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オープンガバメントの実現のための情報公開法改正案

 

野党が提出した情報公開法改正案

 

 先の特別国会において、野党は「公文書等の管理に関する法律の一部を改正する法律案」と「行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の一部を改正する法律案」を提出していた。それぞれ、公文書管理法と情報公開法と呼ばれる法律の改正案が提出されていたわけだが、実質的な審議は行われず、国会は閉会してしまった。

 

 現在の政権与党にとっては、何かと都合の悪い改正案であるのかもしれず、審議されないのも仕方がないのかもしれないが、その内容は注目に値するものである。

公文書管理法の改正案については既に解説したので、今回は情報公開法の改正案を見ていく。

 

www.ksmgsksfngtc.com

 

 

 

 

 野党が提案した情報公開法の改正案は民進党のWebサイト上で関連情報が入手可能である。

 

www.minshin.or.jp

 

 

 情報公開法の改正案については、ページの下部に概要が記されている。そのまま本文を引用すると以下のとおりである。

 

 

 「情報公開制度が「国民の知る権利」を保障する観点から定められたものであることを1条で明示するとともに、同制度を「国民の知る権利」の保障にふさわしい充実した内容に改正するもの。

不開示情報規定及び部分開示規定を見直し、開示情報を拡大(5条・6条)、情報提供制度の充実(25条)、開示請求手数料を原則として廃止するなど手数料の見直し(16条)、開示請求から開示決定等までの期限を「30日」から「行政機関の休日を除き14日」に短縮する(10条)といった内容が盛り込まれている。」

(上記のURLより)

 

 

 まず第1条について。第1条は情報公開法の目的が示されているが、現行の条文では国民の知る権利への言及がない。そこで、野党が提出した改正案では、条文の中で国民の知る権利について明示し、その権利を保障するための法律であることを明確化しようというのである。また、第1条については、現行は「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」となっているところを、改正案では、「国民による行政の監視及び国民の行政への参加並びに公正で透明性の高い民主的な行政の推進に資することを目的とする。」という変更が提案されている。

 

 ここで、「透明性」と「参加」という新たなキーワードが追加されている。これは、オバマ前大統領の下で進められたオープンガバメントの取り組みを意識したものである。というのも、オープンガバメントとは、透明性・参加・連携を基本原則に掲げた取り組みであったからである。

 

 日本でも、民主党政権下でオープンガバメントの推進が政策目標として掲げられ、その後、現在の安倍政権になってもそれは継承されている。

 

 

オープンガバメントの実現策としての情報公開法改正

 

 野党による情報公開法の改正案には、オープンガバメントの取り組みについて、法律の中にそれを明記しようという意図が込められている。実際に、情報公開法の改正案の概要を示した資料には、「オープンガバメントの実現」と明記されている。

 

行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の一部を改正する法律案

 

 

 この改正案の概要では、「より多く」「より簡易に」「より早く」「より明確に」「より確実に」という整理の仕方で改正のポイントを紹介している。

 

 

 まず「より多く」という点は、第5条と第6条を見直して、不開示情報規定及び部分開示規定を変え、開示情報を拡大しようというものである。実際の情報公開制度の運用状況につき特に開示されない部分があったときの不服申し立ての事案を見ると確認することが出来るのだが、不開示情報規定や部分開示規定を最大限に活用して、行政側は情報を「見せない」ようにする。よくある黒塗りの開示文書のあの黒塗りの部分は、まさにこの規定を活用したゆえの産物である。その不開示情報規定や部分開示規定を変え、開示情報を拡大しようということで、これは国民としても歓迎したい改正である。

 

 「より簡易に」という点では、第16条の開示にかかわる手数料の規定について大きな変更が提案されている。現行法では、開示にあたっては手数料を払う必要があった。これに対して、改正案では営利目的の利用者など一部の対象に対してのみ手数料を取るというかたちに改められている。この改正が実現すれば、より簡易に開示請求を行うことが出来るようになる。

 

 「より早く」という点については、第10条およびに第11条の改正にかかわる。現行の第10条では、開示請求から開示決定までの期限を30日と定められている。これを改正案では、「行政機関の休日を除き14日」と短縮することとされている。この期限自体は行政機関側の申し出により延長をすることが現行法でも可能であるが、改正案ではこの延長について現行法よりも厳密な規定を設け、安易な延長が出来ないような手当てが講じられている。さらに、改正案では、期限内に開示がなされない場合には、不開示決定をなされたものとみなし、開示請求を行った者が直ちに不服申し立てや訴訟を起こすことを可能とする条項が新設された。

