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つつがなき天皇陛下の御退位と皇太子殿下の御即位、皇位の安定的継承に向けて超党派で取り組むべき

 

 

 

天皇の退位等に関する皇室典範特例法の施行期日を定める政令などが決定

 

政府は3月6日の閣議で、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法施行令」を決定した。今回の政令は、天皇陛下の御退位に伴う「退位の例」の挙行、天皇、皇后両陛下が退位後に上皇と上皇后に就かれた際の規定などに関するものである。

 

 それに先立つこと、昨年の12月8日には、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法の施行期日を定める政令」が閣議決定され、天皇陛下が平成31(2019)年4月30日に退位されることとなった。翌5月1日には、皇太子さまが新天皇に即位され、「平成」は新元号に改元される。

 

 この政令決定に際しては、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の規定に基づき、皇族二方、衆参正副議長、内閣総理大臣、宮内庁長官、最高裁長官及び最高裁判事で構成される皇室会議が同年12月1日に開催された。皇室会議の開催も25年ぶりであり、大変注目されるものとなった。

 

 

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の成立過程を振り返る

 

今ここで思い起こすべきことは、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の成立過程に関わることである。


 これは、政府による法案、つまり閣法として提出されている。しかし、通常の閣法と異なるのは、立法府、各党・各会派の総意がとりまとめられ、それを受けた上で、政府が法案を出していることである。


 以下の表にあるように、法案審議そのものには、それほど長い時間は費やされていない。衆参関連委員会における質疑は1日ずつであり、その日のうちに可決されている。衆参本会議における趣旨説明・質疑、各会派による討論も行われていない。

 


*政府提出の「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」の審議経過

【平成29年】
・5月19日、閣議決定、国会提出
・6月1日、衆議院議員運営員会にて可決
・6月2日、衆議院本会議にて可決
・6月7日、参議院天皇の退位等に関する皇室典範特例法案特別委員会にて可決
・6月9日、参議院本会議にて可決・成立

 

 

このように、国会における審議はコンパクトな形で行われたのだが、それ以前の段階として、正副議長のもとでの立法府、各政党・各会派の総意をまとめるための全体会議、意見聴取はかなりの回数、時間を費やして、精力的に行われている。


 以下に、全体会議などの経過を日時、場所、テーマも付しながら、整理してみた。これを見ただけでも、いかに真摯に議論が行われていたか理解できるだろう。昨年の今頃は、まさにこの議論に関わっていた国会や政党の関係者は多忙を極めていたようだ。


正副議長の下で、各党・各会派は、国会内、衆参議長公邸で熱心な議論を積み重ね、お互いに歩み寄って、総意をまとめていった。平成 29年 3月17日、「『天皇の退位等についての立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ」が成案となった。

 

 

*「天皇の退位等についての立法府の対応に関する全体会議」などの経過


【平成29年】

〇1月19日(火)院内常任委員長室 <全体会議>

・天皇の退位等についての立法府の対応に関する各政党・各会派からの意見聴取のあり方について


〇1月25日(水) 院内常任委員長室 <全体会議>

・有識者会議の「論点整理」について政府(官房長官他)から説明聴取


〇2月20日(月) 衆議院議長公邸

・正副議長による各政党・各各派からの意見聴取


〇3月2日(木) 衆議院議長公邸 <全体会議>

・各政党・各会派の意見整理について報告及び意見交換

①昨年8月8日の陛下の「おことば」の受け止め方

②象徴天皇制に関する基本的な考え方

③皇位継承の「安定性」をどうするか

④「退位」に対する考え方


〇3月3日(金) 参議院議長公邸  <全体会議>

・各政党・各会派の意見整理について報告及び意見交換

①「退位」を検討するとした場合((1)将来全ての天皇を対象とするか、(2)今上天皇一代限りか/皇室典範(本則・附則)の改正、/その他の立法事項)

②その他(議論の進め方等、議員立法その他)

 

〇3月8日(水) 衆議院議長公邸  <全体会議>

・3月2日、3日の議論をふまえての各政党・各会派の意見のポイント


〇3月13日(月)衆議院議長公邸

・正副議長による各政党・各各派からの意見聴取


〇3月15日(水) 衆議院議長公邸  <全体会議>

・「『天皇の退位等についての立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ」を提示


〇3月17日(金) 参議院議長公邸 <全体会議>

・「『天皇の退位等についての立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ」の了承


〇5月10日(水) 衆議院議長公邸 <全体会議>

・「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」要綱について政府(官房長官他)から説明聴取

 

