霞が関から見た永田町

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ドルで見たアベノミクス、GDPは成長どころか減少へ

 

名目GDPは政権交代前の493兆円が543兆円に、株価は8664円が20397円に、有効求人倍率は0.83倍から1.53倍に、正社員求人倍率は0.5倍から1.01倍に等々、アベノミクスの成果が喧伝されている。そのたびに、株価は上がってもその恩恵は一般の人には行き渡らなかった、給料は増えなかった、安倍政権が説明したトリクルダウンはなかったなど、反対論が展開され、アベノミクスの評価については賛否両論、渦巻いている。

 

 

議論百出で、「結局、アベノミクスは成功しているのか、失敗だったのか、どっちなんだ?」という声は多い。アベノミクスが本当に成功しているなら、なぜ、国民の生活は一向に向上していないのだろうか。暮らしが良くなっている実感がないアベノミクスは一体、誰のためになっているのだろう?アベノミクスに懐疑的な人たちからはこのような声が聞こえてくる。

 

安倍政権以降、日本経済はまったく成長していない

 

この議論百出のアベノミクスに対して、シンプルな答えを出してくれるのが、ドルベースで見た名目GDPの推移だ。結論から申し上げよう。日本経済はまったく成長していない。それどころか世界から見た日本経済は縮退の一途を辿っているのである。もう、これが全てだ。何をどう言おうとも、この現実は変えようがない。

 

 

ドルベースで見た名目GDPはアベノミクスがはじまった2012年で6兆2032億ドル。これが2017年だとどうなっているのか。驚くなかれ、4兆8412億ドル(IMFによる2017年4月時点での推計値)なのである。ちなみに民主党政権時代のドルベースで見た名目GDPは、5兆2313億ドル(2009年)、5兆7001億ドル(2010年)、6兆1574億ドル(2011年)だ。

 

日本経済の国際的な購買力は減少の一途をたどる

 

国民の生活実感をより反映するという意味では、一人当たりのGDPで比較するのがいいと言われているので、ドルベースで見た一人当たりのGDPの数字も見てみよう。アベノミクスがはじまった2012年が4万8632ドル、2017年で3万8281ドルと、やはりこちらも下落している。国民の生活実感が向上していないわけである。ちなみに、こちらも民主党政権時代を見ると、4万1014ドル(2009年)、4万4673ドル(2010年)、4万8168ドル(2011年)。アベノミクスの金融政策によって為替は円安に誘導されているために、日本経済の国際的な購買力は減少しているということになる。

 

 

これは海外旅行に行くと実感する。あるいは日本にやってくる訪日外国人観光客が日本の物価を安いと感じていることからも分かる。これは単に為替レートだけの問題ではなく、日本人の購買力が減少していることに起因する。数年前にアメリカから上陸した高級ハンバーガー「SHAKESHACK」のハンバーガーは1個、680円、これにビーフパテをダブルにしたり、トッピングしたりすると、あっという間に1000円を超える。これにドリンクやポテトなどサイドメニューをつければ、2000円程度になる。現在の為替レート112円が仮に円高に振れて90円になったとしても、1800円のランチだ。日本人が毎日、食べられる金額ではない。

  

 

日本の経済は世界で一人負け 円比較GDPは世界競争の中では無価値

 

ドルベースの話を持ち出すと、決まって出てくる批判がある。「日本は円で生活しているのだから、ドルベースで議論する必要がないのでないか」。しかし、この批判は当たらない。それは世界各国の経済を比較する際に、基軸通貨であるドルに換算して、その国の経済が伸びているのか、停滞しているのか、比較するからだ。例えば、中国経済が伸びているか、イギリス経済が伸びているか、それぞれ元で、あるいはポンドで見ているだろうか。違うだろう。しかも、経済活動は日本一国で完結するわけではない。電気一つ取っても、原油を輸入してはじめて得られるエネルギーであることを考えると、国の経済はドルベースで把握しておくべきだろう。アベノミクスがはじまってこの間、世界各国の名目GDPはドルベースで比較しても、どの国も成長している。日本のようにGDPが減っている国はないのである。

 

 

