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国民民主党は「最大公約数」より「最小公倍数」を目指せ

 

 

 

 

国民民主党の綱領、基本政策には「広がり」がある

 

マスコミからは今一つの報道しかされていない国民民主党であるが、短期間でまとめられたものであるにもかかわらず、その「綱領」「基本政策」はなかなかの出来である。
旧民主党も旧民進党も、議論を丁寧に積み上げて、政策をとりまとめていくところが評価されていた。役所についても同じことがいえるが、手続きを踏んで物事を決めていくがゆえに、後から軌道修正をすることが難しくなるし、政策の幅を狭めてしまうことにもなりかねない。

 

 その意味で国民民主党の綱領、基本政策においては「広がり」を見出すことができる。必要な政策はきちんと拾っているし、方向感も明確に示しているが、ガチガチに固めることはしないで、幅を持たしている知恵が見られる。


国民民主党の綱領では、「中道」と「改革」という文字がセットになっており、公平・公正な社会を目指す中でも、国際社会との協調、市場の重視する政党であることなどのメッセージは伝わってくる。前向きの「広がり」を感じさせるものとなっている。

 

 

政策は「最大公約数」より「最小公倍数」を追求せよ

 

絶対に自民党の真似をしていけないこともあるが、他方で自民党に学ぶべきことも少なくない。


 多様な人材を取り入れていくこと、仲間を増やしていくこと、郵政民営化のような例外もあったが、政策的なことで排除の論理をとらないことなどが自民党の強みである。


 もっとも政権党、選挙に強い政党だから、多くの人が自民党になびいていくことは理解できないでもない。野党側の政権準備に向けた受け皿が不安定になっていることもあり、致し方ない点もある。

 

 だからこそ国民民主党は党内基盤をしっかり固めて、有権者からの支持を言広げていかなければならない。


 これから基本政策を軸に、具体策をブラッシュアップしていくことになると思うが、政策の幅を狭めていくのではなく、広げていくこと、仲間や支持者を増やしていくことにつながることを主目的にすべきだ。


 一つの例えになるが、最大公約数を求めるのではなく、最小公倍数を求めるような政策の打ち出し方が必要なのではないか。数学的に間違った理解をしているかもしれないが、平面を直線にする「微分」ではなく、平面を立体にする「積分」のような、奥行きのある政策体系をつくっていくべきだ。

 

民進党など野党が、あまりにも強権的な政治を行ってきた安倍政権の暴走を止めるために戦ってきたことは評価されても良い。安倍内閣が憲法を軽視し、憲法を蹂躙した事例をあげても、53条の臨時国会召集義務違反、7条の解散権濫用、9条の恣意的・便宜的な解釈の変更など枚挙に暇がない。


 ただ、「安保法制反対」「共謀罪反対」というイメージが先行し、中道政党である民進党までもが「何でも反対党」のレッテルを貼られてしまったことは残念であった。安倍内閣が強行した安保法制には反対だったが、現実的な安全保障政策を提唱していた民進党について歪んだ情報が流れたことは遺憾に堪えない。

 

 国民民主党は「広がり」のある政策を打ち出すべきことを強調してきたが、 だからといって総花的な政策でいいとか、バラマキ政策を提言すればいいということではない。


 安倍内閣が杜撰な対応をしている財政健全化については、きちんとした道筋を確立することが求められる。安全保障については、日本国民の生命と生活を守るため真に必要な防衛力を整備していくとのメッセージを伝えていくことが必要である。

 

 

勤労者の給与は減り続けている

 

国民民主党が政権の受け皿となっていくためには、多くの国民の支持層を取り込んでいくことは当たり前のことである。


 一つ、冷厳な事実と向き合わなければならない。国民の収入・所得が減っていることである。


 これに関連するものとして様々な統計・指標があるが、参考になるものの一つとして国税庁の民間給与に関する調査がある。一番新しいものとして、平成28年分の調査が出ているが、概要は以下の通りである。

 

『平成 28 年分 民間給与実態統計調査』(国税庁)
給与所得者数は、4,869 万人(対前年比 1.6%増、75 万人の増加)で、その平均給与は 422 万円(同 0.3%増、12 千円の増加)となっている。


男女別にみると、給与所得者数は男性 2,862 万人(同 1.1%増、31 万人の増加)、女性 2,007 万人(同 2.3%増、44 万人の増加)で、平均給与は男性 521 万円(同 0.1%増、6千円の増加)、女性 280 万円(同 1.3%増、37 千円の増加)となっている。


 10年前、20年前はどうなっていたかを見てみると、平成28年に平均給与が422万円だったが、平成18年は435万円、平成8年は461万円だった。平成28年に男性の平均給与は521万円だったが、平成18年は539万円、平成8年は569万円だった。平成28年に女性の平均給与は280万円だったが、平成18年に271万円、平成8年は276万円だった。


 女性に関しては、20年前に比べると増えてはいるが、そもそも男性に比べるとほぼ半分の水準でしかない。女性の場合は、男性よりは多様な働き方が反映されているのであろうが。


全体や男性の平均は明らかに、20年前に比べると10年前に大きく下がり、10年前に比べると今また大きく下がっている。

 

 民間給与が下がっているということは、有権者の給与が下がっているということである。公務員の給与は民間を基準とした人事院勧告によって決められるし、年金は削られる一方だから、国民全体すなわち有権者が得る収入というのが下がっていることを認めなければならない。


 野田内閣が「分厚い中間層」を復活させていくことを訴えていたが、それは中間層が薄くなっていることへの危機感を反映したものでもある。野田内閣も短命に終わってしまったから、中間層復活のための具体策も十分練られないまま、安倍自民党に政権が移ってしまった。

 

 

声の届きにくい人たちの支持を得ることが重要

 

2016年のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利したが、経済的繁栄の恩恵を受けることができない人たちの声に耳を傾け、彼らの票をうまく取り込んでいったことは事実である。


 ちょっと前に、以下の2冊を読んだが、大変面白くてためになった。アメリカ社会では中間層がどのように崩れていったか、トランプ陣営が社会から排除されたい人たちの支持をどう獲得していったかがよく分かる。

 

『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々--世界に吹き荒れるポピュリズムを支える"真・中間層"の実体--』(ジョーン・C・ウィリアムズ著、山田美明訳、集英社、2017年)
『ヒルビリー・エレジー--アメリカの繁栄から取り残された白人たち--』(J.D.ヴァンス著、関根光宏・山田文訳、光文社、2017年)

 

 国民民主党の綱領にある「私たちは、子どもと若者、孤立して生きざるを得ない人々、社会的マイノリティ、障がいのある人々、非正規雇用で働く人々等、声の届きにくい人々に寄り添います」という文章は極めて重要である。


トランプ大統領を絶賛するつもりはないが、社会から排除されている人たちの声に耳を傾けて、政権基盤を獲得したことには学ぶべき点が多い。


 地方経済が疲弊し、国民の所得が下がり、非正規雇用が増えている中、ほどほどに恵まれた中間層だけを意識した政策だけでは政権はとれない。


大学の奨学金充実などという政策は打ち出しやすいが、「大学に行く人たち」を軸とした社会もあれば、「大学に行かない人たち」を軸とした社会もある。「大卒」「非大卒」との間に壁ができつつあるという指摘もある。


社会を分断するのではなく、様々な境遇・立場にいる国民を包摂していくことこそ、自民党に代わる政治勢力に課せられた責務であると考える。国民民主党の今後の取り組みに期待したい。