 

 この改正案は、より迅速な情報開示を実現するとともに、開示の引き伸ばしや取扱いの放置を防ぐものとなっている。これも請求の当事者となる国民にとっては歓迎すべき改正点である。

 

 「より明確に」という点については、不開示決定がなされる場合に、その理由をより明確にせよという趣旨の改正が提案されている。現行では「開示請求に対する措置」として第9条が置かれているところ、この条に新たな項を設けて、不開示の際にはその根拠を「できる限り具体的に記載しなければならない」と義務付けるというのである。これは行政機関にとっては厳しい改正案となるが、「不開示情報に当たるので不開示にする」という程度の説明では開示請求者としては納得しがたいのも事実である。これも開示請求を行う国民の側に立った改正の提案であると言えるだろう。

 

「より確実に」という点については、広範な改正の提案がなされており、関係する条文は第18・21・27・28条および第22・23・24条となっている。さらに関連して、内閣府設置法にも手を入れている。

 

まず、第18条以下の計四つの条文の改正については、不服申し立ての処理の迅速化と実効性向上を目指すことを企図している。不服申し立てがあるということは、それだけ不開示や部分開示があり、国民の目には触れないことになる情報があったということである。どうしても開示出来ない情報があるのも事実であるが、恣意的な運用で秘匿される情報があってはならず、不服申し立てに対して真摯な対応が求められる。とりわけ国の機関の情報公開については、最終的な責任者は内閣総理大臣ということになることから、野党の改正案では、内閣総理大臣の権限を強化して、府省などに対して実効性をもって不服申し立て時の対応を図るものとなっている。

 

第22条から24条までの改正案は、情報公開訴訟の抜本的な強化を図るものである。この部分は条文の新設を多く含み、その内容も多岐にわたる。不服申し立てを行っても解決しない場合、訴訟を提起し、司法による解決を図ることになるが、その手続きにつき手厚く定める条文を新設するというのである。これも、国民の立場に立った改正案であり、大いに評価されるべきものである。

 

また、内閣府設置法も改正し、情報公開法の所管を総務省から内閣府に移し、より全庁的に実効性のある制度への改善を目指している。

 

以上のような観点からの改正により、オープンガバメントを実現しようというのである。

 

 

オープンデータにも配慮した情報公開法改正案

 

 以上、野党が示した情報公開法の改正案の概要を基に、改正案の主なポイントを紹介した。その他にも、注目すべき改正のポイントがある。

 

 それが「情報提供」という章の新設である。これは新たな第25条を設けて、開示請求があったことを受けて情報公開を行うという現在の仕組みに加えて、何度も開示請求がある文書については国民の利用しやすい形式で予め情報提供を行うことに努めるという趣旨の条文を追加するというのである。ここには、現在も国をあげて推進するオープンデータの取り組みについて、法律上でそれを後押しようという意図が込められている。

 

 このオープンデータの取り組みは、先にあげたオープンガバメントの一環に位置付けられるものである。オープンデータについて日本政府は以下のように定義している。

 

 政府において、オープンデータとは、「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」であり「人手を多くかけずにデータの二次利用を可能とするもの」のことを言います。

 

総務省|ICT利活用の促進|オープンデータ戦略の推進

 

2012年に、政府は電子行政オープンデータ戦略を策定し、これを起点にその取り組みを進めてきた。それは2017年の現在も変わらない。

 

そのような背景の下で、野党が提出した情報公開法の改正案では、新設する条文の中に、「政府は、その保有する情報の公開の総合的な推進を図るため、行政機関の保有する情報の提供に関する施策の充実に努めるものとする」という文言が見出されるのである。この文言があるのは第3項であり、前の第1項と第2項では、「国民が利用しやすい方法により提供する」とあり、この利用しやすい方法には当然にオープンデータも含むものと解されることから、それら条文の新設はオープンデータの取り組みを法的に裏付けるものとなっていると言えるのである。

 

既存の情報公開制度と新たに登場したオープンデータを情報公開法の中で架橋する試みとして、この新たな条文の新設は注目に値するだろう。

 

野党が提案した情報公開法の改正案は、強い反対があるような内容ではなく、国民の立場に立って考えれば直ちにでも成立してしかるべき内容を備えている。

 

新年度の通常国会では、同様の改正案が提案され、党派の違いを越えての丁寧な審議がなされ、成立に至ることを願って止まない。