霞が関から見た永田町

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地方議会の無投票から考える、これからの地方

 

 

 

地方議員のなり手がいない。この話がささやかれ始めたのは、ここ数年のことだ。新聞やテレビなどでは人口が数千人の村の選挙で、村議のなり手がいなくて無投票になったとか、あるいは現職の議員が全員立候補しないと、そもそも候補者数が定数を割り込むとか、そういう事例が報道された。

 

人口13万の焼津市でも無投票


感覚の話になってしまうが、人口が1万人にも満たない小さな町村で議員のなり手がいないのは、「なんとく、そんなもんだろうな」と感じるが、2019年になって、それなりに人口規模のある地方自治体でも無投票当選という事態が続いた。定数19の小諸市(長野県)、定数20の須坂市(長野県)、定数21の焼津市(静岡県)である。人口は5万〜13万人の、小さいとはいえ、町村とはわけが違う。しかも、いずれの選挙も無投票は初めての事態である。

 

地方議員のなり手がいないのは、年金などの社会保障が整っていないからだ、という論もあり、永田町では自民党が公務員の厚生年金へ加入できるよう、議員年金制度を復活させようという動きがある。新聞やテレビなどの論調では、「守旧派の自民党がまたぞろ、議員年金という世論から乖離した制度を復活させようとしている」と報道するが、地方議会へいくと、大阪維新の会と共産党をのぞく、ほとんどの地方議員は年金制度を望んでいる。

 

しかし、年金制度が充実すれば、地方議員のなり手が増えるのかといえば、必ずしもそうとは言えない。むしろ、大した影響は出ないだろう。それはなぜかというと、地方議員のなり手がいないのは、経済的な問題に起因しているとは思えないからだ。

 

 

年収1500万超の県議会でも無投票当選

 

無投票当選は議員報酬の高い自治体でも発生している。県議会議員ともなれば、議員報酬は1500万近くになる。決して安くはない金額だ。それでも県議会議員選挙では、選挙区によっては無投票当選は起きる。それも都市部に顕著で、神奈川県だと横浜市、川崎市などの選挙区ではいくつも無投票当選という結果になる。おそらく2019年5月でも無投票選挙区は増えるだろう。

 

こういう現象を見ていると、「議員報酬が低いのが原因で議員になり手が少ない」とか、「年金制度が整っていないから、なり手がいない」といった指摘は的を射ていない。何かもっと根本的な部分で地方議員の役割が問われ始めている気がしてならない。

 

日本は今、急速に人口減少社会へ突入している。それもみんなが一様に減るというよりは、隣接する市町村から人を奪う、奪われるというチキンレースを繰り広げながら、人口を減らしていく時代に直面している。その中で地方議員のなり手がいないというのは、仕事そのものに社会的意義が見出されなくなっているからではないだろうか。要は「誰がやっても同 じ」という諦めかもしれない。

 

 

ヨーロッパでは地方議員は兼業


海外にいけば、ヨーロッパなどでは議員は兼業が当たり前で、弁護士や公認会計士、教師、起業家など本業を持ちながら、平日の夜間や土日に議会を開催し、自分たちが住む都市の未来を議論している。議員報酬は高くはないが、仕事の専門性が議会活動を通じて行政の様々な政策に反映できることから、なり手不足が叫ばれることはない。

 

この無投票選挙は、社会の大きな変化を映し出したもののような気がしてならない。今すぐ答えが見つかるものではないが、今後急速に日本社会のあり方が変わっていくことを考えると、地方議会のあり方についても、抜本的な見直しの議論が生まれていくだろう。

 

そこを見据えた地方議会のあり方を打ち出す政党が出てくると面白い。少なくとも、議員年金制度の創出に舵を切っている自民党とはポジションの違いを明確に打ち出せるだろう。