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世界から遅れる日本、キャッシュレス決済社会への転換

 

昨年12月、年の瀬も迫る24日の日経新聞に次のようなタイトルの記事が掲載された。「現金大国日本に重いコスト、ATM維持に年2兆円」。

 

www.nikkei.com

 

 

 

 

日本は世界でも有数の現金決済の国だ。クレジットカードや電子マネーなど現金ではない決済、いわゆる非現金決済取引の割合は、韓国が約90%、中国60%、カナダ、オーストラリア、スウェーデンなどが約50%、アメリカが45%となっている。一方、日本は18%と、日常の個人消費は基本的に現金決済となっている。

 

よく知られた話だが、中国では非現金決済が急速に普及しており、アリペイやウィーチャットペイに代表されるように、QRコードと銀行口座を紐づけて、スマホで簡単決済が当たり前の社会になっている。年が明けて2018年に中国政府がアリペイやウィーチャットペイなどの決済額について1日の上限を500元に制限するというニュースが流れた。このニュースに動揺が走った姿は日本とは対照的だ。それほどまでにキャッシュレスが浸透しているのである。

 

 

今や海外旅行は現金不要

 

世界で急速に進むキャッシュレス化社会は海外旅行に出かけると、より痛感するだろう。かつて海外旅行といえば、出国前にトラベラーズチェックに交換したり、外貨に交換したりした。

 

トラベラーズチェックは2014年にその役割を終えたが、今や外貨交換も不要になりつつある。なぜなら、クレジットカード一枚あれば、公共交通から飲食、宿泊、観光と決済が可能だからだ。海外へ行けば、街の小さな食堂でさえ、クレジットカードは当たり前に使えて、お店も慣れている。食事の際に支払うチップですら、今やクレジットカードで決済できる。筆者はこの一年の間に、アメリカ東海岸、西海岸、シンガポールの3箇所に出張・旅行で出かけたが、いずれも現金を一度も使うことなく、滞在できた。

  

 

オリンピックを日本はどう迎えるつもりなのか

 

日本にとって考えなければならないのは、2020年のオリンピックだろう。こうした非現金決済が当たり前の社会で生活している世界中の人たちが日本にやってくるのだ。海外からやってくる人たちは日本の現金主義に驚くだろう。

 

非現金決済が当たり前の国では、ファーストフード店などでの決済も日本とは異なる風景がそこにある。一応、今までのように対面型レジは残っているが、メインは大型ディスプレイを使った決済システムが店頭にズラッと並び、クレジットカードやデビッドカードなどで簡単に決済できるようになっている。

 

このシステムがいいところは、対面型レジと異なり、言葉の壁も小さいことだ。大型ディスプレイに表示されたメニューを見て、タッチして選べば、仮に言葉のコミュニケーションに難しさを抱えていても、決済は可能だ。現金大国・日本はこうした決済系で世界と相当な開きがある状態で2020年を迎えようとしている。こういう現状は与野党の垣根を越えて、対応していくべきだ。

 

 

ようやく動き始めた政府

 

もちろん、国も手をこまぬいているわけではない。2014年ころからキャッシュレス決済社会に向けて政策の準備を進めている。2014年12月には内閣官房および経済産業省等の関係省庁が「キャッシュレス化にむけた方策」を発表し、2015年にはクレジット取引セキュリティ対策協議会を発足。また同年にはクレジットカード産業とビッグデータに関する調査・研究をスタートさせている。

 

キャッシュレス決済の導入は数多くのメリットがある。米国の調査機関のリサーチによれば、キャッシュレス決済の拡大によって、2011年から2015年の間に実質GDPが0.1%、家計消費が0.4%、新規雇用を年平均で260万件増やしたという。これは世界全体の話だが、キャッシュレス決済の導入は国の経済対策としても、ワークすることを示す一つの材料と言っていいだろう。

 

あるいは、地下経済や犯罪、テロ資金の縮小という利点もあるし、個人のレベルで見ても、取引の迅速化やATMなどで現金を引き出す手間の省力化など、メリットは計り知れない。ただ、いかんせん、動きが遅いと言わざるを得ない。2020年まで、2年しかないのである。

 

 

野党は代表のバックグラウンドを積極的に活用すべし!

 

今の野党を見渡すと、民進党の大塚代表は日銀出身、希望の党の玉木代表は財務省出身であり、経済対策を打ち出すには、ぴったりの布陣だ。次の国政選挙が2019年夏と、1年以上の猶予があることを思えば、今こそ、政局に汲々とせず、腰を落ち着けて自らの存在意義と向き合い、自民党からはなかなか出てこない、独自のビジョンを掲げてほしいところだ。そして、本当はそれができるだけの優秀な人材も集まっている。ぜひとも、世界の動きを幅広く捉え、この国にとって本当にやるべき改革は何かを見定めて、政策論争によって二大政党制の確立を目指してもらいたいものである。