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世論調査の信ぴょう性? 自民300議席はありえるのか?2017年度衆議院選挙

 

新聞各紙が世論調査を実施し、「自民党300議席うかがう勢い」と各紙が勝利ムードを作り上げている中、「安部首相の続投望まない」が47%で、「よいと思う」の37%を上回ったという毎日新聞の調査記事も見受けられる。

少し、視点を変えただけだと思うが、こんなにも結果が異なるのは各新聞の調査方法、調査結果に問題があるのではないか。直近の世論調査事情を探る。

 

米トランプの勝利を大きく外した世論調査

2016年11月9日(日本時間)、アメリカ大統領選の投開票が行われ、共和党候補のドナルド・トランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破った。この日の日経平均の動きを振り返ってみよう。この日の日本市場は、アメリカ大統領選の開票状況をリアルタイムで受けることになった、非常に特徴ある一日だった。

 

前日の米国市場は、NYダウは73ドル高、民主党のクリントン候補が優勢との見方が強まり、買いが優勢だった。これを受けて11月9日の東京市場の寄り付きは高く始まった。序盤、フロリダ州の開票状況が報道された。クリントン氏リード。これを受けて日経平均は上昇。ところが票が開き始めるとクリントン氏、トランプ氏の得票数が拮抗という報道が入り、激戦地とされたオハイオ州でもトランプ氏が優勢との情報が流れると、徐々にマーケットの様子が変わり出した。後場に入り、トランプ氏の当選の可能性が高まったとの報道を受けて、日経平均の下落速度は加速し、一時1000円を超える下げとなった。この日の終値は1万6251円、前日比919円84銭の下げとなった。一日の高値と安値の差、いわゆる値幅は1315円90銭と、同年6月のイギリスのブレグジット・ショックに次ぐ全面安となった。

 

なぜ、株式市場はこんなにも大きく変動したのか。それはマーケットがトランプ氏の勝利を織り込んでいなかったからだ。世論調査はことごくクリントン氏の勝利と導き出していた。世論調査が当たらなかったのである。これは6月のブレグジットの時も同様だった。だから、6月もマーケットは大きく下落したのだった。

 

世論調査は正直な回答を得られない!?

実は一人、どうしても触れておきたい人がいる。それはジャーナリスト、木村太郎氏だ。木村氏はフジテレビのいくつかの情報番組に出演しているが、かなり早い段階から、「99%トランプが勝つ」と主張していた。驚くべきは木村氏は大統領選の約1年前の2015年12月頃から、トランプ氏の勝利を予測していたのである。

 

木村氏の発言を聞いた当初は逆張りをしているのかな、と感じたほどだったが、木村氏の論は一貫して明快だった。「日本のメディアはCNNやワシントンポストなど、ヒラリー支持のメディアの情報を垂れ流しているに過ぎない。今回の選挙はいやらしいオヤジか、腐敗した政治家か、それを選ぶ選挙」というのが木村氏の論拠で、特にトランプ氏の発言は過激だったこともあり、エスタブリッシュメント層でも、表立ってトランプ支持を表明しない、できない人が多いと取材を通じて掴んでいたようだった。当然、その層は世論調査でも正直には回答しない。

 

 

世論調査は完璧ではないため、信用してはならない

前置きが少し長くなってしまった。何が言いたいのか。それは世論調査は完璧ではないし、恣意性が働くということだ。衆議院選挙がはじまり、新聞各紙はかなり頻繁に世論調査をかけている。アメリカやイギリスを例に見ても、気になる点がいくつかある。一つは世論調査の手法、次に対象者が偏在していないか、世論調査のサンプル数、そして調査期間などである。

 

一つずつ見てみよう。まず、世論調査の手法である。世論調査には電話、訪問、アンケートなどいくつかの手法があるが、国政選挙の場合はRDD方式という電話を使った世論調査となっている。RDDとはランダム・デジット・ダイヤリングの略称で、コンピュータで無作為に抽出した数字を組み合わせて電話番号をつくり、電話する手法だ。2000年ころから採用された手法である。この方法では固定電話が対象になっており、そもそも固定電話を持っていない人や、日中自宅にいない人などが調査対象から漏れてしまうという問題が指摘されていた。

 

朝日新聞の世論調査は携帯電話にも掛けようと改善を図っているようであるが、今回の衆議院選挙では固定電話のみに掛けているようである。また、電話をかける時間帯は日中であることを考えると、その時間帯に電話に出て、しかも敢えて回答する人という意味では回答者の年齢層は大きく偏らざるを得ない現状がある。それはアンケート結果からも推察できる。例えば、総選挙直前に行ったNHKの世論調査によると、投票に行くかという問いに対して「必ず行く」と答えた人が56%、「行くつもりでいる」と答えた人が27%と、合わせて63%に達している。また、総選挙にどの程度関心があるかという質問に対しては「非常に関心がある」が32%、「ある程度関心がある」が44%となっている。

 

実際の投票率と比較してみると、やや強めに数字が出ていることを考えると、わざわざ回答してくれる人という意味で若干の偏在があると見ていいだろう。もっとも、この偏在性はネットの世論調査ではより顕著で、そもそもの母集団が一定の層に偏っているため、正確な数字は出にくいとされている。

 

 

統計学的には正しい世論調査ではあるものの信頼性は低い?

