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数百年分の世界需要を賄うレアアースを発見、今こそ国家の資源外交をあり方を再チェック

 

 

 

「世界需要の数百年分のレアアースを発見、資源戦略に追い風」。近年、稀に見るビッグニュースが飛び込んだ。東京大学や早稲田大学などからなるチームによって、南鳥島の海底に、世界需要の数百年分に相当する、1600万トン以上のレアアース(希土類元素)が存在することが分かったのである。


研究チームによれば、南鳥島の南方、約2500平方キロメートルの範囲に1600万トン以上のレアアースが埋蔵しているという。特に濃度が高いエリア(約105平方キロメートル)だけでも約120万トン、最先端産業で重要なジスプロシウムが57年分、テルビウムが32年分、ユウロピウムが47年分、イットリウムが62年分存在する。

 

 

レアアースこそが製品競争力を支える


レアアースは蓄電池や発光ダイオード、磁石などの性能向上に欠かせない素材として知られ、その応用範囲は限りなく広く、製品の競争力に直結する。
わかりやすいのは永久磁石だ。温室効果ガス削減効果の高いハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)など、次世代自動車のモーターには強力な永久磁石が部品として必要になる。永久磁石は高温になると磁性を失うという特徴があるが、電気自動車は走行時にモーター内部が200度以上の高温となることから、使用する永久磁石は高温下でも磁力を失わないものが求められる。


こうした課題をクリアするために、永久磁石にはレアアースの一つであるネオジムと鉄、ボロンそして高温下でも磁性を保持する性質をもつジスプロシウムを主成分としたネオジム磁石という強力な永久磁石が使われている。このような事例は枚挙にいとまがないわけだが、自動車をはじめてとする、競争力のあるエレクトロニクス製品を支える素材であるために、レアアースは資源外交の目玉になっていた。

 

 

煮え湯を飲まされ続けてきた日本


というのも、レアアースの多くは中国に頼らざるを得ない状況だからだ。特に2000年代初頭は尖閣初頭問題などもあり、日本と中国の外交は大変難しい状況にあったこともあり、レアアースは中国から日本への輸出が制限されるなど、日本産業界は煮え湯を飲まされてきた。


もちろん、日本も黙っていたわけではない。2016年、大手自動車メーカーのホンダは大同特殊鋼とレアアースを一切使用しない、いわゆるレアアース・フリーの駆動用モーターを開発したことを明らかにした。2016年秋に発売されたミニバンに搭載し、順次対象を拡大させている。ただし、レアアース・フリーの製品開発事例はまだ稀で、むしろ、レアアースを使用する製品の対象が広いだけに、10年以上に渡って、日本の産業界は頭を悩まし続けてきた。


そういう中で今回の南鳥島近海で、世界需要の数百年分のレアアースを発見したというニュースは資源外交という意味では日本と中国の立場を一変させるものだ。

 

 

低コスト化の技術も確立している筋の良さ


しかも、今回のニュースのポイントは、レアアースが特に多く含まれる鉱物を効率よく回収する技術も確立した点にある。レアアース泥を構成する鉱物のうち、レアアースの大半が「生物源リン酸カルシウム」(BCP)という鉱物に含まれていることが判明し、BCPの粒は他の鉱物より大きく、ふるい分けして効率よく回収できるという。


東京大学や早稲田大学の研究チームの実験によると、レアアース泥の総レアアース濃度を最大2.6倍(6030ppm)まで高めることに成功し、これは中国の陸上にあるレアアース鉱石(300ppm以上)の約20倍、BCPのみを完全分離する方法を確立できれば、約50倍まで濃度を高められる可能性もある。分離により、海上へくみ上げる泥が減り、コスト削減も期待できるという意味で、日本産業界にとっては、ビッグニュースと言っていいだろう。このニュースを受けて、三井海洋開発や日本海洋掘削の株価は4月11日、急騰した。

 

 

外交は与党が基本だが・・・


日本の排他的経済水域には、レアアースのほかに、30年以上前からメタンハイドレードが大量に存在することが確認されているが、こちらはまだ採掘に当たってコストがペイする技術が確立されていない。いずれにしても、改めて海洋資源に大きな可能性があることを再確認させられたニュースだ。


現在の第二次安倍政権は積極的な資源外交を展開してきた。サウジアラビアやUAE、アメリカ、ロシアはもとより、アフリカやペルー、アルゼンチンなどとも積極的に関係強化を図ってきたところだ。


残念ながら外交ばかりは与党が主役で、野党の出る幕はない。しかし、政権交代を目指すのであれば、野党が政権を取った時には、資源外交はどうするのか。あるいは、今回のようなビッグニュースを受けて、野党が考える日本の海洋資源をどのように活用していくのか、海外との関係構築に使っていくのか、その辺の考え方やビジョンを国会審議で打ち出してほしい。


そのためには、テクノロジーのトレンドもしっかりと掴んでおかなればいけないだろう。10年先に主役になる材料、素材はなにか、それに対して国は正しい戦略を打ち出しているのか。野党はビジョンを示しつつ、国家戦略に不備はないか、見落としがないか、そういう視点もぜひ持ち合わせてほしいところだ。ものづくりこそが生命線の日本にとって素材、材料の競争力は非常に重要になってくるのである。