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ふるさと納税はいかにあるべきか

伊那市ふるさと納税返礼品


 制度開始から10年が経過しようとしている「ふるさと納税」。全国各地の自治体がその返礼品として様々なものを提供しています。


長野県伊那市ふるさと納税の返礼品として家電製品を取り扱っていました。それには、伊那市で創業したPC周辺機器メーカーのロジテックが自社工場を構えるなど、伊那市にゆかりのある家電製品が存在したという背景があります。


伊那市では、2014年以降に返礼品が拡充されたことにより、2016年度には約72億円の寄付金を集めたとも報じられています。その全てが伊那市に残るわけではないですが、収支は2016年度で約25億円の黒字と発表されています。伊那市の市税収が85億円から90億円の間で推移していることを考えると、ふるさと納税で集まった金額の大きさがよく分かると思います。


長野県内でも、伊那市の他に塩尻市飯山市も返礼品として家電製品を扱っていますし、その他の自治体にも家電製品を扱っている自治体は存在しています。そのような中で、伊那市は、長野県内でトップの黒字額となり、その額も急速に増加させたことから、全国的にも注目される自治体となっていました。

 

ふるさと納税返礼品の過熱化

 

ふるさと納税の返礼品については、自治体間での競争が過熱化していると言われています。実際に、ふるさと納税の情報提供を行うサイト「ふるさとチョイス」にアクセスしてみると、全国各地の自治体が様々な返礼品を取り揃えていることが分かります。「どこの返礼品が豪華で、どの自治体にふるさと納税をしたら得が出来るか」ということを紹介する書籍も発売されたり、毎年多額のふるさと納税を行い、全国各地から大量の返礼品を受け取っている人がテレビ番組で紹介されたりすることもありました。
制度を作った国がこの過熱化を問題視し、2017年4月1日付で総務省都道府県に対して見直しを求める通知を出しました。ふるさと納税の返礼品の価格について、寄付額の3割までに抑えるように求めたのです。都道府県は、域内の自治体に対して見直しを求めるよう要請されたのです。


当初、そのような通知があっても、伊那市は家電製品の取り扱いを継続する意向を示していました。しかし、高市総務大臣伊那市を名指しして改善するように求めたため、家電製品の取り扱いについて見直しを行うという方針転換となりました。


ふるさと納税における返礼品競争の過熱に対しては批判の声もありましたし、都市部を中心に、さらには地方都市であっても、結果として大きく税収を減らす自治体もあり、制度のあり方が問題視されるところではありました。自治体としては背に腹は代えられず、どこかが豪華な返礼品を出せば、こちらも豪華な返礼品を出さざるを得ないという状況になっていました。そのような状況が行き過ぎないように、総務省都道府県に対して通知を出し、これ以上の過熱化を防ごうとしたと見ることが出来ると思います。

 

ふるさと納税の趣旨


そもそもふるさと納税は2006年に始まった第一次安倍内閣の下で考え出された制度です。現在の菅官房長官が当時は総務大臣を務めており、自分を育ててくれた「ふるさと」に納税できる制度があっても良いのではないかという問題提起から構想された制度です。


実際には、2008年度の地方税法改正によって、ふるさと納税は開始されました。ふるさと納税は、個人住民税の制度の一つで、日本国内の任意の自治体(都道府県、市町村および特別区)に寄付をすることにより、寄付した額の大半が税額控除されるというものです。開始当初は、それほど知名度のない制度でした。それが変わったのが2011年の東日本大震災からです。東北地方を中心として大きな被害を受けた自治体に対する支援の方法として、ふるさと納税が注目され、全国から多数の寄付が集まりました。


ふるさと納税では、選んだ自治体へ寄付をすると、自己負担分の2000円を除いた額が住民税と所得税から控除されます。返礼品のある自治体に寄付すれば、実質2000円で返礼品を受け取ることが出来ます。この返礼品が注目されてしまっているわけですが、ふるさと納税は、返礼品を配るための仕組みではなく、公益にかなう寄付を促す寄附税制の一種です。例えば、裕福な人がこれを利用することで得をしたり、返礼品の競争のために自治体が苦しめられたりする制度ではありません。それは、2017年2月16日の衆議院総務委員会において民進党鈴木克昌議員のふるさと納税に関する質問に対して、高市総務大臣が以下のように答えていることからも明らかです。


「返礼品送付というのは、ふるさと納税制度そのものに組み込まれているものではございません。税制上の措置とは全く別に、各地方団体が独自の取り組みでやっておられるものですから、まずは地方団体がみずからの御判断と責任のもとで良識ある対応を行っていただくことが重要です。」


この時の高市総務大臣と鈴木議員の質疑でも、高市大臣から個別の自治体に対して金銭類似性の高いものなどを返礼品として送付しないよう求める通知を都道府県に出し、個別の自治体にも協力を要請していたことが言及されています。鈴木議員も返礼品に注目が集まる状況に苦言が呈されています。


与野党で、この制度の中でも返礼品のあり方には問題があるという認識は一致していると言えます。例えば、野党の民進党も2016年末に公表した

民進党税制改革の基本構想」

(https://www.minshin.or.jp/article/110630)

において、「ふるさと納税の返礼品の在り方について、地方財政への影響も踏まえ、見直しを行うべきである。」としています。ここで、民進党の構想において強調されるべきは、今回の伊那市の件のように総務大臣が名指しで特定の自治体に対して是正を迫るような方法は採るべきではなく、制度設計をやり直すべきであるというところにあります。

 

地方分権から地方創生へ


 ふるさと納税は、地方税法改正によって実現したと書いたように、地方自治に関わる制度です。地方自治について、現在の安倍政権では地方創生の看板の下に様々な取り組みを進められています。