これらの話はアベノミクスをためにするための議論ではない。為替トレーダーなど、実際に国際金融の最前線に立っている金融マンが日常的に意識し、顧客に説明していることだ。「日本経済は実は成長していない」。

 

 

日本の経済は世界で一人負け、というのが実態であり、経済成長で国民の生活を豊かにするというアベノミクスの戦略はうまく行っていないといっていいだろう。

 

 

国際的な経済力が落ちたのはアベノミクスの問題

 

円ベースで比較すると、経済成長したように見える名目GDPがドルベースで見るとまったく成長していないのはなぜかというと、この間、為替レートが円安になっているからだ。その円安はまさにアベノミクスの金融政策に起因する。超異次元の量的緩和策、いわゆる「黒田バズーカ」を発表して以来、政権と日銀は二人三脚でこの政策を推進してきた。経済をテコ入れするための瞬間の策としては有効だとしても、4年も5年も続けてきたところに、大きな問題がある。

 

 

黒田バズーカを発表以来、日銀は国債やETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)を毎年80兆円超も買い続けてきた。ETFだけでも毎年の買い入れ総額は6兆円で、日銀によるETFの保有残高は約15兆円に膨らんだ。これが株価の下支え効果にはなったもの、本来の目的である物価目標、インフレ率2%は達成しておらず、むしろ、株価形成を歪めてしまっている。

 

 

市場では相場が下落するたびに日銀の買いが意識され、株式を売りにくい雰囲気が醸成されている。現在の2万円を超える日経平均株価はまさに官製相場である。上場企業の4社に1社で日銀が安定株主になったとの報道もある。これではバブル経済のとき、企業がお互いに株を持ち合うことで株高を演出していたのと何が違うのだろう。本来、短期決戦で決着すべき異次元緩和が何年も続いていることから、マーケットの価格発見機能が低下しているのではないか、という懸念もある。

  

 

本来やるべき改革に着手していないアベノミクス

 

ここへきて国会でもアベノミクスが採ってきた金融緩和策の出口戦略が論じられるようになってきたのは、その出口が非常に難しいからだ。日銀はETFの買い入れについて、「現時点では株式市場の価格形成能力を歪めているという副作用よりも、市場のリスクプレミアムに働きかる利点の方が上回っている」としている。

 

 

ただ、そう遠くない将来、出口の問題にぶち当たる。株式は必ず売却しなければならないからだ。長く続く官製相場にあって、日銀が保有するETFを売却するというニュースが流れた時、マーケットはどう反応するだろうか。日本のマーケットは日銀が下支えするものという認識が織り込まれているマーケットにとって、そのニュースは株価下落のトリガーになることは十分、予見されることだ。

 

生産性の向上に如何に手を付けられるかが今後の焦点

 

本来、日銀による異次元緩和はマーケットにお金を供給するために一次的なカンフル剤のはずだった。カンフル剤が効いている間に、日本がやらなければならかったのは、生産性の向上だったはずだ。残念ながら、日本は人口減少社会に突入している。労働人口は今後、坂を下るように減少していく。少ない人数で同じ量の生産性を確保する機械化への投資や、最低賃金の大胆な引き上げによる事業統合の促進など、生産性向上策を打ち出していかなければならないが、そこに手をつけてこなかったのがアベノミクスでもある。

 

 

日本の労働生産性はアメリカの6割程度と言われており、1990年代だと3/4だったことからすると、例えば、アメリカと比較しても日本の労働生産性は伸びていないということになる。生産性が上がれば、働く人の給料が上がり、税率を据え置いたり、保険料率を同じ水準で維持したとしても、国庫に入る税収や社会保険料は増えるため、今後、増大する社会保障費の賄うことができる。

 

 

この一点を見ても、冒頭触れた日本のGDP、あるいは国民一人当たりのGDPが増えていないことがいかに大きな問題か、わかるだろう。確かに目先の問題としては日銀がETFを買うことでマーケットの下支えになり、株価は維持されている。しかし、それによって日銀のバランスシートは毀損し、その出口戦略は非常に難しくなりつつある。本来、この異次元緩和を敢行している間に、アベノミクスの第三の矢である、規制緩和や働き方改革、労働生産性の向上に着手しなければならなかったのだが、その肝心の部分には手はつけられなかった。これがアベノミクスの実態である。