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経済の二毛作・ナイトタイム・エコノミーで観光客の満足度アップ

 

 

 

年々、イベントが社会現象化していくハロウィン。4月の今、ハロウィンを持ち出すのはちょっと季節違いかもしれないが、ある政策テーマを考える上で格好の題材なのである。それは「ナイトタイム・エコノミー」。
ナイトタイム・エコノミーとは、まさにそのまま「夜間経済」。経済の二毛作とも言われ、同じ社会インフラを使って、昼だけでなく夜にも経済活動を行うことで、経済効果を高めようとするものである。
なぜ、ハロウィンが格好の題材なのかといえば、あのイベントのメッカともいうべき渋谷のスクランブル交差点には10万人近い人が集まるからだ。そして、そのイベントを楽しんでいるのは日本人だけはなく、数多くの訪日外国人観光客も姿も見える。彼らこそ、ナイトタイム・エコノミーの楽しみ方を知っている人たちである。

 

雇用も経済も作り出したロンドンの取り組み


ナイトタイム・エコノミーの取り組みでよく知られている代表格はロンドンだ。イギリスは1990年代に中心市街地が衰退していく「ドーナツ化現象」が社会課題となっており、その際に、対策として導入されたものの1つがナイトタイムエコノミーだった。
飲食店や芸術施設・文化施設などを夜遅くまで楽しめるようにし、それを支えるために地下鉄を週末は明け方まで走らせるようにしたことで、夜間経済の規模はロンドンだけで4兆円規模にまで押し上げられたとされている。夜に働く人々も70万人以上の雇用増と、雇用面でもプラスの影響が見られた。
加えて、こうしたロンドンのナイトライフを楽しむ人たちがインスタグラムやフェイスブックなどで写真を次々と発信していくことで、イギリス人はもとより、世界中から観光客を呼び込む起爆剤となり、中心市街地の活性化につなげていった。

 

週末くらい地下鉄は24時間営業を


もちろん、ナイトタイム・エコノミーの取り組みはロンドンに限った話ではなく、ニューヨークでも、ベルリンでも、パリでも、今や世界を代表する都市では当たり前のように取り組まれている。そういえば、筆者が以前、首都圏在住のドイツ人に「東京で生活していて、何か困ること、不満はあるか?」と聞いたことがある。その際、そのドイツ人はしばらく、考えたあと、こう言ったのを覚えている。「そうだね、特に不満はないけど、地下鉄は週末くらい24時間運行にした方がいいね。そしたら、僕たち、もっとお酒飲んで、お金を使うよ」。ハンブルグ出身の、そのドイツ人がそう言っていた。
今、日本では外国人観光客数は伸びてはいるものの、娯楽への消費支出は少ないと言われている。アメリカやイギリス、ドイツ、フランスなどの欧米主要国における外国人観光客は消費支出額の10%は娯楽が占めているが、日本の場合、これが1%程度となっている。日本はナイトタイム・エコノミーが世界標準で言えば、存在しないと言ってもいい状況だ。

 

2016年にはアムステルダムで世界のナイト・メイヤーが集結


ナイトタイム・エコノミーが都市を活性化することを身を以て体験した都市は今や、ナイト・メイヤー、つまり夜の市長を置くようになっている。2016年4月には、オランダのアムステルダムで、世界初の第1回「ナイトメイヤー・サミット」が開催された。
アムステルダムで開催したのは、この都市が世界で初めて、ナイト・メイヤーが生まれた都市だったからだ。折しも、EUの「市長サミット」が同じ時期に開催されていたこともあって、大いに話題を呼び、会議の参加者は昼・夜の市長や行政関係者、さらに起業家など世界各地から200人ほどが参加したといわれている。
もちろん、ナイト・メイヤーの集まりは夜20時にスタート、「夜間の経済」「公衆衛生と政治」「都市空間の再定義」「モビリティ」「ナイト・メイヤーへの道」など、夜間経済にまつわる、5つの主要テーマについて活発な議論が交わされた。
動きが早い自民党へ対案となるビジョンを日本でも風営法の改正などが議連主導で行われ、少しずつ環境が整いつつあるとはいえ、海外のそれに比べると歩みはのろま、と言わざるを得ない状況だ。
この辺について、与党・自民党はさすがにめざとい。2017年12月に「時間市場創出推進議連」、通称、ナイトタイムエコノミー議連を立ち上げ、ナイトメイヤー制度設立や夜間市場調査の仕組み・体制の確立、「ラグジュアリーマンデー制度」(仮称)の導入などを掲げて動き出している。2018年には様々な社会実験を実施したり、規制緩和を視野に入れている。オリンピックの2020年までには全国の主要都市で、ナイトタイム・エコノミーが実現できるよう環境を整備すると言っているから、そのスピード感は驚くほどである。残念ながら、野党にはこうしたナイトタイム・エコノミーに対して、目立った動きは現時点はない。


もちろん、世界のナイトタイム・エコノミーを手放しで礼賛する必要はない。日本には日本にあったやり方もあるだろう。ただ、大事なことは世界で何が起きているのか、そして日本で何ができるのか、そういったものへ情報感度を高めて、アンテナを張って、具体的なアクションを起こしていくことである。
森友問題も大事だし、日報問題も大事だ。それはそれで大事だと思うものの、野党から少子化・高齢化社会の到来にあえぎ、未来に対して自信を失いつつある日本社会の処方箋が積極的に語られないのは、なんとも寂しい。野党ならではの、夜間経済のあり方を提示してもらいたいし、それができるだけの人材とネットワークを持っているはずである。