AI、ブロックチェーンといったキーワードを政策集の中に盛り込んだ国民民主党。同党が打ち出した方向性は、中道保守政党として今後、取り込むべき無党派層に共感を得られるだろう、と本コラムでは述べてきた。前回はつくば市の具体的な事例を参照しつつ、RPA(robotic process automation)が行政の様々な事務コストを削減できる可能性を述べた。
単なる「3回目」のブームではない
さて、今回はAIの本丸と呼ばれている、深層学習(ディープラーニング)について触れたい。ディープラーイングとは多層のニューラルネットワークによる機械学習手法のことで、2012年以降、急速に研究が活発になっており、第3次AIブームが到来している。コンピュータのマシン・パワーの向上と、単純な並列処理を得意とするGPUを計算に利用することで、ニューラルネットワークの多層化のコストがグッと下がったことが背景に存在する。
今回のAIブームは過去のブームとは質的に全く異なっており、いよいよ社会を根底から変えていくだろうとされている。日本におけるAIの第一人者である東京大学准教授の松尾豊氏の言葉を借りれば、21世紀の「カンブリア爆発」が訪れる前夜だという。
高性能な眼を機械が手にする、デジタル・カンブリア爆発
それはなぜかというと、精度のいい「眼」を機械が持つからだ。カンブリア期に今の生物の体制から一気に揃ったのは生物が眼をもったからだとされており、これをカンブリア爆発と呼ぶが、今、まさに機械が高性能な深層学習機能と入力デバイスを得ることで、学習精度が急激に向上していくのだという。
驚くべきことだが、医療におけるガンなどの画像診断や、空港などでの大量の人の識別などは、すでに人間よりも深層学習というAIを組み込んだ機械の方がエラー率が低い。そして、このエラー率の向上はわずか、ここ数年の間に起きたというのだ。多くの人が不可能と思っていることも、眼と深層学習を手に入れた機械がどんどんと代替していくことが近い将来、起きるという。今の私たちにはなかなか想像しにくいことだが、料理をつくるロボット、医療診断をするロボット、介護ロボット、車の自動運転など、あらゆる分野に及ぶ。
400位にようやく登場する日本人
さて、ここでポイントとなるのが、こうした新産業を担う人材への投資である。今やこの産業はアメリカと中国の独壇場だ。残念ながら日本人の中には、「まだ日本は中国には劣っていない」と思っている人が少なくないが、こと、AIでは当てはまらない。圧倒的に中国の方が優秀な人材を輩出しており、質・量とも日本の比較にならない。
第3次AIブームでは、少数の卓越した研究者・エンジニアが社会の富を生み出し、それを広く、みなが共有する社会になっていくのではないか、という見通しもある。
今や世界で深層学習の論文で、引用されるほどにクオリティの高い論文を書いているのは20代の研究者で、上位は軒並み、アメリカ、中国が占める。日本人だと400位くらいにようやくMITで研究している学生が現れる程度で、この学生ですら既に研究の拠点は日本ではなく、アメリカなのである。
政局の永田町からは見えない世界の最先端
果たして、永田町の住人である国会議員の人たちがこの現状をどこまで正確に把握し、理解できているだろうか。生半可なことでは世界の競争に伍していけないし、AIの産業転用は近い将来、自動車産業を凌ぐとさえ言われていることから、人材の育成をはじめとして焦眉の急を要するのは言をまたない。
政策として「AIに注力する」と主張するのは簡単だ。具体的な戦略が求められる。人材の育成、海外の動向を踏まえたときに日本が取り組む領域をどこに見定めるのか、もう手遅れの分野もある。そしてそのための財源をどう捻出し、どれくらいのタイムスパンで進捗させていくのか。自分たちが野党の間であっても、政策実現のために与党にどういう提案をしていくのか、政治力も問われる。
国民民主党がAIの重要性を認識していることは僥倖だ。ぜひとも、さらに一歩踏み込んで、教育政策、産業育成、産業集積といった全体戦略を打ち出してほしいところだ。