トランプ大統領の訪日、無事終了
4日間に及ぶトランプ大統領の日本訪問が終わった。令和初の国賓であったが、大きな問題もなく、無事日程を終えることが出来て、関係者も一安心だろう。特に今回は4日間の日程で、ゴルフ場や国技館、炉端焼き店、横須賀基地と、通常の外交日程で訪問する場所とは毛色の異なる場所への訪問もあり、その準備や当日の対応はいつも以上に気を遣ったはずだ。
いずれの日程もつつがなく終えることでき、安倍総理とトランプ大統領の蜜月関係を内外に示すことが出来たことは大きな外交成果と言えるだろう。
もちろん、接待が過剰であったという批判もあろうかとは思うが、不満に思うよりは上機嫌であってくれる方が好ましく、気持ち良くトランプ大統領が帰国してくれたのであれば、それでひとまず十分だろう。ただ、表面的な友好ムードに押し流されると、今回のトランプ大統領の訪日の結果を見誤る。
今回のトランプ大統領の訪日について、無条件にそれが安倍総理の外交成果だとすると、それは間違いではないだろうか。
トランプ大統領の「勇み足」
訪日期間中のトランプ大統領によるツイートが話題になった。
Great progress being made in our Trade Negotiations with Japan. Agriculture and beef heavily in play. Much will wait until after their July elections where I anticipate big numbers!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) May 26, 2019
大相撲観戦を控えた時間にツイートされたものだ。
農業分野と牛肉に関して日本との交渉に大きな進展があったというのだ。そして、7月の選挙で安倍総理が大きな勝利を上げるまで、多くは公開しないので、それまで待って欲しいとしている。
後段の選挙に関して「elections」と複数形になっていたことから、夏に衆参同日選挙を行うと安倍総理がトランプ大統領に伝えたのではないかと色めき立ち、前段の交渉の進展について日本ではあまり触れられていない。こちらの「大きな進展」は日本側から見た時には「大きな譲歩」であった可能性がある。この点につき、十分な関心を払うべきだろう。
この点について、即座に的確なコメントを寄せたのが国民民主党の玉木代表だ。
トランプ大統領の上記のツイートに言及して、日米貿易交渉について心配事が増えたとし、「どのような方向性が出たか、参院選の前に国民に明らかにする責任がある」と明言した。
外交に直接関わることが出来ない野党の代表として、これは極めて的確な問題の指摘である。
一部には日本にとっての進展であって、アメリカが譲歩したとの観測もあるようだが、それは随分と楽観的な「妄想」や「願望」に過ぎないだろう。トランプ大統領がツイートするくらいであり、しかも選挙後まで明らかにしないというふうに日本側への配慮を見せている以上、アメリカ側にとって得るところの大きな進展があったと見るのが自然だ。
安倍総理の選挙における大きな勝利とまで言っているのだから、トランプ大統領も安倍総理の勝利を期待しているということである。そうであるからこそ、もし日本側に利益となるのであれば、何もわざわざこの段階で隠し立てする必要はない。選挙を側面支援する意味も込めて、この段階で、成果を明言してしまえば済むことである。
この段階でアメリカ側の成果を公にすれば、それが日本側の選挙に影響を及ぼす。そして、その影響は安倍総理の勝利にとっては負の影響だと考えるから、選挙後まで待つようにと表明しているのだ。
外交は国益を争う場である
このトランプ大統領の「勇み足」からも示唆されるように、日米の間では様々な交渉事があり、どうやらその少なくない部分で日本側が譲歩を強いられている。しかも、その結果は、大分遅れて日本国民には知らされることになる。
今回のトランプ大統領の訪日で、日米の同盟関係の緊密ぶりを内外に示すことが出来たとする声が大きいが、その裏では日本が大幅な譲歩をしていたのかもしれないのだ。
安倍総理は外交が得意であると勘違いしている層は、この緊密な両国の関係という分かりやすい絵を見せられて、その勘違いを続けてしまうわけだが、きちんと外交の裏側にも思いを巡らせるべきだろう。
日米両国の首脳の親密ぶりを見て、素晴らしいことだと思う日本国民も多いことだろうし、実際、首脳同士が親密なのは良いことだが、一方で、外交は国益を争う場であることを忘れてはならない。
安倍総理とトランプ大統領は横須賀基地で、いずも型護衛艦「かが」に揃って乗艦し、海上自衛官と在日米軍人を前に訓示した。日米首脳が揃って自衛隊と米軍を激励するのは史上初めてであり、これも日米同盟が強固になったことのあられと安倍総理も強調するところだ。
しかし、その「かが」に搭載するF35Bステルス戦闘機を日本が多数購入することになっていることを忘れてはならない。
トランプ大統領はこの日本のF35Bステルス戦闘機の購入により、アメリカの貿易赤字の解消が進むとして歓迎する旨を表明している。
トランプ大統領はアメリカファーストを体現し、アメリカの国益のために行動している。貿易交渉を自国に有利なように進め、必要とあれば戦闘機もセールスする。
例えば戦闘機は日本にとっても必要な買い物かもしれないが、必要以上に購入する必要は当然のことながら無い。貿易交渉も譲歩ばかりでは、日本の国益を損なうばかりである。
首脳同士の親密さは外交にとって重要ではあるが、だからといって、それがあれば全て解決するというわけでもない。相手方であるトランプ大統領はタフに自国の利益を追求してくるのであるから、笑顔で握手をしながら、きちんと日本側の国益を安倍総理には追求して欲しいものである。
仲の良さの演出だけで、裏では日本の国益が損なわれていたのだとしたら、今回のトランプ大統領の訪日は結果として日本外交の敗北の歴史のひとつとなりかねない。両国の親密関係を内外に示すことが出来た点では一定の外交成果があったと言えるが、その裏側での交渉の結果についても思いを巡らして、その総合的な成果の正否を判断したいところだ。