トランプ大統領が一向に引く気配を見せない。アメリカと中国の間で繰り広げられる貿易戦争は日増しに苛烈さを極めている。米政府は事実上、ファーウェイを標的とした大統領令に署名し、米国籍の企業に取引を禁ずる企業のリストへ組み込んだ。
これを受けて、グーグルは5月19日、ファーウェイ向けのソフトウエアの出荷を停止し、今後、ファーウェイ製品ではGmailやGoogle Playなどが利用できなくなる見込みという。
アマゾンにも動きが見られる。アマゾン・ジャパンのサイトでも、ファーウェイ製のスマホを販売するページでは、「本製品はOS(オペレーションシステム)等についての重大な懸念が発生しています。本製品に関するお問い合わせはメーカーコールセンターまでお問い合わせください」という警告文が表示されるようになった。
アームの衝撃
さらに驚いたのは、半導体設計大手のアーム・ホールディングスのファーウェイとの取引中止の報道だ。本件はすでに数多くのメディアが報道しているが、「アーム・ホールディングスがファーウェイとの取引を停止するよう従業員に通知した」、という。メディア報道の情報源は英国放送協会BBCである。国家安全保障や外交政策上の懸念があるとして、アメリカが「エンティティー・リスト」と呼ばれる取引禁止対象リストにファーウェイを載せたことを受けての措置と言われている。
このニュースの衝撃は計り知れない。スマホ向けの半導体、チップセットはクアルコムやアップル、サムスン電子、メディアテック(台湾)など大手が存在するが、そのいずれも、半導体やチップセットの設計図をアーム・ホールディングスから供給を受けている。アーム・ホールディングスは半導体やチップセットの設計情報のライセンス供与でビジネスをしている企業で、今回の同社の方針決定により、ライセンスを受けている半導体メーカー各社はそのチップセットをファーウェイには供給できない、ということになる。
2018年のZTE とは異なる
ファーウェイはスマホだけでなく、5Gでも通信装置の開発では先頭を走る企業の一つであったため、今回の一連の米中貿易戦争は、双方引くに引けない状況に陥りつつある可能性が高い。トランプ大統領は2018年にZTE にも同様の対応を示したが、5Gの基幹インフラの開発まで手がけるファーウェイと、スマホでビジネスをしているZTEでは、一連のアメリカの対応の重み、影響は格段に違う。
この辺を中国側がどう受け取るか、は予断を許さない。中国も国家のプライド、それ以上に産業政策の視点からアメリカに押し込まれたまま、というわけにはいかないと思われるからだ。
日本の部品メーカーを直撃
そして、これらの米中貿易戦争は日本の産業界に大きな影響を与えそうだ。ファーウェイのスマホを構成する、カメラ撮像素子、メモリ、液晶ディスプレイ、GPS、各種センサなど日本の部品メーカーの製品が数多く使われているからだ。ファーウェイへの部品供給がストップすれば、それは日本企業にとって大量の在庫発生、工場の稼働率低下に直結し、それはとりもなおさず、経営リスクとして直面せざるを得ないだろう。
もちろん、企業間の取引に国が口を出すべきではないのは前提としても、ことの発端は米中間の貿易戦争であり、トランプ大統領が掲げる自国第一主義、保護貿易主義が色濃く影響している。その政治リスクが企業の経営問題を直撃しかねない状況を鑑みれば、この件に関しては日本国政府は両者の仲介に入るなど、より積極的なアクションを起こしてもいいはずだ。今後の国会論戦の中で、今回のファーウェイ制裁措置を巡る日本の対応について議論が活発に行われてほしいものだ。