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教員の働き方改革は必須も、根本原因にはついては議論されず

 

 

 

教員の労働環境が悪い。この話はかれこそ10年ほど前から、ささやかれていた。国もようやく重い腰を上げて、教員の働き方改革の議論に着手し、12月6日には中央教育審議会は長時間労働などの解消策に向けた答申素案を明らかにした。

 

 

素案は大きな一歩


その素案のポイントは大きく4つ。(1)時間外勤務の上限を「月45時間、年360時間」以内とするガイドラインの設定、(2)従来「自発的」とされていた時間外の授業準備や部活動などの業務の「勤務時間」への算入、(3)休日のまとめ取りを認める「変形労働時間制」の導入、(4)担うべき仕事の明確化、である。

 

この答申素案に基づき、文部科学省は2020年度の実施を目指し、関連法の改正などに着手する予定という。ガイドラインに違反した場合の罰則などは現時点では素案には示されておらず、実効性に課題は残るもののの、ここは国会審議の中で議論されるであろうし、従来のなし崩して的な、劣悪と言ってもいい、教員の労働環境にメスが入ったことを思えば、今回の中央教育審議会が示した素案は大きな一歩と評価していいだろう。

 

 

過度な負担が若手・中堅に


教員、特に若手・中堅の教員の労働時間が増加の一途をたどっているのは、例えば、こんな状況で生じている。一つには自治体の教育委員会への報告のための事務作業が膨大である。2000年代初頭、まだ日本社会全体がIT化への対応を進めている過渡期にあったころ、学校でもよくUSBメモリの紛失が相次いだ。今でもないわけではないが、当時は頻発していた。そこにはテストの結果など個人情報が記録されていたこともあり、地方議会でもUSBメモリの管理のあり方などが槍玉に上がった。

 

こういう問題が生じるたびに、現場はUSBメモリの紛失を防ぐための検討やしくみ作り、あるいはそれに付随する報告書を教育委員会へ提出するなど、本来業務からかけ離れた事務事業が膨大に積み上がってしまった。

 

今や、教員の労働時間のうち、生徒と接している時間は全体の2割〜3割で、残りの7割〜8割は書類作成に追われている、と言われているほどである。私立であれば、事務局が存在するため、一定程度の事務作業はここに任せることができるものの、公立の場合はその機能を有しないために、基本的には現場で先生が対応するしかない。

 

 

部活問題も中堅教員にばかり負担が・・・


加えて、部活問題がある。部活での指導、試合のための引率、これらはすべての教員の労働とはみなされていない。あくまでも自主的な活動という位置付けだ。そのため、何が起きるとかというと、ベテランの教員は部活を嫌がり、結果、若くて体力のある若手・中堅の先生が部活をかけもちする、という事態が生じる。

 

部活がかけもちになると、その先生にとっては連日部活が発生し、土日も試合などで潰れることになり、授業準備がままならない、という話は現場ではザラにある。

 

 

自治体の採用計画が今の労働環境に影を落としている


実はここには非常に根っこの深い問題が横たわっている。それは教員の年齢構成だ。非常にいびつで、50代の大量の教員がいる一方、30代がごそっと抜けている。理由は簡単で、この世代が社会人になるころ、各自治体が一斉に教員の採用を控えたから、である。公務員の人員調整は企業と異なりリストラという方法を取れず、退職者と新卒の人員で調整する以外にないため、このような事態が生じており、それが結果、中堅の教員に過度な負担を強いる現状を生み出しているのである。

 

今回の中央教育審議会の素案は大きな一歩と評価できるが、一方で、この20年に積み上がってしまった、いびつな教育現場をどう是正していくか、公教育は社会のセーフティネットとしても重要であるため、この辺を国会議員が丁寧に議論してくれることを切に願う次第だ。