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高額な値段。家から通えるイージス・アショアではなく、真に防衛に必要な装備を

 

 

 

家から通えるイージス・アショア?

 

 2月12日の予算委員会にて。国民民主党の泉健太議員が弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の整備について質問した。
 泉議員の質問のポイントは以下のとおり。

 

 ✓陸上に配備されるイージス・アショアは真っ先に攻撃対象になるのではないか。
 ✓イージス・アショアを配備するより、イージス艦が増えることが予定されているので、艦に搭載するミサイルを増やすべきではないか。

 

 いずれも、この間に国会でも議論されてきた論点ではある。実際に、泉議員の質問に答える際に、安倍総理は「陸上に配備されている利点について、岩屋大臣から答弁させて頂いているように」と始めた。
 しかし、その後の答弁が波紋を呼ぶものであった。

 

 安倍総理の答弁を要約すると、「イージス・アショアは陸上に配備されることから、自衛官が家から通いやすい」というもの。
 確かに、これまで少ないイージス艦をやりくりする必要があり、自衛官の負担の重さが問題視されていた。その役割の一部でも陸上のイージス・アショアで担うことが出来れば、それだけ自衛官の負担も軽減される。そう答えるために、安倍総理は家から通えるという話を持ち出してきたようだが、その答弁の不見識さは批判の対象となっている。

 

hbol.jp

 

 自衛官がイージス・アショアに通いやすくなっても、それが日本の防衛上で意味のあることでなければ、多額の予算を投じてまで進めることではない。

 

 

イージス・アショアの三つの問題点

 

 イージス・アショアについては、以下の部谷氏の指摘が参考になる。

 

news.livedoor.com


それによると、イージス・アショアには三つの問題点がある。

 

 1)戦略的縦深性の不足
 2)海上自衛隊の負担増
 3)ゲリラコマンドへの脆弱性

 

 まず1)について、イージス・アショアでは迎撃困難な弾道の場合や迎撃に失敗した場合、射程の短いPAC-3ミサイル(地対空誘導弾)に頼らなければならなるということだ。イージス・アショアは、さながら「帯に短し襷に長し」といったところだろうか。
 もちろん、全くの無用の長物というわけではないだろうが、有効となる場面だけ強調して、その配備の必要性を強調するような主張も見られるところで、注意が必要だろう。

 

 次に2)について、安倍総理も自衛官の負担軽減を理由にあげたわけだが、実際には負担の軽減どころか負担は増加するというのである。
 部谷氏によると、「今後、イージス艦は6隻から8隻への増勢が決まっており、ここにイージス・アショアが加われば、1.5倍の人員が必要になる。人員の増加は見込めないので、隊員の負担はますます悪化することになる。」とのことである。また、2基で6千億ともいわれる高額な値段も問題となっている。そうなると、冒頭に紹介した国民民主党の泉健太議員の質問にもあったように、イージス・アショアを配備するよりは、イージス艦の装備を充実させる方が現実的あるようにも思える。

 

 最後の3)は、これも泉議員の質問と同じ趣旨であるが、陸上に固定されるがゆえの脆弱性である。この脆弱性については、それは仕方ないものとして割り切って、それでも有用であるので配備すべきとの意見もあるようだが、そもそも日本の防衛にはあまり資さないかもしれないものを、脆弱性を知った上で配備するというのは無理筋だろう。

 

 

もしやアメリカのための配備か

 

 先に、安倍総理の答弁に対して批判を行った記事を紹介した。その中で、イージス・アショアは日本の防衛のためではなく、主にアメリカのグァムとハワイの防衛のための施設である指摘されている。

 

hbol.jp

 

hbol.jp

 

 イージス・アショアが配備されるのは、山口県萩市と秋田県秋田市の自衛隊施設。
 北朝鮮から弾道ミサイルが発射されると、ハワイ攻撃の場合であれば秋田など東北北部の上空を、グァム攻撃の場合であれば山口・九州北部上空を弾道が通過する。それゆえに、山口・秋田両県にイージス・アショアを配備するのではないかというのである。

 

 もちろん、北朝鮮からアメリカに向けて弾道ミサイルが発射されると仮定すれば、そうなるという話で、別の場所から日本に向かって弾道ミサイルが発射される場合に山口県や秋田県が適切な配備場所になることもあろう。ただ、北朝鮮から東京や大阪に向けて弾道ミサイルが発射されるとなると、両県ではなく、北陸の各県や新潟県あたりに配備する方が理にかなっている。
 いずれの地域を重点的に守るのかというナイーブな議論を喚起することにもなるが、それはイージス艦のように洋上であれば広く展開可能となれば克服可能である。あえて、そのようなナイーブな議論を呼び起こしてまで、山口と秋田にイージス・アショアに配備する理由が安倍総理の答弁からは見えにくい。

 

 

真に防衛に必要な装備を

 

 防衛力を強化すること自体には多くの国民も反対ではなく、先の質問者の泉議員が所属する国民民主党も反対はしていない。問題は、防衛力の強化として進められようとしている事柄の妥当性が判然としないことである。
 「家から通える方がよい」という趣旨の安倍総理の答弁は自衛官の弁を代弁しているのかもしれないが、そうではなく、真に日本の国防のために高額な値段のものを購入せずに必要な予算の使い方をする。そういう姿勢が求められていることを忘れずに、予算審議にあたって欲しいものである。