霞が関から見た永田町

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軽減税率は悪手、こんなにも分かりにくい税制は混乱の元になるだろう

 

 

 

コンビニで買ったお弁当。店内のイートインで食べる場合の消費税は10%で、自宅に持ち帰る場合は8%。回転寿司も店内で食べれば8%だが、持ち帰り用に包んでもらうと10%だ。こういう事例は枚挙にいとまがなく、分かりにくさにきわめつけは新聞だ。自宅に届く朝刊の消費税は8%だが、駅の売店で購入する新聞の消費税は10%で、タブレットで読む電子版も10%だ。

 

 

同じものを買っても、ある時は8%、ある時は10%の怪


今年10月15日、安倍首相は来年10月1日の消費税引き上げを表明した。今述べた、適用される消費税が8%か10%かは、増税に伴い軽減税率が導入されることによって具体的に発生する事態だ。なぜこんな状況が発生するかといえば、消費税は所得の多寡に関係なく等しく課税されるため、逆進性が強いと言われている税だ。そのため、低所得者の負担増の懸念から、飲食料品と新聞については税率を8%へ据え置く、「軽減税率」が適用されることになっている。そのため、冒頭紹介したように、同じ飲食でも店内で食べる場合と、持ち帰る場合では税率が異なるという分かりにくい事態が発生することになる。

 

同じもの、同じサービスを受けても、シーンが異なると適用される税率が異なるというのはいかにも分かりにくい。消費増税は国会で一度は決まっているために、今さら変更が効かないかもしれないが、こうした分かりにくさは、消費税増税の本来の目的がぼやけるのではないか。

 

 

軽減税率で生まれる1兆円の穴


この軽減税率の議論で、今後、注目すべき一つのポイントは税収だ。本来、消費増税は社会保障のための安定財源の確保という話だった。その前提はもちろん、今でも変わっていないはずだ。ところが、軽減税率の適用で約1兆円の財源の穴が空くのである。では、その1兆円の穴は一体、何によって埋めようとするのか。ここに対する処方箋は今ところ、政府与党はもちろん、安倍首相からも語られていない。日経新聞の報道によれば、財務省は1兆円のうち7000億円分の税源については、低所得者の医療や介護の負担を軽くする「総合合算制度」の見送りで4000億円、たばこ増税と給与所得控除の縮小で3000億円のめどをつけたという。

 

残りの3000億円については、免税事業者への課税によって2000億円、残りの1000億円は社会保障の効率化や給付見直しによって捻出するというのが今のところの財務省案だ。

 

 

またぞろプレミアム商品券というウンザリする対策


果たして今のままの消費増税で、当初の目的だった財政再建が果たせるのかはなはだ疑問だ。消費税の議論をさらに複雑にしているのが、またぞろ現れた「プレミアム商品券」の議論だ。プレミアム商品券は1万円で購入した券で1万2000円分の買い物ができる商品券のことで、上乗せの2000円分は公費負担となる。消費増税に伴う子育て世代への影響を考えての公明党の提案だが、過去に実施されたプレミアム商品券の政策効果は大してなかったと言われている。

 

プレミアム商品券が効果的な政策とは思えないが、それでも、もしこれを実施するのであれば、軽減税率などはやめて、プレミアム商品券に一本化した方がよほどましだろう。いずれにしても、軽減税率の導入はどう考えても悪手であろう。税の基本は「わかりやすいこと」「公平であること」「払いやすいこと」。軽減税率の導入はこの3つの条件すべてに反している。しかも導入となれば、システム投資からスタッフの教育など現場へのしわ寄せも大きい。実は経団連も日本スーパーマーケット協会も、日本税理士会連合会も、農業法人協会も、主だったところは軒並み、軽減税率の導入に反対している。

 

 

軽減税率に苦言を呈しているのは国民民主党のみ


今の永田町を見渡したところ、軽減税率に反対をしているのは、国民民主党くらいだ。自民党と公明党は軽減税率の導入を検討している立場にあるし、共産党はいうに及ばず、立憲民主党は消費税の増税に反対という立場を表明している。「現時点での増税に反対」と、元々民主党政権時に決定していながら、なんとも不誠実な態度で、それでは一体いつになら増税に賛成なのか、というKPIを示している。

 

こうした永田町情勢を見たときに、国民民主党が今度、どれだけ是々非々の立場で論陣を張れるか、そこは一つ見モノである。