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遺伝子組換え表示制度問題から透けて見える農業政策などの課題(1/2)

 

 

 

消費者庁が遺伝子組換え農産物の表示制度の厳格化に動く

 

 3月28日、消費者庁は「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書」(検討会の座長は湯川剛一郎・東京海洋大教授)を公表した。遺伝子組換え農産物(GMO: Genetically Modified Organism)の表示制度は発足以来およそ17年が経っている。その後の様々な事情の変化を勘案して、表示制度の一部を見直す方向性を出している。


 昨年4月末より検討会は10回開催され、消費者団体(1回)、事業者等からのヒアリング(2回)も経た上で、今年の3月14日に検討会の報告書(案)がとりまとめられている。

 

 現状維持が多いが、厳正化されるところもある。現行では分別生産流通管理(Identity Preserved Handling)が行われた農産物のうち、非遺伝子組換え農産物については任意表示の制度があり、「遺伝子組換えでないものを分別」「遺伝子組換えでない」と表示することができる。


 この部分について、報告書は遺伝子組み換え(GM)農産物の(意図せざる)混入率を「5%以下」と条件としているところを「不検出」に引き下げることが適当との方向性を出している。つまりルールは厳正化されることになる。
大豆やとうもろこしなど8つの作物と、納豆、豆腐、お菓子など33の加工食品が表示対象となっており、醤油や食用油などにも拡大すべきだとの意見もあったが検証が困難との理由で見送られた。

 

 今回の消費者庁の報告書も含め遺伝子組換え作物、あるいはその制度に関わることを論評することは極力避けたい。GM作物について議論を行うと議論がヒートアップして、要らぬ対立を招くこともあり得るし、GMOに関わる科学的な識見も有していないので、深入りのコメントをすることには慎重でありたいと思う。


 ただ、遺伝子組換え作物について議論をすると、農業、食料安保、食の安全などそこから透けて見えてくる問題がある。今回の遺伝子組換え表示制度の見直しの議論をきっかけに、そうした問題を俯瞰してみたい。

 

 

自国では商業栽培もされていないのに、GM作物を大量に輸入する日本

 

 日本の食料自給率が低水準にとどまる中、世界全体で見ると、遺伝子組換え農産物の作付面積は急激に伸びている。消費者庁の報告書には以下のように記されている。


現在、我が国の食料自給率は低下傾向で推移しており、国内で消費する大豆や穀物とうもろこしなどの大部分を輸入に依存している。なお、平成 27 年(2015 年)に国内で消費した大豆及び穀物とうもろこしに占める食用仕向量の割合は、それぞれ 95%及び 31%である。


現在、我が国において遺伝子組換え農産物は商業栽培されていないが、全世界における遺伝子組換え農産物の作付面積は増加傾向にあり、平成 27 年(2015 年)は1億 7970 万ヘクタールであるほか、平成 27 年(2015 年)の米国における遺伝子組換え農産物の作付面積割合は、現行制度施行時の平成 13年(2001 年)に比べて大幅に増加している。以上のことから、輸入農産物における遺伝子組換え農産物の割合が増加している可能性が高い。

 

 世界の遺伝子組換え農作物の作付面積割合が高いのは、大豆、とうもろこしであり、この二つでおよそ8割を占める。日本は大豆、とうもろこしを大量に輸入しており、この二つの農作物はそれぞれ72%、80%をアメリカから仕入れている。面積で見ると、アメリカの大豆は94%、92%がGM作物であり、世界のトップを走っていることが理解できる。


 そして主要先進諸国の中でも日本の食料自給率が低いことは国民にもよく知られている。農林水産省のウェブサイトによると、2017年度のカロリーベース総合食料自給率は38%であり、アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%と他の主要先進国は遥かに高い水準にある。

 

 報告書にもあるように、日本では遺伝子組換え農産物の商業栽培はされていない。きちんと法的手続きを踏めばできないことはないのだが、結果としてやる人がいない。遺伝子組換え農作物を忌み嫌う風土があることは否定できない。


 食料自給率が低いという背景もあるが、他方でGM作物との可能性が高いとうもろこし、大豆などを大量に輸入しているのが日本の実情である。そしてアメリカに著しく依存する構造が見てとれる。安全保障と似ているところがある。


 アメリカ独立宣言の10年前に、ベンジャミン・フランクリンがとうもろこしについて語った文章を以下に紹介しておこう。それからおよそ250年経った今、とうもろこしをはじめとする穀物はアメリカの戦略物資となり、日本はそのお得意さん、悪くいうと“カモ”にされている面も否定できない。

 

私は潔く認める。私たちは、インディアン・コーンから作った食べ物を自分たちで食べるように、奴隷にも与えている。あなたが考えるように、それが「消化できずに、健康に悪い」からではなく、奴隷を健康にし、強くし、活発にし、彼らに要求する全ての労働をやり抜くことに適しているからである。(Homespun, “Further Defense of Indian Corn”, The Gazetteer and New Daily Advertiser, January 15, 1766 --*Homespunは、ベンジャミン・フランクリンのペンネーム)

 

 

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