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コーポレートガバナンス改革は国会などによる横串のチェックが必要 2/2

 

 

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立法府たる国会は遠慮せずに論議やチェックを

 

 これまで述べてきたことも、立法府たる国会や政党は、コーポレートガバナンス改革について、もう少し積極的に当事者意識を持って臨むべきだろう。横串を刺して、全体像を俯瞰し、意見をいえるのは国会以外にはないのではないか。

 

 会社法については法務委員会で審議されるから、それなりに突っ込んだ議論が行われていることは事実である。

2014年6月20日に、「会社法の一部を改正する法律」「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が成立している。監査等委員会設置会社制度を創設するとともに、社外取締役等の要件等を改めるほか、株式会社の完全親会社の㈱主による代表訴訟の制度の創設、株主による組織再編等の差止請求制度の拡充等の措置を講じることを柱としている。

 先議院の衆議院において、法案審議は比較的スムーズに進んだが、参議院においては、新しい論点も見つかり紛糾した。

 とりわけ、特別支配株主による株式等売渡し請求が問題となった。これは90%以上の株式を保有している「特別支配株主」がその他の株主から株式を買い取ることができる規定である。少数株主の財産権をその意に反して奪うものではないかという中身の問題に加え、そもそも法務省が用意した説明紙にこの項目が抜けていたことなども混乱をもたらした。最終的に法律は成立することとなった。

 

 なお、民進、共産、社民、生活など参院の野党6会派は2016年4月15日、「会社法の一部を改正する法律案」を参院に提出している。最終的には廃案となった。

 この法案は、企業ガバナンスの強化をはかっていく観点から、改正会社法の内容をより一段進める形で、社外取締役の設置の義務付けを強めるもの。(1)取締役が10人以上の会社の場合は2人以上の社外取締役を置く(2)取締役が5~9人の会社の場合は1人以上の社外取締役を置く(3)取締役4人以下の会社については社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務を求める――等の内容になっている。

 世間的にはあまり知られていないが、コーポレートガバナンスに関する一つの法案が国会に出されたことは重たい事実であり、もっと注目されても良かったのではないかと思う。

 

最初に、コーポレートガバナンス・コードの改訂案について言及したが、安倍総理は3月1日の参院予算委員会で、女性活躍の推進という観点からなされた質問に対して、以下のように答弁している。

 

現在、更に中長期的な企業価値の向上に向けてコーポレートガバナンス改革を更に進めるため、投資家と企業の対話のためのガイドラインの策定とコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論を進めています。この中においても、取締役会における多様性の確保が重要であり、女性の取締役の登用を更に加速すべきとの議論が行われていると承知をしております。こうした議論を踏まえ、上場企業に対し、女性の取締役を一人以上登用することを促すとともに、登用していない企業にはその理由の説明を求めることが適切と考えています。

 

ここまで総理が明確に発言しているのは、コーポレートガバナンスは東京証券取引所が上場企業に適用する指針であるが、金融庁と東証が共同してとりまとめを行うものであり、政府としてのお墨付きも与えているからである。

となると、行政を行っていることを立法府がチェックするのは当然だという一般論に加え、これまで述べてきた論点もふまえれば、国会や政党が今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂案についてもう少し厳しい目で精査してみてはどうだろうか。

 

気になるのは、この改訂案について、手放しで礼賛するような論調が目立つことである。「経営の透明性が高まる」「女性取締役の登用促進」などの見出しが躍っているが、もうちょっと冷静に見た方が良いだろう。

金融庁のウェブサイトでは、赤字・下線・取り消し線による逐条での改訂案が示されているので、具体的な中身を知ることができる。

世間的に一番注目されている取締役会の形成のところは、「多様性」という単語の前に「ジェンダーや国際性の面を含む」という語句が付け加えられている。読み方によっては、「多様性」の例示や説明が加わっただけで、今まで以上に女性を登用するとの義務が強まったとは読み取れないのではとの解釈もできる。パブリックコメントも行われるとのことで、もっとふさわしい表現があれば、それを付して意見が寄せられることを期待したい。

 

 野党による議員立法にも盛り込まれていたが、社外取締役を増やしていくことについては、世間的にも受けがいいし、これを支持する意見もよく聞かれる。

 ただ、社外取締役については、官僚の天下り先として、大企業が安易にポストを用意しているのではないかとの疑問も出ている。顧問ならいいというわけでもないが、社外取締役となると、相当な責任や職権を伴うはずである。

元大使という肩書も目立つ。東芝の粉飾決算を見抜けなかった社外取締役の中に元大使がいたとの指摘もある。元大使だからダメだということもいえないが、コードにあるように「資質を十分に備えた独立社外取締役」が選任されることは当然である。上場企業の取締役といえば、単なる名誉職でもないし、片手間でやってもらうような仕事ではないことを再認識すべきである。そのための実効ある施策もさらに検討されるべきである。

 

 いずれにしても、会社法、コーポレートガバナンス・コードも含めて、コーポレートガバナンスに関わる政策全体を見ていくことが必要だ。

専門的だから、難解だから、企業や取引所が自主的に取り組むことだから、政治は無関心でいいという態度はとるべきではない。法務省、金融庁をはじめとした府省内の論議にももっと注視していくべきだ。

何でもかんでもチェックしろというわけではないし、不当な介入はあってはならないが、国会や政党がコーポレートガバナンスに関わる政策を俯瞰するという視点をもう少し持つだけでも、良い環境が生れるのではないだろうか。