大臣就任を打診されながら一度は断り、派閥の領袖の二階幹事長に叱責されたというエピソードを提供した江崎鉄磨内閣府特命担当大臣。就任早々、失言騒動を巻き起こしている。
地元の支援者らによる就任祝賀会合後、記者団の質問に対して、「答弁は役所の原稿を朗読する」とか、担当することになった領土問題については「素人は素人。白紙で、皆さんの知恵で色をつけてもらうことが大切」とかいった発言をしたというのである。
江崎氏については、入閣待望組の一人とされ、いざ大臣に就くことになったら、自身の専門とする分野の担当ではなかったということかもしれない。ただ、領土問題は素人かもしれないが、江崎大臣の担当のひとつである消費者及び食品安全については、江崎氏自身が衆議院消費者問題に関する特別委員長を務めた経験もあり、決して未知の分野ということでなく、安倍総理なりに適材と見込んで江崎氏を選んだはずである。
内閣府特命担当大臣は、どうしても複数の分野の担当を任されることになるため、必ずしも詳しくない分野の担当を任されることになるのは仕方がない。例えば、江崎氏と同じく初入閣の松山政司氏は、一億総活躍担当、情報通信技術(IT)政策担当、内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画、クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)と、あらゆる分野を担当することになっている。
大臣就任直後で、つい軽口を叩いてしまったということかもしれず、自民党支持者であれば、「そんなことに目くじらを立てなくても」とか、「またマスコミが都合良く発言を切り取って報じている」と擁護するところだろう。しかし、そういう人こそ、民主党政権時に、まさに同じような内容の軽口をたたいたことで柳田稔法務大臣が辞任に追い込まれたことを思い出すべきだ。柳田大臣は自身の国政報告会で支持者に向けて、法務大臣は「個別の事案についてはお答えを差し控えますと、これが良いんです」などと国会での答弁を軽視すると受け取れる発言をした。この時は、自民党が法務委員会で発言を厳しく追及し、結果、柳田氏は大臣辞職に追い込まれている。
就任からそれほど時間を置かず、主に自身の支持者向けに、リップサービスかもしれないが国会軽視や大臣の職務をないがしろにするような発言をしたという意味では、江崎大臣も柳田元大臣も変わるところはない。柳田元大臣の際には、発言から1週間ほどで菅総理から引導を渡されたかたちになったが、果たして江崎大臣に対して安倍総理はどのような対応を取るのか。ここで江崎大臣を守るようなことがあると、今度は江崎大臣が金田前法務大臣のごとく国会答弁で行き詰まり、さらに任命責任を追及される事態にもなりかねない。このまま江崎氏を大臣に留まらせるとすれば、誤りを正すという意味では安倍総理は菅総理に劣るということになる。
8日午前の閣議後の記者会見では、オーストラリア沖でアメリカ軍オスプレイが墜落した事故に関連して、江崎大臣は「日米地位協定は少し見直さないと」という発言をしたと報じられている。日米地位協定の見直しは主に野党が主張してきたことであり、現政権は見直しには慎重な立場を崩していないため、この発言は当然に閣内不一致であるとの批判を受けることになる。
内閣の一員として、政権が向かうべき方向に歩調を合わせるとともに、自らに任された政策分野については責任をもって、その職務に当たる。これが大臣としての基本である。対して、任された分野については素人であると公言し、答弁は官僚に頼り、あげくは政権の向かう方向とは真逆のことを軽々に発言するようでは、早晩、この大臣はその座を追われることになるのであろう。
江崎氏は1993年の初当選以来、所属政党を移る際などに一貫して二階幹事長と行動を共にするなど、最側近と言われている。二階幹事長への配慮から江崎氏を入閣させたとなれば、またもや「お友達」内閣の失敗を繰り返すことにもなりかねない。
支持率回復も目的だったはずの内閣改造で、直後の世論調査で支持率も若干の持ち直しが見られたところに、早速の大臣の失言。適材適所を貫かず、入閣待機組や派閥領袖への配慮などしていると、内閣の命運自体が危うくなる。