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英語民間試験の延期で幕引きとはいかない

 

 

 

文科省は記述式問題採点の難しさを理解していない

 

政府が2020年度開始予定の大学入学共通テストで英語民間試験導入の延期を決めた。安倍首相は陳謝したものの課題はまだ残されている。国語と数学で導入される記述式問題である。

 

英語民間試験の導入については、試験実施の地域格差や経済格差の問題をはじめ、幾つもの課題が指摘されていた。一刻も早い受験環境整備が望まれる。最大の被害を被るのは受験生に他ならない。志望校やその先の将来の夢や目標に向かって日夜努力する受験生全てが均等に機会を提供され、チャレンジできる環境を整えられるかどうか。政府にはより一層の努力と配慮が求められる。

 

しかし、問題は英語民間試験の取り扱いだけではない。

 

今回の大学入試改革のもう一つの特徴である「国語と数学の試験に記述式問題を導入すること」。この点についても再考の余地がある。

 

これまで実施されてきた大学入試センター試験は、全てマークシート式の回答方法が導入されていた。志願者数57万人(2019年実施)という多くの受験者の学力を測るためにある一定の合理性があった。こうした採点方式に対して、大学入試改革は、生徒たちの学力をマークシート式だけでなく、また別の方法で正しく測ろうとする思いはあるものの、その理想の実現に足るまでの準備がなされているとは言えない。

 

 

絶対に許されない採点ミスを起こさない仕組みは作れるか

 

国語の問題では、成績を得点化せずに、各問の評価を組み合わせた総合評価をA〜Eの5段階で示すことになっている。ところが、試行調査の結果によると、複雑な評価方法のため、参加者の約3割が正確に自己採点できなかった。受験者自身が採点の結果を知る前に出願しなければならない現状の仕組みを考えると、正確なではなく、試験結果と同じ採点結果を受験生が判断できないこの仕組みは問題だ。

 

さらに、正答の基準が採点者によってぶれる恐れがある。より突っ込んで指摘すれば、これは正答の基準はぶれるはずだ。

 

大学入学試験というは、これまで何度も報道があったように、採点ミスは受験生自身の人生を大きく左右する。たった1点の違いで、第一志望の大学に進めず、別の大学に進学したり、浪人生活を選択を迫られる。もちろんその結果として、人生にとってかけがえのないものを手に入れることもあるだろうが、第一志望に進めていたら…。人生にたらればはないが、それだけ大きな重みを持つのが入学試験だ。

 

独自問題で試験の実施もする私立大学でも、入試問題の作成から実施、採点、合格通知、入学に至るまで、その作業工程には細心の注意が払われる。今回、指摘されている採点部分も慎重に扱われる。

 

例えば、記述式の問題は当然教員が行う。受験生が多いので採点者は複数人。その採点結果は別のスタッフが採点に疑義がないかを複数人で確認する。稀に採点結果に疑義が生じるので、採点者に確認を取り、採点結果の正誤が確定する。この一連の流れが科目毎に必要になる。私学でも数学や理系科目の一部で採用している例が多いと思うが、そこには手間がかかることと同時に、採点結果の正確性という点で、一定の質を大学として保証しなければならない業務上の重みがある。

 

一大学の責任において、受験生に入試問題の採点責任を負うのは至極当然のことだが、一方、大学入学共通テストではそうもいかない。そもそも全国の各大学を使用して実施される大学入試センター試験の実施運営も、各大学の協力によって成り立っている。受験者が自身の大学志望者ではなないだけに、通常の試験実施よりも注意を払うだけでなく、一言一句決められた説明文を読むなど、全国一律の実施運営を担保するためにその実施ルールは事細かに定められている。

 

 

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二重チェックの見識でも明暗が分かれる

 

そんな緊張感ある実施体制よりも、さらに重要度の高い業務がこの記述式問題の採点業務だ。

 

記述式問題の採点業務の現場の緊迫感はなかなかのものだ。例えば、数字の書き方一つとっても受験生によって様々であるし、試験開始直後の回答と試験時間終了間際の回答の文字の違いは一目瞭然だ。書き殴った文字を「解析」するのには骨が折れる。稀に正答であるにも関わらず、誤答扱いされているものやその逆なども起こる。大量の採点作業による影響でヒューマンエラーも起こりうるのは止むを得ない。

 

それを見つける二重チェック側のスタッフにも一定の見識が必要で、その助言によって回答の解釈が修正されることもある。ただ単に、機械的にチェックしていればいいというものではないのが現場の実情なのである。これを単なるアルバイトで賄えると思っているのであれば、大きな間違いだ。

 

今回の大学共通テスト記述式問題の評価でも国語が総合的に5段階で示すというが、AなのかBなのか、評価の境目にある回答をどう評価するのかは、各採点会場の採点者にも容易なことではない。もちろん、そうしたギリギリの疑義ある回答、採点の境目の対応については、実施本部が判断を下せるような体制で採点業務を行うのであろうが、50万人を超える受験者の採点作業で生じる疑義に正しく対処できるかどうか。私学では、その年の志願状況や他大学の情勢なども踏まえて、入試結果の合否判定を行なっているので一点の差は、まさに運命の分かれ道だったりする。

 

一方で文科省は、入学定員の厳格化なども各大学は求められているので、一点の重みはより重要になってくる。

 

議論はいつまで立っても議論できるのでいつかは結論が必要であるが、早急な結論はまた大きな混乱の火種になる。受験生の未来を守る責任を果たせるのかどうか。その議論は、採点の公平性を担保できるまでの結論にまでは至ってはいないだろう。