霞が関から見た永田町

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プレミアム付き商品券はただのバラマキだ

 

 

 

使い古されたプレミアム付き商品券

 

 消費増税の負担軽減策として、プレミアム付き商品券の発行が検討されようとしている。このような商品券の発行や配布は自民党と連立を組む公明党が事あるごとに主張し、これまでも何度も実施されてきたものであって、既視感が漂う。
 増税すれば、当然に国民の負担は増える。ゆえに、負担軽減策を考えようという発想が出て来ることは分かる。しかし、その策として出て来たのは、使い古されたと言って良いプレミアム付き商品券の発行だ。現在検討されているのは、2万円の購入金額に5000円を上乗せする案である。

 

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 2万円支払った人に2万5千円分の商品券を渡すということを行うのである。言ってしまえば、プレミアム付商品券の発行はお金のバラマキであり、お金を撒くことで増税の実施について目くらましをしようとするのと同義である。
 今回は、商品券購入に関して所得制限を設け、高所得者は購入出来ないようにするとのことだが、子育て支援の意味を込めて、所得にかかわらず0歳から2歳の子どもを持つ世帯も商品券発行の対象とするよう求める方針を公明党は固めたとも報じられている。負担軽減と称したバラマキを、子育て支援というオブラートで包もうというのだ。

 

 

見落とされる事務経費と協力費用

 

 一方で消費増税を行いながら、他方で商品券発行による負担軽減を行う。例えば増税で100万円多く税収を得た上で、10万円を商品券で還元してしまおうということである。
 真っ先に思うのは、そうであるなら、はじめから90万円分の増税とすれば良いのではないかということである。
 百歩譲って、100万円集めて10万円返すとしても、商品券を作成し、配布することに費用がかかることが見落とされている。いわゆる事務経費の問題が見落とされているのだ。

 

 これまでの政府が旗を振って商品券の発行や配布するとなったときには、自治体がその事務を担ってきた。国は今回も自治体に事務を受け持たせればそれで良いと思っているのだろう。その事務には莫大な労力が費やされることになる。もちろん、窓口で手続きを行うこととするのであれば、商品券を受け取るために多くの人が役所に足を運ばなければならなくなる。書類のやりとりで手続を完結させるとしても、書類作成や商品券受け取り、さらに行政側での書類処理の事務負担は当然に発生する。消費増税の負担軽減と言いながら、一方で本来であれば発生しなかった費用が自治体と国民に発生するのである。

 

 

商品券作成の「利権」

 

 ところで、今回も商品券を印刷して配布するのだろうか。
 印刷した券を配布するのであれば、当然に印刷業者に仕事の依頼が入ることになる。無料の商品券が空から降ってくるわけではなく、どこかに作成の依頼がなされ、そこに税金から費用が支払われることになるのだ。プレミアム付き商品券の配布は消費増税の負担軽減策に留まらず、印刷業者を対象とした「公共事業」ともなるのだ。全国で配布されることになることから、相応の量の印刷が必要とされ、そこには「利権」も生まれる。

 

 商品券の配布というバラマキ。受け取る国民は何かを貰える限り、強くは反対しない。印刷業者も、さらには関連する業界も強くは反対しないだろう。強いて反対の声をあげる可能性があるとしたら、実際に配布業務を担う自治体からだろうが、国に歯向かうと不利益を生じさせるというのが現在の日本政府のやり口なので、これも大きな声にはならないだろう。いわば「金で黙らせる」ということがなされているのである。

 

 

検討すべきは給付付税額控除

 

 消費増税に限らず、増税を行うにあたって、特に低所得層に対して負担軽減策を講じること自体には異論はないだろう。問題はその手法だ。費用をかけて商品券をばら撒くのは正解ではない。
 より費用をかけず、必要な人に必要なだけの負担軽減を行う。その方法を検討すべきなのだ。既にその方法は専門家の間でコンセンサスがとられている。その方法は給付付税額控除だ。

 

 もう忘れ去られてしまった事柄に分類されるだろうが、今度の消費増税は当時の民主党政権の野田総理大臣と自民党の安倍総裁、公明党の山口代表との三党合意によって始まったものだ。この三党合意の延長線上には、マイナンバー制度の整備も含まれていた。マイナンバーは主に税と社会保障のために使用される仕組みとして導入されたが、マイナンバーを使うことで、各人の担税力を把握することが出来る。その担税力に応じて、税額控除を行えば、各人の状況に応じた負担軽減策を打つことになるのだ。

 

 給付付税額控除は、税金から一定額を控除する減税であって、課税額より控除額が大きい場合にはその分を現金で給付するというものである。

 

 これも行政手続に対する協力費用は一定程度発生するが、一人一人の状況に応じて直接必要なだけの負担軽減を講じることが出来る点で優れている。もちろん、商品券の印刷のための追加費用は発生しない。
 商品券バラマキといった方法を安易に採用し、不要な追加費用を発生させ、利権までも生み出してしまうというのではなく、国民にとって本当に必要かつ最適な負担軽減策を講じる努力を政府には求めたいところだ。

 

 ところで、毎度のように商品券をばら撒くことを主張する公明党は、給付付税額控除は非現実的であるとし、軽減税率を導入せよと主張していた。

 

 公明党の主張の中で、給付付税額控除の問題点として、以下の四つがあげられていた。

 

●痛税感の緩和を実感できない
●公正・公平な運用が困難
●国民に手間と負担を強いる
●税務署や役所が対応できない

 

 この問題点とされる事柄は、必ずしも給付付税額控除にはあてはまらないもので、当時、給付付税額控除の導入を主張していた民主党に対抗するために無理やり取って付けたものであると言っても差し支えないが、ここで注目したいのはそれら問題点がそのままプレミアム付き商品券の発行に当てはまりそうな点である。

 

 痛税感の緩和が実感できない。確かに、プレミアム付商品券が発行されて、それを購入したとしても、消費増税に伴う痛税感が即座に緩和されるとは考えにくい。消費増税と商品券は別のものと受け取られる可能性すらある。
 公正・公平な運用も困難だ。例えば、所得制限を行うとしながら、一方で子育てしている世帯であれば高所得でもプレミアム商品券を購入可能とするとなると、公平性の点で仮題が残る。
 プレミアム付き商品券は受けるためには、国民に手間と負担を強いるのも間違いない。さらに、役所も対応に追われる。

 

 はからずも、プレミアム付商品券の導入を声高に叫ぶ公明党自身がその問題点を以前指摘していたことになる。それら問題点ゆえに、給付付税額控除が駄目だと言うのであれば、当然、プレミアム付商品券も駄目だと言わなければ平仄は合わないことを心すべきだろう。
 自民党と公明党によって、矛盾に満ちた負担軽減策と称するバラマキと特定業界への優遇が繰り返されようとしている。目先のちょっとお得な商品券に騙されてはならない。