこの部分である。長年、愛媛県が獣医学部の設置を目指しており、それに応じたのが加計学園であったという一連の話はこの部分のことがらである。
第二が中央省庁間の関係の部分。ここが前川氏によれば「行政が歪められた」とされているやりとりがあった部分で、文科省、農林水産省、内閣府や内閣官房との関係が焦点となる。
第三が国家戦略特区ワーキンググループの部分。ここが原氏の説明があった部分で、議事録も公開されている。申請については適正に処理がなされたということを原氏は説明しており、加計学園の問題はそもそも問題ではないと説く人はここに着目をして主張を行っている。しかし、申請前の対応、つまりは第二の部分が今回は問われている。
加戸氏は第一の部分、原氏は第三の部分は問題がなかったと言っているだけで、第二の部分について言及したとしても、それは憶測の域を出ていない。第二の部分については、前川氏は問題があったと発言し、それを裏付けるような資料も文科省から一部公開されているが、菅官房長官などは資料の裏付けを見せずに、ただ反論の言葉を重ねているというのが現状である。各位相間を政治家が取り持ったのか取り持たないのか。取り持ったとしたら、どのようなことが行われたのか。それは適正なものであったのかが問題の核心部分ある。
安倍総理出席の予算委員会閉会中審査では、この三つの位相に問題が分かれていることを認識した上で、その関係の中で政治家が公平公正に振る舞い、適正な手続きとして物事が処理されたのか否かを確認したいところだ。民進党などには、その点を突く質問を展開して欲しい。