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安心を保障する持続的な年金制度に向けた抜本的な議論を(1/2)

 

 

財務省が年金支給開始年齢引き上げへ動く


財務省は4月11日、財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)の財政制度分科会を開き、社会保障改革に関する抜本的な議論を開始した。


「年金支給68歳開始案」「年金支給開始年齢引き上げ」「『年金68歳』案など」などというニュースの見出しが躍った。報道機関ごとのニュアンスは異なるが、年金支給開始年齢を遅らせるという方向性は共通であり、「68歳」という年齢を明示するかしないかで違いが出ている。

 

 実際に提出された資料をながめてみた。資料は2種類ある。一つは「社会保障について」という「資料」であり、表紙や目次を入れて93ページになる。二つめはそれの要約版といえるだろうか、「社会保障について(参考資料)」という22ページのものが出されている。


 社会保障全般が対象ではあるが、各論としては「医療・介護」と「年金」に区分されて、現状分析や論点が示されている。概要版の方だが、子供・子育て分野について言及している部分もある。

 

 「年金支給開始年齢を68歳に引き上げるべき」という単純な結論を書いた文章は見当たらないが、はっきりと支給開始年齢引き上げへと誘導する文脈になっている。


 これまで行われてきた改正に触れ、「現在、厚生年金の支給開始年齢は、2025年にかけて、60歳から65歳へと段階的に引き上げられているところ」「給付と負担が長期的にバランスするよう、マクロ経済スライドにより自動的に給付が調整されていく平成16年改正以降の年金制度の下では、ある世代における給付財源の節約は後世代(将来世代)の支給水準の向上につながる」とその意義や効果についても強調されている。


 同時に、「高齢就労が促進され、保険料収入が増えれば、将来の年金給付水準の維持・向上にもつながることを踏まえれば、後世代の給付水準の確保や高齢就労の促進、年金制度の維持・充実といった観点から、支給開始年齢の引上げを検討していくべきではないか」という方向性がはっきりと示されている。


 「支給開始年齢を更に引き上げた場合(例:65歳→68歳)」のイメージ図が示され、現行の支給開始年齢の引き上げを行っていった場合に比べ、「給付水準を更に高い水準で維持できるようになる」と記されている。

 

 

短絡的な結論を急ぎ過ぎるやり方には疑問


 財政制度等審議会に限らず、府省の審議会の類は、その役所に有利な議論を誘導するための隠れ蓑となっていることは、今更ながら声を大にして批判することでもないだろう。誰もが分かっていることである。


 しかし、今回の財政審の資料の作り方はあらっぽくて、丁寧さが見られない。しっかり熟議を行わせるような姿勢が見られないし、短絡的な結論を急ぎ過ぎている。
一つの方向に誘導したいにしても、表向きには両論併記にしておくとか。多くの難題があることをしっかり書くとか、公平、公正、中立的立場を見せようとする姿勢あってもおかしくないが、それさえも欠落している。

 

【改革の具体的な方向性】(案)として、「支給開始年齢の引上げは、個人の人生設計や企業における雇用の在り方などに大きな影響を与えるものであることから、十分に準備期間を設けて実施していく必要」という前提条件は付されているが、この程度かという書きぶりである。ある程度の猶予期間を設ければ、文句ないだろうくらいのメッセージしか伝わってこない。


そして、「具体的には、現在、男性は2025年まで、女性は2030年までをかけて、65歳までの引上げを行っているところだが、2035年以降、団塊ジュニア世代が65歳になることなどを踏まえ、それまでに支給開始年齢を更に引き上げていくべきではないか」と断定的な結論を下している。

 

 概要版ともいえる資料の方には、「2017年1月5日 日本老年学会・日本老年医学会 高齢者の定義と区分に関する提言(概要)」がついている。


 赤いアンダーラインが引かれて強調されているところは、「現在の高齢者においては10~20年前と比較して加齢に伴う身体的機能の変化の出現が5~10年遅延しており、『若返り』現状が見られています。特に64~74歳の前期高齢者においては、心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めています」との下りである。


 ワーキンググループそのものは、相当な知見・識見を有すると思われる公共政策、医学などの専門家が名前を連ねており、このもととなっている報告書も精緻なデータ解析、詳細な記述によって裏付けられており、かなりレベルの高いものと受け止めることができる。

 

 ただ、財政当局がこの場面でこういう資料を織り込んでいることについては、 とってつけたような印象が否めないし、深い議論や洞察に基づいて行われていることかどうか疑問を呈さざるを得ない。


結論が一方向に誘導される中での資料組み込みであり、後味の悪さを感じないではいられなかった。詳細版ではなく、敢えて短い方の資料集の中に入れてきていることも不自然な印象を受けた。

 

 

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