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佐川氏の証人喚問後の展開を考える

 

 

 

一年前は籠池氏の証人喚問だった


 森友学園の前理事長の籠池泰典氏の証人喚問が行われたのが2017年3月23日であった。それから一年が過ぎ、今度は森友学園の問題について国会で答弁に立っていた佐川前国税庁長官の証人喚問が行われることになった。


 籠池氏の証人喚問後、ここまで問題が長引き、その全容が明らかになっていないことを考えると、佐川氏の証人喚問を行った程度で問題の全容が明らかになるとは考えにくい。今回は財務省における文書改竄が主要な論点となることから、森友学園問題の核心部分は茫洋としたままになることが容易に予想される。
 
 ここで考えておきたいのは、佐川氏の証人喚問後の展開である。

 

 

証人喚問の連続実施は考えにくい


 証人喚問は、その内容の如何にかかわらず、それを行うことで問題が一段落したような雰囲気になってしまう。そういうことがこれまでも繰り返されてきた。証人喚問がある種のガス抜きになってしまうのだ。今回も官邸や与党はそのようなことも意図して、野党の要求を飲み、佐川氏の証人喚問に応じたという側面があるだろう。
対して、野党としては、佐川氏の次には、森友学園との交渉が行われていた時期に財務省の理財局長であった迫田英典氏や何らかの働きかけを行ったのではないかとの疑惑のある首相夫人の安倍昭恵氏の証人喚問を求めていくことになる。二の矢を継ぎたいところなのだ。

 

ここで確認しておく必要があるのは、現在の安倍政権下では、証人喚問が行われること自体が異例であり、連続しての証人喚問の実施は考えにくいということだ。あまり指摘されてはいないが、第2次安倍政権における証人喚問は昨年の籠池氏に対するものが初めてであった。国会の圧倒的多数の議席を与党が占める状況が続いていることから、野党が証人喚問を要求しても、それを与党が拒否することが出来たとも言える。
今回は政権の支持率も急落しており、佐川氏の証人喚問も仕方なしといったところであろうが、さらに証人喚問を続けて行うということにはなれば、安倍政権が危機的な状況に陥ったと強く印象付けることにもなる。佐川氏に引き続いての関係者の証人喚問は行われないと考えておくのが無難だろう。

 

 

 昨年は加計学園問題が浮上


 野党には、ここで怯まずに、関係者の証人喚問の要求も含めて、問題の真相解明のために追及の手を緩めて欲しくないところだ。「他にもっと重要な問題がある。野党は何をやっているのだ」という批判も当然に予想されるが、森友学園の問題は、国有財産を不当に安く売却したというだけではなく、財務省における文書改竄などに発展しており、決して小さな問題ではなくなっている。たとえ安倍総理や麻生財務大臣が森友学園への不当に安い国有地の売却を把握していなかったとしても、それとは別の問題として、財務省幹部による国会での不誠実な答弁や文書改竄について、その原因を明らかにし、再発の防止が必要とされるのだ。


 財務省が勝手に国有地を安く売却した疑いがあり、その経緯を国会が確かめようとしたら文書を廃棄したと虚偽の答弁を官僚が行い、都合の良いように文書まで改竄していたとなれば、本来は与野党を問わず、国会として問題追及に努めなければならないはずである。その先鞭をつける意味でも野党の役割は重要となる。

 

 ここで注意を払う必要があるのは、戦線の拡大し過ぎないようにすることである。

昨年は、籠池氏の証人喚問後、森友学園問題についての追及は一段落した感があり、加計学園問題へと世間の関心も移って行った。


 実際、今年もここにきて、加計学園問題に関して今治市が文書の改竄を行っていたのではないかという疑惑、あるいは、1月に開催された加計学園獣医学部の市民説明会に多くの参加者を得るために、今治市の教育委員会が教職員や保護者らの動員を呼びかけていたという疑惑が報じられている。
今後は、佐川氏の証人喚問で思うような回答を得ることが出来ず、また関係者のさらなる証人喚問の要求が拒絶されるという展開が予想される。そうなると、問題を追及する野党も加計学園問題について新たに生じた疑惑に目を転じたくなるはずだ。
 そうして、森友学園の問題から加計学園の問題へと追及の重心が移っていく。これが昨年私たちが目にした光景である。その結果、両問題とも核心に迫ることは出来ず、安倍総理の突然の解散によって問題は有耶無耶にされてしまったのだ。
 加計学園の件も重要ではあるが、森友学園の問題を第一に据えて、粘り強く真相解明に注力していくことが野党には求められている。

 

 

政治と行政の関係にどこまで踏み込むことが出来るのか


 既に、大阪地検特捜部が財務省理財局や近畿財務局の複数の職員に任意の事情聴取を行ったことが報じられている。さらに、国会の証人喚問の後には任意で佐川氏にも事情聴取を行うとも報じられている。


 今後、国会の審議で森友学園の件が取り上げられても、この検察の捜査を理由に政権側は正面からの答弁を行わないことが予想される。そのうち、加計学園の問題やその他の喫緊の課題が話題になるようになり、森友学園の問題もまた風化していく。これが現在の安倍政権が描くシナリオだろう。

 

 検察の動きによって国会での調査に支障が生じてしまうとしても、安倍政権として各府省の活動をどのようにコントロールしていくのか、政権のガバナンスのあり方については国会で議論が出来るはずである。


 先ごろ、前文部科学省事務次官の前川氏が名古屋市内の公立学校で授業を行ったことにつき、快く思わない自民党の議員が文部科学省の幹部に個別に問い合わせを行い、名古屋市の教育委員会に質問状を送らせていたことが明るみに出た。この件からも推察されるように、政治と行政の関係、さらに言えば、政権与党と各府省の関係が歪なものになっている。


 今回の森友学園をめぐる一連の問題も、その歪みのひとつの症例である可能性がある。政権与党は府省との関係から、この問題に正面から取り組み難いのは明らかであり、府省からは遠い存在になっている野党こそがこの問題に正面から向かい合える。
 森友学園の問題に留まらず、そこから現在の日本の官僚制や安倍政権のガバナンスの問題にいかに迫っていくのか。「政権担当能力がない」との批判が野党には向けられるが、現在の安倍総理や自民党の政権担当能力にも疑問が生じているということを、国会の審議の場で野党は明らかにしていきたいところである。それが出来ないと、森友学園問題で野党がただ騒いでいるという矮小化された批判の声が大きくなりかねない。