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遺伝子組換え表示制度問題から透けて見える農業政策などの課題(2/2)

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農業政策、食の安全などを束ねる一貫した政策体系が見えない

 

 以上のように、遺伝子組換え農作物を巡る論点にちょっと触れるだけでも、日本の農業が直面している課題、場当たり農政の問題点が透けて見えてくる。

 

 日本の農業は以下の3つの点で大きな岐路に直面している。第一に、食料自給率の低下が続き、食の安全・安心に対する不安が高まっていること。第二に、農村が崩壊の危機に瀕しており、地方の生活・経済基盤が瓦解しつつあること。第三に、地球温暖化や地球規模での資源問題に対する戦略が必要であり、中国をはじめとする新興国の食料需要の高まりへの対応が求められていること。

 

 効率化・合理化の視点も必要だが、底の浅い新自由主義的なムードに乗って、無節操に大規模効率化を優先させてきた日本の農業政策の在り方について、安定的な食料生産、気候の安定化、生物多様性を確保する観点から、抜本的な見直しの必要性を突きつけられている。自公政権には、農業政策、食の安全などを束ねる一貫した政策哲学・体系が見えない。TPPに反対して政権に返り咲いた安倍政権だが、公約との矛盾については未だに納得のいく説明がなされていない。

 

 なお民進党の議員も入っている「無所属の会」をはじめとした野党6会派は、2月28日、衆議院に平成30年度予算の組替え動議を提出しているが、農業者戸別所得補償制度の復活(0.8兆円程度)、養豚経営安定化対策(豚マルキン)補填率引き上げ・国庫負担率引き上げに関する項目も盛り込まれている。政府調査(2011年4月)によれば、農業者の4人に3人が民主党政権の導入した戸別所得補償制度を評価していたという経緯もある。

 

 野党会派がこうした農業政策に関する予算の組替えを求めていたことは注目に値する。2013年末に安倍政権が掲げた農業・農村所得倍増計画が本当に農家のためになっているのか、新しい米政策は外国人と家畜のための米ばかりを作らせ、日本人のためにならないのではないかという問題意識にも根差すものである。

 

 

総合的な見地から農業政策の議論を

 

 といっても内向きの守りの姿勢だけですべてが解決するわけではない。国際的なアグリビジネスの動きには敏感でなければならない。

 

遺伝子組換えの話から入ったが、まさに農薬・種子の部門では、世界的な大再編が進んでいる。ドイツのバイエルが遺伝子組換え種子の最大手であるアメリカのモンサントの買収へ、アメリカのダウ・ケミカルとデュポンが統合へ動いた。スイスのシンジェンタは中国化工集団(ケムチャイナ)の傘下に入ることになり、世界に衝撃を与えた。

IT、エネルギー、自動車、金融、宇宙などあらゆる分野で中国系の企業の活動が目立つが、農薬・種子の分野にも進出していることを重く受け止めなければならない。

 

 英国労働党を現実路線に立たせ、ブレア政権の樹立・運営においても大きな役割を果たした英国の社会学者であるアンソニー・ギデンズは新しい時代が直面するリスクとして、「つくられたリスク」(manufactured risk)に着目している。ギデンズは、「つくられたリスクは私たちが歴史的経験としてほとんど直面したことのないリスク状況である。地球温暖化と結び付いているような大部分の環境のリスクは、このカテゴリーに区分される」(Giddens, Anthony, Runaway World -How Globaliation is reshaping our lives-, Profile Books, London,2002) と指摘している。

 

 ギデンズが主張する「つくられたリスク」の典型的な事例として地球温暖化とGMOがある。とはいっても、ギデンズは、科学に敵対的な姿勢をとる思想的、宗教的な動きには否定的であり、「グローバル時代に生きることは新しいリスクの状況の多様性に対処することを意味する。科学的革新や他の変化を支持することにおいては、われわれは極めて頻繁に慎重であるよりも、大胆であることを必要とする」 として、グローバル化に真っ向から反対したり、科学の発展を全面的に否認するような態度とは一線を画している。

 

 なんだかまとまりのない小論となってしまったが、農業問題を語ると、食料安保、地域経済、食の安全、消費者政策などとも関連する。当然、国際情勢、貿易問題との関りも深い。

 

遺伝子組換えのみならず添加物、農薬、抗生物質など技術・科学とも切り離せない領域であり、そうした知見・識見を有する専門家の意見を十分に聞いていく必要がある。同時に専門家だけではなく、一般の消費者・生活者としての視点も無視はできない。

 

 いずれにせよ、場当たり的にスローガンを掲げて、「農村所得倍増」と叫んでいればいいわけではない。農業政策は「自由化」「保護主義」という単純な割り切れるものではなく、奥の深い課題であり、じっくり熟議を重ねていって対応していくものであることを強調したい。