当初は非公開という話も出ていたが、全体会議の議事録はすべて公開されることとなった。


 戦後の新憲法の制定下の日本の国会において、皇室に関わる問題がここまで議論されたことはなく、憲政史における貴重な資料となったと言える。今後の議論を深めるための基礎資料の一つとも位置付けられる。


 各政党・各会派の提出資料なども含めて、この議事録は衆議院、参議院のウェブサイトにある「天皇の退位等についての立法府の対応について」のところで見ることができる。

 

天皇の退位等についての立法府の対応について

天皇の退位等についての立法府の対応について:参議院

 

正副議長とりまとめに沿い、政府は193 回通常国会の平成29年 5 月19日に「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」を提出した。同法案は衆議院議院運営委員会、参議院天皇の退位等に関する皇室典範特例法案特別委員会で審議され、同年6月9日に成立している。

 

 当初は、政府の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」について、その名称や議論の進め方などを巡って批判も出されたが、立法府の総意がまとまったことを受け、有識者会議は退位の制度設計だけに絞った最終報告を取りまとめるに至った。

 

立法府の総意を受けた法律の施行だからこそ各党・各会派への説明を

 

「退位の例」などに関する政令が決まったわけだが、まだまだ政府として検討、準備すべきことは山ほどある。

 

政府の「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典準備委員会」が退位の礼や即位の礼の段取りを盛り込んだ基本方針をまとめる予定と聞く。

 

 政令や基本方針の決定となると、国会の議決は不要だし、行政府が独自に決めて良いことになる。

 

しかし、通常の法律の施行ではなく、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民
統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と定めていることにふさわしい対応が必要だし、立法府の総意を受けて、制定された法律の施行であることを再認識すべきである。

 

 了解をはかるような手続きまでは求めないが、必要とあらば、正副議長の下での全体会議を再開して、政府が政令や重要事項決定について、折に触れて立法府、各党・会派に対して説明を行う機会をつくるべきではないか。

 

 そもそも、憲法第7条が「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること」を天皇の国事行為の一つとして定めているように、政令の決定ということも大きな意味を持っている。


ましてや、ここまで重要な法律施行のための政令の決定となれば、立法府や政党はそもそも関係ないという態度を政府はとるべきではない。

 

他方、立法府、各政党・各会派としても、天皇陛下の御退位と皇太子殿下の御即位がつつがなく行われるよう、協力を惜しまないこと、環境整備につとめることは当然の責務だろう。

 

 

安定的な皇位継承を確保に向け、政府、国会は活発な論議を


 皇室、皇位に関しては、残された課題も山積している。
皇位が男系で継承されてきたこと、近年においては男系男子に限定されてきた経緯を認識しつつ、他方で、高齢化や女性皇族のご結婚に伴う皇籍離脱により、天皇陛下及び特定の皇族方にご公務が過度に集中し、皇室のご活動の維持や皇位継承資格者の確保に困難が生じることへの対応について速やかに議論が行われるべきである。


一昨年8月 8 日の『象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば』で、「このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ,これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり,相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう,そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく,安定的に続いていくことをひとえに念じ,ここに私の気持ちをお話しいたしました」と陛下が述べておられることを重く受け止め、議論の起点とすべきである。皇室のご活動をどう安定的に維持していくかは、現実に差し迫った重要な課題である。

 

 退位特例法の衆参の附帯決議には、「政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。」等が盛り込まれている。


また、「報告を受けた場合においては、国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、『立法府の総意』が取りまとめられるよう検討を行うものとすること。」との文章が続いている。


 この附帯決議も立法府、各政党・各会派の総意としてまとめられたことを認識すべきである。女性宮家の創設について、様々な議論・意見があることは事実だが、議論をしないことの口実にすることは許されない。政府としては早急に検討を進めるべきである。


 附帯決議は、最終的には国会として立法府の総意をまとめるよう求めているが、政府と同時期に議論したり、政府に先んじて議論をしたりすることを妨げるものはない。この問題で、正副議長のもとの全体会議を再開することができれば理想だが、現状ではなかなか難しいだろうか。


衆議院解散・総選挙後の政党の枠組みの変化、個別議員の引退や当落の影響によってだろうか、皇室に関する国会での問題提起が低調になっているとの指摘もよく聞かれるところである。


 皇室の弥栄祈念し、両陛下、皇太子殿下をはじめとする皇族方の気持ちをくみ取りながら象徴天皇制を支えるために、国会論議は勿論、国民的な議論を盛り上げていくことが以前にも増してますます重要になっていることを強調したい。