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安心を保障する持続的な年金制度に向けた抜本的な議論を(2/2)

 

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細川内閣・連立与党における「年金支給年齢引上げ」議論をふりかえる


 なにも年金の支給開始年齢を引き上げる議論をしてはいけないと主張したいわけではない。その選択肢も含めて大いに議論はすべきだ。


現在、厚生年金の支給開始年齢は2025年にかけて65歳へと順次引上げられているが、こうした制度改革がなければ年金制度はもっと不安定な状況になっていたのは明らかであるし、必要な措置だったと評価できる。


 1994年の村山内閣による法改正で支給開始年齢(定額部分)の引き上げ、2000年の小渕内閣による法改正で支給開始年齢(報酬比例部分)の引上げが実現している。

 

 ここに至るまでの道のりは険しいものだった。厚生年金の支給開始年齢の引き上げは1989年改正で挫折していた。確かに、60歳定年制さえも十分普及していない時代であり、雇用と年金支給開始年齢の接続を求める勤労者の不安に応えることもできなかった。


しかし、基礎年金を導入した1985年改正法の本則には「厚生年金の支給開始年齢は65歳とする」と規定されていた。ところが、同じ法律の附則で「当分の間、60歳から特別支給の厚生年金を支給する」とした。60歳から64歳までの厚生年金は「特別な」支給と位置づけられていた。典型的な二枚舌の対応であり、問題の先送りだった。

 

 年金の支給開始年齢を真正面から議論しない状況がずっと続いた。しかし、中途半端ではあったが、1994年改正で、1階の基礎年金部分を2001年から3年に1歳ずつ引き上げていくことが決まった。


 この改革を実現へと向かわせたのが、細川連立内閣を構成する与党がつくった「年金改正プロジェクトチーム」である。


 細川内閣においては大内啓伍・民社党委員長が厚生大臣として入閣していたこともあり、「年金改正プロジェクトチーム」の座長は塚田延充・衆議院議員(民社党)がつとめ、民社党以外には社会党、新生党、公明党、さきがけ日本新党の議員が参加していた。


1993年12月20日、同プロジェクトチームは「年金改正について(報告)」をとりまとめた。厚生年金を満額支給する年齢を段階的に65歳に引き上げ、60歳代前半の人には部分年金を支給すること、その結果として60歳代前半の年金は報酬比例部分となり65歳以降のほぼ半額になるなどの内容が含まれていた。

 

 この連立与党の報告があったからこそ、1994年そして2000年の年金制度改正へとつながったといえる。


 細川政権当時、連立与党の「年金改正プロジェクトチーム」の事務局長をつとめていた人物がこう証言している。


「いや、そのような状況のなかでも、1994年・年金改正では、1階の基礎年金部分だけは3年に1歳ずつ引き上げることを決めたのだから、90度だけは舵をきった。労働組合からはずいぶんイヤミをいわれたが、いまから振り返っても、必要な改正だった。この改正がなければ2000年改正で2階部分の引き上げに踏み込むことはできなかっただろう」


「年金改正プロジェクトチーム」の報告は、「連合の提案と大きく乖離しており、同意できない」(鷲尾悦也・連合年金改革対策本部本部長)とまでの言葉も飛び出した。細川政権を支える身内からの批判にさらされながら、同チームが年金制度を少しでも持続可能なものとするために、苦渋に満ちた政策提言をしたことは意義あることだったと評価できる。

 

 

年金に対して不安を抱いている若い世代にも配慮し、丁寧な議論を


 論旨が二転三転しているように思われるかもしれないが、1994年、2000年の頃と比べると、年金支給開始年齢の引上げを論じることには神経質にならざるを得ず、年金制度などに対する不安が高まっている若い世代の置かれた立場を慮る必要がある。


 2015年9月28日、厚生労働省は世代ごとの年金給付と負担の関係について試算した結果を公表している。経済、人口などいくつかの前提条件があるが、一つのケースにおいて、厚生年金に加入する勤労者の夫と専業主婦の世帯の場合、2015年に70歳になる人(1945年生まれ)は、負担した保険料の5.2倍の年金を受け取れる見通しなのに対し、30歳になる人(1985年生まれ)では2.3倍にしかならない。国民年金の場合も、それぞれ3.8倍、1.5倍と同じような傾向が出ている。

 

 財政制度等審議会による年金支給開始年齢の引上げの議論のニュースが流れると、たちどころにネット上には若い世代と思われる人たちの反発や不安を表明する意見が流れていた。非正規雇用の増加、格差の拡大など、若者も含めたワーキングプアが増えている現状においては当然のことと理解できる。


「民間が勝手に年金制度をつくって、それに国民が加入した方がたくさんもらえる」「若者は、将来は1円も年金がもらえない」などという年金制度に対する誤解もあることも事実である。年金受給に必要な資格期間が25年から10年に短縮されたことも朗報である。

 

 支給開始年齢のさらなる引上げの議論を封じ込めるつもりはないし、選択肢として排除することはすべきではないだろう。ただ、年金制度改革について、老後の生活を社会全体で支え合う共助・公助の観点から、国民皆年金を堅持していく基本に立って、深い議論を丁寧に展開していく必要がある。


将来世代も老後の生活が成り立つ年金額を確保し、信頼性が高く持続可能な年金制度を構築するため、最低保障機能の強化、世代間公平の向上、公的年金の一元化、最低保障年金の創設に向けた年金制度の抜本改革に向けた熟議を喚起していくことが求められる。