与党による目くらましの歳費削減案
毎月勤労統計の不正からGDPに関する偽装の可能性まで指摘される事態に至っている。早速、「野党は重要ではない問題で騒いでいる」「もっと重要な問題がある」といった与党寄りのコメントも聞こえてくるところだが、予算委員会を舞台とした統計不正の追及の裏では、別の重要な問題で与野党の駆け引きが繰り広げられている。
2月8日に、与党が参議院議員の歳費を月7万7000円削減する法案を提出した。これに対して、国民民主党も素早く対案を出すことで応戦している。
昨年の通常国会では、与党が押し切るかたちで参議院の定数増が決定されていた。定数が増加することから、国民の理解を少しでも得ようと、歳費削減の法案を提出するというのが与党の狙いである。
そもそも、この参議院の定数増自体、極めて異例な決定であったことは既に指摘したことである。
さすがに定数増は国民の理解が得られないと与党も感じたのかもしれないが、やろうとしていることは少々混乱している。
この月7万7000円の削減を3年間続けることで、定数増により見込まれる追加の経費およそ2億3000万円をまかなえるとのことだが、もしも歳費削減が可能というのであれば、定数の増減に関わらず削減を行うべきである。
歳費削減により追加の経費がまかなえると聞いて、一瞬納得してしまいそうになるが、騙されてはいけない。
繰り返すが、そもそも「定数削減」を約束することから始まったのが安倍内閣である。
衆議院では定数減が実現したことから、安倍総理はそれを誇らしげに語るが、一方で参議院は定数増としており、約束違反と言って良い状況であることを忘れてはならない。
国民民主党による迅速な応戦
与党は歳費削減の法案を突然提出したようで、全ての野党が瞬時に反応出来たわけではないが、国民民主党は素早く対抗する案を提出してきた。
(1) 昨年の法改正で増員した参院議員の定数248人を242人とする定数削減
(2) 昨年の法改正で増員した参院比例代表選出議員の100人を94人とする定数削減
比例代表の定数を6人削減することにより、全体の定数を減らすというのがまつ第一のポイントである。昨年の法改正では6人の定数増であったため、まずは元に戻すということである。
(3) 昨年の法改正で設けられた参院比例代表の「特定枠」制度の廃止
(4) 参院選挙制度の抜本的見直し
昨年の法改正で設けられた比例代表の「特定枠」。これは合区された選挙区の候補者の救済策で、事実上の自民党議員の救済策と言って良いものだったが、これを廃止するというのが第二のポイントである。
さらに、2022年に予定されている参議院議員選挙へ向けて、選挙制度を抜本的に見直すことを検討しようというのである。
定数について昨年の法改正の前の242人に戻して考え直そうというのが国民民主党の案であると言える。与党の突然の法案提出に対して、まずは以前の段階に戻すべきということで応戦したことになる。
事前の準備で与党の横暴に応戦する
国民民主党の法案提出者の一人である大野元裕議員によると、与党の動きをある程度察知して、「とりあえずの法案を作って持っていた」そうである。
マスコミ報道も注目する統計不正のような問題があると、どうしてもそちらに野党議員の動きも影響されてしまいがちだが、そういう関心が集まるテーマの裏で与党は様々な取り組みを進めようとしてくる。
野党議員の数が少ないことから、そういう動きに迅速に応戦するとしても限界はあるとは思うが、政権の問題を追及しながら、一方ではそういう応戦も疎かにしない。そういう姿勢が野党には求められている。その点で、今回は国民民主党の動きが光ったと言えるだろう。