霞が関から見た永田町

霞が関と永田町に関係する情報を、霞が関の視点で収集して発信しています。

MENU

日本は対アフリカ外交・投資で中国と競り合えるか --すべての国に大使館を置く中国、兼轄が多い日本--

 

 

 

中国・アフリカ協力フォーラムが北京で開催

 

 9月3、4日、中国がアフリカ諸国の要人を招聘して、北京で「中国・アフリカ協力フォーラム」という盛大な会議を開催した。習近平国家主席はアフリカ諸国に対して総額600億ドルにのぼる援助を行うことを表明し、アフリカに対する積極的な攻勢を行っていく姿勢を鮮明にした。


 中国がアフリカに対する積極的な外交・投資を展開していることは誰もが知るところではある。なりふり構わない、一部からは「植民地主義」との批判も聞こえるやり方には、各方面から懸念が示されている。

 

 他方、このところ日本も対アフリカ外交を重視しており、日本主導のアフリカ開発会議(TICAD)を軸とした活動が展開されている。8党派の連立政権である細川内閣のもと、第1回アフリカ開発会議が1993年東京都で開催された。これ以降、TICADは日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合委員会(AUC)及び世界銀行と共同で開催されている。


 TICADの背景にある日本の考え方としては、「質の高い成長」と「人間の安全保障」(「アフリカの一人ひとりの能力強化」)を重視することとしており、アフリカ諸国の一人一人の生活向上や人権に配慮する姿勢が貫かれている。当然のことではあるが、植民地主義とは一線を画すものである。

 

 

f:id:araaaaan:20180918173813p:plain

 

 

アフリカ諸国における日本大使館は兼轄が多い

 

 日本政府としては、外交関係のある国において在外公館を置いている。形式上は、すべての国に大使館を置いて、大使が任命されている。しかし、物理的には、ある国においては大使館もなく、大使も常駐していない。


 そこで兼轄という対応をとり、ある国の大使館が別の国も所管することにしている。大使も複数の国の大使を兼任している。このような事例は別にアフリカに限ったことではない。外務省のウェブサイトの「在外公館ホームページ」のところで、そのことが確認できる。日本の大使館実館(実際の事務所)が存在する国は150あり、第三国に存在する日本の大使館が兼轄している国は45ある。中南米、大洋州地域などでも兼轄はいくつか見られる。やはり、アフリカにおける兼轄が多いのが目立つ。


 以下に、ウェブサイトに基づいて、アフリカのどの国がどこの日本大使館によって兼轄されているのかをリストアップしてみた。なお、スワジランド王国は、国名をエスワティニ王国に変更しているが、日本国大使館の名称には当面「スワジランド」を使用しているとのこと。この記事ではエスワティニ王国とした。

 

・エリトリア国は在ケニア大使館が管轄
・カーボヴェルデ共和国は在セネガル大使館が兼轄
・ガンビア共和国は在セネガル大使館が兼轄
・ギニアビサウ共和国は在セネガル大使館が兼轄
・コンゴ共和国は在コンゴ民主共和国大使館が兼轄
・サントメ・プリンシペは在ガボン大使館が兼轄
・シエラレオネ共和国は在ガーナ大使館が兼轄
・エスワティニ王国は在南アフリカ共和国大使館が兼轄
・セーシェル国は在ケニア大使館が管轄
・赤道ギニアは在ガボン大使館が兼轄
・ソマリア連邦共和国は在ケニア大使館が管轄
・チャドは在カメルーン大使館が兼轄
・中央アフリカは在カメルーン大使館が兼轄
・トーゴは在コートジボワール大使館が兼轄
・ニジェールは在コートジボワール大使館が兼轄
・ブルンジ共和国は在ルワンダ大使館が管轄
・リベリア共和国は在ガーナ日本国大使館が兼轄
・レソト王国は在南アフリカ共和国大使館が兼轄

 

 

中国はアフリカ各国に大使館を置く

 

 ソ連やユーゴスラビアの崩壊に見られるように、このところ世界の国の数は増えてきている。世界には196の国(日本が承認している国の数である195か国に日本を加えた数)があり、大使館を増やすことは簡単なことではないと思う。

 

 中国もアフリカ外交に力を入れているし、国力をつけているから、もしかすると日本よりはアフリカ諸国に大使館を置いているかもしれないが、兼轄もけっこうあるのだろうと予想した。そこで、中国外務省の英語版のサイトをチェックしてみた。


 “Chinese Embassies”というところでアフリカ諸国を見てみた。中国は原則、外交関係のあるアフリカ諸国には、きちんとその国に大使館を置いている。その大使館の住所がその国になっている。トーゴの大使館はトーゴにあり、レソトの王国の大使館はきちんとレソトにある。もしかすると見落としがあっって、兼轄が少しはあるのかもしれないが。それにしても、中国の攻勢ぶりはすごい。

 

 

f:id:araaaaan:20180918174003p:plain

 

 

 逆に、アフリカの国で建前上、駐日大使館、大使を置いているが、実態としての大使館が日本にないところがけっこうある。つまりアフリカ諸国が日本以外の国の大使館に日本のことを兼轄しているのである。日本の外務省のウェブサイトから調べられので、以下にそのリストを記しておく。ほとんどは中国にある大使館である。当然、大使も兼任である。

 

・エスワティニ王国大使館(兼轄、マレーシア常駐)
・ギニアビサウ共和国大使館(兼轄、中国常駐)
・コモロ連合大使館(兼轄、中国常駐)
・シエラレオネ共和国大使館(兼轄、中国常駐)
・赤道ギニア共和国大使館(兼轄、中国常駐)
・チャド共和国大使館(兼轄、中国常駐)
・ニジェール共和国大使館(兼轄、中国常駐)
・ブルンジ共和国大使館(兼轄、中国常駐)

 

 

中国と無駄に張り合う必要はないが、対アフリカ外交を総括すべき

 

 TICADを軸として、親身になってアフリカ国民のことを考えながら、対アフリカ外交を進めている日本からしたら、こうした現状は甚だ残念である。徒に中国と競い合う必要はないが、対アフリカ外交のあり方について総括した方が良いのではないか。


 大使館の一つや二つくらい増やしたら良いと気軽に提言するつもりはないが、せっかく対アフリカ外交に力を入れているなら、こうした点で改善できる点があれば早急に取り組むべきだろう。

 

 そう簡単に大使やスタッフは揃わないとの言い分があるかもしれないが、「大使はキャリアの外務官僚が中心でなければならない」という従来の外務省の発想にしがみつくべきではない。最近はノンキャリアの大使や局長も出てはいるようだが。

 

 アフリカについては、青年海外協力隊員をはじめ、地域に根差して人々の生活向上、産業振興などに尽力してきた人がけっこういる。青年海外協力隊は、帰国しても就職が難しいという話も聞く。勿論、有能なビジネスマンなどになっている人もいる。こうした人たちを新設・強化したアフリカ諸国の大使館のスタッフとして採用するということも柔軟に行ってよいのではないか。

 

 ここに来て、安倍首相が10月に訪中し、日中首脳会談が開催されるという動きが出てきた。対アフリカ外交においても、日中が協調を強めていくという選択肢もあり得る。


 ただ、日本としては、「質の高い成長」と「人間の安全保障」(「アフリカの一人ひとりの能力強化」)という基本を揺るがすようなことがあってはならない。中国が「新たな植民地主義」といわれるようなやり方をしているのであれば、それに与するべきではない。真にアフリカの人々の幸福追求のために行動している日本の企業、青年海外協力隊員、NPO団体などの活動がさらに円滑に行われるよう環境整備をはかっていかなければならない。