この地方創生は、2014年9月の第二次安倍内閣改造の際に掲げられたものです。その内閣改造では新たに地方創生担当大臣が置かれ、石破茂衆議院議員がその座につきました。その実務に当たる部署として、内閣官房には「まち・ひと・しごと創生本部事務局」が置かれています。


この2014年5月に、日本創生会議が発表した通称「増田レポート」で、人口減少により存続困難となることが予想される消滅可能性都市が示されました。このレポートでは具体的な自治体名も明示されたため、大きな反響を呼びました。このレポートをきっかけに、特に地方都市における人口減少の問題が社会的にも課題として強く認識されることとなり、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的として地方創生が安倍政権の主要政策として位置付けられる事態に至ったのです。
 地方創生が登場する前、民主党政権時代には「地域主権改革」が提唱されていました。内閣府のWebサイトには、地域主権改革について、次のように書かれたページが残されています。

 

地域主権改革は、地域のことは地域に住む住民が責任を持って決めることのできる活気に満ちた地域社会をつくっていくことを目指しています。このため、国が地方に優越する上下の関係から対等なパートナーシップの関係へと転換するとともに、明治以来の中央集権体質から脱却し、この国の在り方を大きく転換していきます。」
(http://www.cao.go.jp/bunken-suishin/ayumi/chiiki-shuken/index.html)

 

民主党政権交代を果たす前の各政権でも地方分権改革が進められてきました。特に、2000年の地方分権一括法施行は現在の地方自治を考える上では重要な転換点となっています。この地方分権一括法により、国と地方の役割分担の明確化、国の関与のルール化が図られました。何より、この時に中央集権型の行政システムの中核的部分を形作ってきたとされる機関委任事務制度が廃止されました。以後、2017年4月の第7次一括法まで、地方分権改革の取り組みが蓄積されてきたのです。地方自治は、時々の政権で常に重要な政策課題として位置付けられ、様々な施策が展開されてきたと言えます。なかでも地方創生は、「創生」という言葉が利用されていることからもうかがえるように、地方において自立的に何かを「創り出す」「生み出す」ことを促すことを指向した取り組みであるとまとめられでしょう。


ふるさと納税の話を先にしましたが、これは各個人が行うものです。地方創生の一環として、2016年からは企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)が始まりました。これは、企業が自治体の進める地方創生事業に対して寄付を行うと全額損金算入され、寄付額の最大6割分の法人税や法人住民税が軽減されるというものです。企業の寄付によって地方に資金を流入させ、それをもって地方で何か新しいことが作り出されることを促そうとしていたことがうかがえます。

 

今こそ、地域の創意工夫を促す環境づくりを


 今回のふるさと納税の過熱化に対する総務省の通知は、国と地方の役割を考えるきっかけになったのではないかと思います。


民主党地方主権改革で目指された「国が地方に優越する上下の関係から対等なパートナーシップの関係」へということが実現しているとは言い難いですが、これまでの地方分権改革によって、国が一方的に地方に指示するといった関係ではなくなっていることは事実です。今回の総務省の通知にも、「この通知は地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4(技術的な助言)に基づくものです。」という一文が記されています。地方分権一括法により、国の関与のルールの明確化が図られてきましたが、この地方自治法第245条の4という条項もその一環として整備されたものです。ここに「技術的な助言」とあるように、今回の通知はあくまでも「助言」に過ぎません。伊那市のように、結果として通知に沿う対応を取る自治体もあれば、必ずしも通知に従わない自治体もあります。通知に対して自治体として従わないというのはそれなり覚悟がいることだと思いますが、それでも選択は自治体に任されています。前に引用した高市総務大臣の総務委員会での答弁にもあるように、自治体が独自に行っていることに対して、国が無理に変更を迫ることは出来ないのです。


 ふるさと納税という全国共通の制度が導入され、返礼品についての対応は各自治体に任されていました。国は日本全体のことを考え、国全体にかかわる制度作りをします。自治体はその制度枠組の中で創意工夫を凝らして競争をしていたことになります。今回、この競争に国が待ったをかけましたが、その待ったのかけ方には問題があったと思わざるをえません。伊那市に限らず、大臣から名指しの批判を受けると、多くの場合、それに従わざるを得ません。しかし、そのような国の関与の仕方を出来るだけ排除しようというのがこれまでの地方分権改革によって目指されてきたことです。


ふるさと納税について返礼品のあり方に関して問題があるのであれば、改めて制度設計をし直すべきです。今回の件のように技術的な助言ということを踏み越えて、特定の自治体に対して大臣が対応を迫ると言うのは、安倍内閣が掲げる地方創生やこれまでの地方分権改革の流れを否定するものととられかねません。


ふるさと納税の開始時の趣旨は自分を育ててくれた「ふるさと」に納税できるようにするということですし、あるいは、震災復興などで頑張っている自治体を応援したいという気持ちに応えるために存在する制度です。しかし、いつしか、返礼品を得るために寄付し、寄付を得るために返礼品を豪華にするというものになってしまいました。もちろん、各自治体が寄付を集める方法について創意工夫を凝らすこと自体は否定されるべきではありません。問題は、寄付と地方税制と返礼品が結びつき、納税に関する不公平感が一部では生じてしまっていることです。先に紹介した「民進党税制改革の基本構想」では、ふるさと納税に関して寄附税制との関係での制度の再設計が提案されていましたが、返礼品を工夫することに多くの寄付を集めた自治体に対して個別に大臣が対応を迫るというのではなく、寄付に関する税制のあり方も含めての制度の再設計が求められていると言えるでしょう。特に、地方分権や地方創生が進められている現在においては、地域の創意工夫を促す環境づくりをいかに国が行っていくのかという視点から再設計が求められています。