霞が関から見た永田町

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トークンエコノミーに見る未来の国家

 

つい1ヶ月くらい前だっただろうか、1ビットコインが40万の値を付けたとき、「これはバブルだ」と言われた。ところが気づいて見れば、2018年12月14日現在で1ビットコインは200万円を突破した。わずか1ヶ月で5倍。この1年で10倍、2年で25倍と驚異的な伸びだ。

 

ビットコインをめぐっては12月10日、シカゴ・オプション取引所にビットコインの先物が上場し、巷間、ヘッジファントが先物で価格を釣り上げるだけ釣り上げて、売りを浴びせて暴落させるとか、「いやいや、もうこのタイミングから売り浴びせして、価格をぐっと引き下げてから、もう一度買いに入るだろう」など、様々な憶測が飛び交っている。

 

 

 

 

トークンエコノミーに見る未来の国家

 

液状化しつつある価値の交換手段

 

重要なのは、ビットコインがバブルかどうかでもなく、ビットコインが投機か否か、でもない。大事なことは価値の交換手段が液状化しようとしている現状にどう向き合うか、である。21世紀に入ってから、お金の性質がだいぶ変わってきた。日本はその代表例になるが、国の政策によって中央銀行(日本銀行)はじゃぶじゃぶと通貨を発行してきた。これは通貨の希薄化に他ならない。本来、通貨の希薄化はその信頼性に直結する問題だが、「現時点」ではその問題は顕在化していない。

 

国の金融政策の一方で、マーケットで高度に発達したプログラムが金融市場を歪めつつある。それは数字を見れば明らかだ。IMFによると、2003年の世界の実体経済は約44兆ドル、これに対して金融経済は約197兆ドルだった。この時点では金融経済は実体経済の4.5倍にも膨れ上がっていたが、これが2013年になると実体経済は約52兆ドル、金融経済は約710兆ドル。実体経済は10年で1.2倍しか成長していないのに、金融経済は3.6倍になったのである。その結果、金融経済は実体経済の14倍にまでなった。

 

実態経済に投資して稼ぐ代わりに、お金でお金を稼ぐ金融経済にシフトし過ぎたことの帰結である。今、世界を動かしているのは実体経済ではなく金融経済であり、国民が景気回復を実感できない背景もここにあるとされている。近年、経済学者や一部の投資家が、肥大化し過ぎた金融経済が実態経済を壊しかねないと警鐘を鳴らし始めている。

 

通貨は政府と中央銀行の権威と信頼の上に不安定に存在していると言ってもよく、国全体に流通しているお金の大部分は、物理的な実態を持たないとされている。アメリカで約90%、イギリスで97%が実体を伴っていないという。専門家から政府の信用管理の限界が指摘される中、金融経済の肥大化により好況・不況のサイクルが短くなっている。その不安定さと、法定通貨のリスクをヘッジするために、ビットコインなどの仮想通貨に資金が流入しているという見方さえあるほどだ。

 

 

法定通貨のリスクヘッジとしての仮想通貨

 

ビットコインが通貨になるかどうかは現時点で誰も見通せない。一つ言えることは、円やドルといった法定通貨はその信用の担保となっている国と中央銀行が、信用管理を失敗したり、あるいは財政運営を誤ったりすることで、その相対的価値からビットコインなど仮想通貨が力を持つ可能性を持っているということである。仮想通貨はその仕組みからして、信用の担保は唯一、アルゴリズムの強度だけであるため、ここが破綻した瞬間にその価値はすべてゼロとなる。仮にアルゴリムの強度が未来永劫、強固なものだとしても、そのシステムの性質上、国家は管理できない。

 

この点は国政に携わる人たちはよくよく注意しなければいけないポイントである。日本の国家財政の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が約14兆円も赤字で、財政赤字のGDP比が400%を超えていても、国家が破綻しないのは、ひとえに国家の信用とそれに伴い、国債を消化できるからである。そういう観点からすると、仮想通貨の比重が大きくなっていくと、それはすなわち、国および中央銀行の信用が落ちることを意味するため、ただでさえ不安な法定通貨の位置づけが揺らぎかねない。仮想通貨を敵視しても仕方なく、すでに法定通貨に変わる価値の交換手段として存在している現実に目をむけつつ、国家財政をどう安定させていくか、仮想通貨の動向は一つのリトマス紙になるだろう。

 

そういう中で見逃せないのがICO(inicial coin offering)である。ICOは仮想通貨を使って資金調達のことだが、企業が独自コインを発行し、これを世界の投資家から仮想通貨で出資してもらう仕組みだ。現状ではビットコインの延長線上で語られることが多いが、これは、経済圏がネットワーク内で完結しているのが特徴であり、独自の経済圏を作り出すことになる。

 

 

トークンエコノミー 企業が国家になる日

 

トークンエコノミーと呼ばれるが、法定通貨における通貨発行益は国家財政の根幹となるが、トークンエコノミーの場合、その発行益はトークンを発行する企業となる。ICOは仮想通貨を使った資金調達として報道されることが多いが、本質的に重要な部分はそこではなく、経済の力学が国家から企業へ移行していく象徴と捉えるべきだ。現時点ではICOで使われる仮想通貨はビットコインが多いが、例えば、将来、アマゾンやグーグル、FACEBOOKといったIT企業が自社の企業価値を背景に独自の仮想通貨を発行し、これがICOで取引される通貨になることだって十分考えられる。そうなった時、アマゾンやグーグル、FACEBOOKと国家の違いは一体何か、という問題も起きてくるだろう。

 

これを荒唐無稽な話とするか、そういう未来もあり得ると捉えるかは、選択の問題だ。ただ、歴史を振り返ってみれば、権力の拠り所は時代によって変遷してきた。冒頭触れたように、仮想通貨は法定通貨のリスクヘッジとして今は存在しているが、この辺の力学が何によって変化していくのか、あるいはその恐れがあるのか、国家の行く末に対して大きな責任を持っている国会議員はウオッチが必要だろう。こうした世論を国会で喚起していくことこそ、野党の役割に他ならない。

 

トークンエコノミーとは

 

トークンエコノミーとは、トークン(代替貨幣)で作られた経済。仮想通貨でやり取りを行う経済圏。