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統合型リゾート(IR)実施法案、さらなる議論を

 

 

 

統合型リゾート(IR)実施法案の審議の行方


 与党が8日の衆議院内閣委員会での採決を提案するなど、統合型リゾート(IR)実施法案(正式名称:特定複合観光施設区域整備法案)の審議が大詰めを迎えている。


 カジノ開設の道を開く法案であり、野党からは強い反発もあるため、与党としては対応に苦慮するところだろう。


 ただ、法案の構成上、カジノ事業に関わる内容が中心となっていることから仕方がないこととはいえ、これまで行われた審議ではカジノ開設の成否に関心が集まり過ぎたきらいがあった。賛否あるのは当然として、あらためてIR実施の法案であることに立ち返って、今一度の議論が必要ではないだろうか。

 

 

米朝会談はシンガポールのIRで実施される


 このIRは、今週以降、おそらく世界中で注目が集まるはずだ。というのも、トランプ大統領と金委員長が会談するシンガポールのセントーサ島はまさにIRの代表的事例であるからだ。セントーサ島に決まる前に会談の舞台となるのではと取沙汰されたマリーナベイ・サンズもシンガポールにおけるIRの成功例とされる施設群である。


 もちろん、二人の首脳はカジノを楽しむためにシンガポールを訪れるのではない。彼らは主に会談を行うためにシンガポールに訪れるのであり、その会談を実施するために最適な場所として、IRの施設が選ばれたのだ。
 
 この出来事にも象徴されるように、カジノはIRの主要構成施設では必ずしもない。首脳同士の会談の場としてIRが使われることはそう多くないが、国際会議や展示会の場としてIRは利用され、そこには世界中から人が集まる。そして、そこに集まった人が合せてカジノも楽しむというのが、IRにおけるカジノの位置付けである。

 

 

法律におけるカジノの位置付け


 現在、委員会で審議されているのは統合型リゾート(IR)の「実施」のための法案であり、既に「推進」のための法律は成立している。それが統合型リゾート(IR)推進法であり、同法では以下のように「特定複合観光施設」が位置付けられている。

 

「この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。」


 (特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律:統合型リゾート(IR)推進法 第二条)

elaws.e-gov.go.jp

 

 

この条文を読むと、「一体となっている施設」とあるので、IRを開設する上でカジノは欠かせない存在でありそうだ。


 今国会で審議されている統合型リゾート(IR)実施法案になると、以下のように書かれている。

 

 「この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設と第一号から第五号までに掲げる施設から構成される一群の施設(これらと一体的に設置され、及び運営される第六号に掲げる施設を含む。)であって、民間事業者により一体として設置され、及び運営されるものをいう。」


 (特定複合観光施設区域整備法案:統合型リゾート(IR)実施法案 第二条)

●特定複合観光施設区域整備法案

 

 よりカジノが中心的な存在として位置付けられた書きぶりになっていることが分かるだろう。


 実際、この統合型リゾート(IR)実施法案は、カジノ事業及びカジノ事業者、カジノ施設供用事業、カジノ関連機器等製造業等、さらにカジノの入場料などを定める条文から構成されている。事実上、カジノ実現のための法案と言っても良いだろう。

 

 

カジノの実現が本筋ではない


 カジノ実現のための法案が審議されているのだから、カジノの当否を問うのは当然だという声も聞こえてきそうなところであるが、「国内外からの観光旅客の来訪及び滞在を促進すること」を目的として、IRの開設を目指すのであって、「健全なカジノ事業の収益を活用して地域の創意工夫及び民間の活力を生かした特定複合観光施設区域の整備を推進すること」が重要であることを忘れてはならない(引用は、いずれも統合型リゾート(IR)実施法案第一条より)。

 

 カジノ事業の収益を活用すると簡単に言っても、カジノだけの魅力で内外から人を呼べるほど甘くはない。IRとしての全体の魅力があるからこそ、人は集まるのであり、集まることによってカジノの収益にもつながるのである。

 

 

日本でIRを成功させるという視点


 米朝会談が行われるセントーサ島には、ユニバーサル・スタジオ・シンガポールがある。また、マリーナベイ・サンズは3棟のホテルの屋上をつなぐ空中庭園「サンズ・スカイパーク」で知られ、シンガポールの観光名所となっている。


 それぞれ、カジノも重要な施設の一つではあるが、それだけで人を集めているわけではない。この単純かつ重要な事実を見ずに、カジノ設置の当否にこだわり、「カジノを開設すれば人が呼べる」とか、「カジノを開設すると治安が悪くなる」といった単眼的な議論に終始していては、間違いなく事を誤ることになる。

このままでは、法律が成立してIRが開設されることになっても、誰も来ない会議場やカジノが生み出されるだけで終わるだろう。既に日本各地では、利用されないコンベンションセンターが存在しているが、今度はそれに、カジノというあまり嬉しくないおまけがついただけということになりかねない。


どうしたら魅力的なIRを日本に作ることが出来るのか。その中で、どのようなかたちのカジノを設置するべきなのか、あるいはカジノ抜きのIRも可能なのかどうか。日本でIRを成功させるという視点から、国会での審議を重ねて欲しいものだ。