いよいよ2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック。ホテル業界の関係者と話をすると、既に間に合わない状況にあると危機感を示す。その理由は、今、新規で従業員を採用したとして、基礎的な教育を受けてホテルマンとして現場に立てるようになるまでに2年を要するからだ。要はタイムリミットだという。
こうした声は枚挙にいとまがない。なんといっても、今、一番の問題は期間中のボランティア問題だろう。今年6月に東京都が発表したボランティア募集要項によると、会場案内やアテンド、運営サポートなどの9分野で、合計8万人のボランティアが必要だという。
必要なボランティアは8万人
ボランティア問題は色々な論点があるので、まずはその概要を押さえておこう。ボランティアの活動時間は1日8時間程度、期間は10日以上を基本とするもので、滞在先までの交通費や宿泊費は自己負担という内容だ。
8人の内訳は、観客やオリンピック・パラリンピック関係者の案内、チケットやセキュリティチェックのサポートといった案内に1.6万人〜2.5万人、各競技および練習会場における競技運営などのサポートに1.5万人〜1.7万人。大会関係者の移動サポートで1万人〜1.4万人、海外要人のアテンド・サポートに0.8万人〜1.2万人など、である。
果たして、これだけの数のボランティアを本当に集めることができるのだろうか。なんといっても、宿泊費から交通費まで参加者の持ち出しである。東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏在住であれば、宿泊費が発生しないため、この辺からボランティアを集めるしかないわけだが、既に文部科学省とスポーツ庁が全国の大学と高等専門学校に対して、学生の東京五輪のボランティア参加を促すため、五輪・パラリンピック期間中は授業や試験をやらないよう通知を出したという。
21世紀の学徒動員という批判も
文科省が促したのは、期間中がちょうど大学の前期試験に重なるため、授業や試験を自重するように求めたのである。通知を受けた大学側も、既に首都大学東京や国士舘大学、明治大学などのように、大会期間中の休みを決定した大学や検討し始めた大学が出てきている。
このボランティアについては、「善意の消費」という批判も出ているところだが、それを脇に置いたとしても、東京はすでに朝晩の通勤ラッシュを見てもわかる通り、都市機能は麻痺しつつある。この状況の中で、大会関係者、ボランティア、選手、世界中から集まる観戦者が一気に動いた時に、高速道路、一般道路、鉄道と都市機能を維持したまま、運行が可能なのか、非常に不安を覚える。
倒れる人が続出?都内の救急はパンクしないか?
加えて、何より心配なのは期間中の気候だ。東京オリンピックが開催されるのは2020年7月24日〜8月9日、パラリンピックが8月25日〜9月6日。今年はもちろんのこと、例年の日本の暑さを考えると、この暑さの中での競技が開催されると選手はもちろんのこと、観客が熱中症で倒れるという事態も容易に想像される。そうなった時に東京消防庁だけで果たして対応できるのか。受け入れ先の病院は対応できるのか。
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長の森喜朗氏は「この暑さにどう打ち勝つか、ピンチはチャンスという発想で暑さ対策で日本のイノベーションを世界に発信する機会だ」とスポーツ新聞のインタビューに答えているが、能天気と批判されても仕方ないだろう。
今年の夏を見ても、朝の7時の時点で気温は30度を超えており、この気温下で何万人もの人が沿道に押しかけたり、屋内競技場への入場を待ったりするわけだ。会場が一つならまだしも、同じ時間帯に複数の会場で同じ状況が発生する。
2020年は分水嶺
こういう想定し得る状況に対して、日本は本当に備えが十分と言えるのだろうか。そもそもオリンピックそのものはサッカーのW杯同様、商業イベントであるから、本来は開催都市以外には関係のない話なのだが、これだけ大きなイベントになってくると、どうしても政府も関わらざるを得ない。考えれば考えるほど、不安しか出てこないが、開催時期の変更や時間帯の変更など、最善の努力はできないものだろうか。