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厚生労働省が発表 出生数90万人の衝撃。果たすべき政治の役割とは

 

 

 

推計よりも早まった90万人割れ

 

今月発表された厚生労働省の人口動態統計(速報)によると、2019年に出生数が90万人を下回る見通しであることがわかった。2016年に100万人を割り込んでから3年で90万人を切るというのは政府が想定していた人口推計よりも2年早いペースだという。

 

ちなみに2018年の出生数は91.8万人で過去最低であったから、未だ少子化に歯止めがかかっていないということになる。

 

1899年以降で統計を取ってきた中で最多は1947年から49年までの第1次ベビーブームの時代。「団塊の世代」と呼ばれた世代だ。当時は毎年260万人の子供が誕生していた。第2次ベビーブームは団塊ジュニアと呼ばれた1971年から74年までの世代。残念ながら第3次ベビーブームの到来はなく、出生数は100人を下回った。第1次ベビーブームに比べれば、約3分の1の数だから、その少なさに改めて驚かされる。

 

 

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社会を維持するコストをどう負担するか

 

出生数の減少は、第2次ベビーブームを中心とする女性が、出産期をこえてきたことが影響しているという。第3次ベビーブームこそこなかったが、長く100万人代を維持したのには、晩婚化が背景にあった。しかし、いよいよそうした世代が出産期の中心から外れていったこともあり、グラフはぐっと下降線を描く見通しとなった。

 

現在、女性の40代の人口は約900万人だが、30代になると700万人弱、20代になると約580万人にまで減っていく。仮に単純に出生数90万人が10年続いた世代が出るとすると、その世代の女性数は約450万人になる。出生数90万人の少なさがよくわかるだろう。

 

当初、政府の推計では90万人割れは2021年だったというが2年早まった。人口推計は外れても、すでに誕生した後の人口構成は正確だ。人口は生まれた以上に増えることはない。


将来社会のあり方をどのように描くかを真剣に議論しなければならない局面が訪れているといっていい。日本の人口はすでに自然減が始まっている。2018年のデータで、91万人誕生したのに対して、死亡数は130万人を超えており、40万人を超える人口減少が起きている。

 

当然のことながら、高齢者の医療や年金、介護などの社会保障制度の維持コストを担う現役世代がぐんぐん減っているわけだ。それはつまり労働力の減少を意味する。15歳から64歳までの生産年齢人口の割合は60%を下回っており、1992年の69.8%をピークに減り続けている。一方で高齢者人口が増加の一途をたどり、そして15歳未満の子どもの数は減っている。

 

これから先、かつてのように急激な経済成長を見込むような社会上ではないことは明白だ。どのようにしてこの国の力を維持し、さらに成長させていくか、過去の成功体験によらない新たな戦略が求められている。

 

 

「未来への過少投資の時代」から「未来への投資」へ

 

そこにはやはり政治分野での思い切った行動が欠かせない。10月の消費税増税はそうした社会の変化を見据えたものでもあったが、むしろ消費が冷え込むなど、経済的な悪い側面も想定しなければならないだろう。むしろ積極的な政策で支援策を講じられるかが政治の役割だ。到来するであろう未来を予見し、中長期的な視点で政策を提案し実行に移せるかどうかは政治の生命線でもある。

 

どうしても目の前の選挙を気にするあまり、教育をはじめ子どもの未来を創る政策分野は後回しにされがちだ。そんな思考をがらりと変えられるかどうかが今の政治不信を脱却する鍵でもある。

 

その点で言えば、「未来への投資」を積極的に掲げる国民民主党には期待したい。国民民主党の玉木代表は、平成の30年間を、教育や科学技術への投資の物足りなかった「未来への過少投資の時代」だったと評し、思い切った投資の必要性を訴えている。

 

児童手当の拡充をはじめとする子育て環境への積極的な投資や「こども国債」の発行など「チルドレンファースト」と銘打つ政策を掲げているほか、出生数に関連する政策では、男性への支援も含めた不妊治療の費用助成や仕事と治療の両立を実現するための不妊治療休暇の提案なども訴えている。

 

将来の社会を担うことになる次の世代を増やしていくには親世代が安心して暮らせる社会を実現することが何より重要だ。未婚率の上昇や晩婚化などはあっても、子どもを産み育てやすい環境を整えることで、それらの課題を解消できたり、一家庭あたりの出生数が上昇することにもなるかもしれない。

 

どうしても投票権のない子どもや、投票率の低い若い世代に響く政策というのを政治家は敬遠しがちだが、掲げた課題の重要性は誰もが納得するはず。選挙目当てに走らない政治家が増やすことが、人口減を食い止める方策なのかもしれない。