世論調査は統計学に基づいており、そのサンプル数の取り方は統計学的に導き出されているために、サンプル数が少ないという批判は、こと総選挙の世論調査においては十分な数を取っているため当たらない。専門的な話になるため、詳細は割愛するが変数は4つある。母集団の数(選挙の場合、有権者数)、許容できる誤差の範囲、想定する調査結果、信頼度係数の4つだ。このうち、信頼度係数をいじると、必要となるサンプル数が大きく変わってくる。この辺を新聞各社がどう設定しているのか、気になるところだ。世論調査は統計学そのものであるために、必要なサンプル数は数学的に決まってくる。例えば、許容誤差を3%、信頼度を95%とした場合、母集団が10万人を超えると必要なサンプル数は約1100に収束する。

 

さて、今回の総選挙の各社の世論調査を見てみよう。固定電話と携帯電話の比率は概ね、半々になっており、調査も休日に実施していることから、かつて「固定電話だけでは正しい声は聞けていない」の批判は当たらない。サンプル数も統計学的には十分なサンプルを得ている。サンプルの偏在性という意味でもアンケートの回答率は50%〜60%となっており、サンプルが偏在している恐れもなさそうだ。

 

この辺は冒頭に挙げたアメリカ大統領選やイギリスのブレグジットのように世論を大きく二分し拮抗するケースと、今回の総選挙は性質が異なるため、世論調査が結果を大きく外すということはないと思われる。そうはいっても、たった1年前、多くのメディアが行なった世論調査と東京都議会議員選挙の結果は大きくかい離した。ほとんどのメディアは自民党がぎりぎり第一党を死守して、都民ファーストが第二党へ躍進、と世論調査からはこのように読んでいた。唯一、早い段階から都民ファーストの躍進と第一党を予測していたのは、JX通信社だけだった。

 

このときの違いは、固定電話を対象にしているのか、固定電話と携帯電話の両方を対象にしているのかが大きな違いだった。都議選の失敗があったためだろうか、今回の総選挙の世論調査ではどのメディアも軒並み、携帯電話も対象に加えているため、これまで問題視されていた穴はふさがったと見ていいだろう。

 

こうやって振り返ってみると、昨年の都議選、イギリスのブレグジット、アメリカの大統領選と世論調査の信憑性を揺るがすニュースが相次いだこともあって、2017年の今回調査はかなり慎重に実施しているように見受けられる。

 

 

世論調査の結果をあたかも正しいと報道する新聞テレビこそが大問題!?

問題があるとすれば、報道量だろう。ひとたび新聞各社が世論調査を発表すると、テレビの情報番組が面白い部分だけを切り出して、報道する。しかも、朝もランチタイムも、午後も、どの情報番組でも、だ。そして芸能人がしたり顔でコメントをし、お茶の間の人たちにその情報が刷り込まれていく。「都議会では躍進したのに、小池さんの実力は国政だとこんなもんなんですねぇ」「森友問題・加計問題があったのに、自民党が犠牲を減らさないというのは、よっぽど野党がだらしないんですねぇ」等々。世論調査の結果をどう捉えるかは有権者が考えることであり、それに対するコメンテーターの個人的な感想は本来不要である。しかし、残念ながら、こうしたコメントを聞いているうちに、それがあたかも自分の意見であるかのように刷り込まれてしまう人たちがたくさん存在することの方が問題だ。

 

2012年、京都大学の西山教行教授がtwitterに投稿した一つのツイートが大きな話題を呼んだことがある。それは「フランスでは選挙期間中に世論調査は禁止されている」というもの。法律で定められている様で、その後、法律が改正され、世論調査の禁止は緩和され、現在禁止されているのは前日のみとなっているという。フランス以外にも選挙直前の世論調査を禁止している国はあるようで、日本の例を見るまでもなく、その結果に行動を左右されてしまう有権者が続出する恐れがある。結果、世論調査が投票行動を決めていると言ってもいいだろう。この辺の世論調査のあり方は今後、もう少ししっかりと議論した方がいいのではないか。