霞が関から見た永田町

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経団連の「就活ルール廃止」がもたらす教育のイノベーション

 

 

 

経団連会長の中西宏明氏が打ち出した、2021年春以降入社の学生からの就職・採用活動ルールの廃止。この意向表明は各方面に大きな波紋を呼んでいる。

 

紆余曲折はあろうが、これは自然な流れであり、今後、大学教育のあり方を含めて教育にイノベーションが起きる可能性が出てきた。

 

 

優秀な学生を採用できない現行ルール


そもそも、現在の就活ルールも形骸化しているという現実から目を背けてはいけない。例えば、経団連に加盟しない外資系企業やベンチャー企業は、この自主規制を守る必要がない。

 

昭和から平成になったころ、世界の時価総額ランキングのトップ20に各種金融機関、電力や通信といったインフラ企業がずらっと名前を連ねた時代ならいざ知らず、2000年代初頭の就職氷河期を経て、若者の多くはいざとなった時に企業は若者には冷たいことを知った。

 

それよりも、競争が激しいかもしれないけれども、外資系企業やベンチャー企業で、手っ取り早くスキルを身につけ、キャリアアップを重ねていく働き方の方を好む学生が増えている。それは特に東大や早慶といった上位校ほど顕著な傾向が表れている。

 

 

東大生のコンサル、ベンチャー志向


例えば、東京大学の就職人気ランキングでは、1位がマッキンゼー・アンド・カンパニー、2位がボストン・コンサルティンググループ、3位がベイン・アンド・カンパニー、以下、野村総合研究所、アクセンチュア、A.T.カーニー、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、三菱商事、デロイト・トーマツコンサルティングと続く。

 

これらの外資系企業は採用活動ルールの外にいるだけではなく、早期のインターンシップ制度の導入で、実質的な採用活動を始めている。つまるところ、現状の採用活動ルールでは優秀な学生ほど確保が難しいのである。

 

最近ではこうした外資系企業に加えて、元気なベンチャー企業も生まれ、それらの多くは東京大学の卒業生が立ち上げたものも少なくない。同じ赤門で学んだ先輩が自らリスクを取ってベンチャーを立ち上げ、業績を着実に伸ばしている様子に触発された学生が、先輩の門を叩いているのである。

 

 

この20年で働き方は大きく変わった


経団連会長の発言を受けて、文部科学省、大学関係者、あるいは経団連加盟企業の中でも難色を示す向きがあるようだが、もはや時代遅れとしかいいようがない。少なくとも優秀な学生はそういう動きの遅い組織に見切りをつけているのだ。そして、これは日本における終身雇用の姿が大きく変わるキッカケにもなるだろう。

 

振り返ってみれば、わずか20年前、2000年初頭には第二新卒という言葉が存在した。今でも言葉としては生き残っているが、もはや死語と言ってもいいだろう。あるいは、転職35歳限界説というのもあった。今やむしろ、30代後半の方が十数年の経験を評価されての転職価値が生まれているほどで、この20年だけでも働き手の市場はガラッと変わった。

 

少子化とあいまって、雇用の流動化はますます加速するだろう。優秀な学生がルールに縛られず、チャレンジしやすい環境に自ら飛び込んでいく状況はきっと、将来、社会を変える原動力となるはずだ。そして、こうした学生の変化を受けて、次第に教育にもイノベーションが起きるだろう。今のままでは学生の期待に応えられないといち早く気づいた大学、あるいは高校、専門学校から変化が起きていくはずだ。

 

 

若者の心をつかむ政策を打ち出す政党はどこだ?


霞ヶ関や永田町はとかく、社会の変化から遠いところにいる。就活をめぐる学生の変化にも気づいていなかったり、知らない政治家が大半と言っていい。

 

若い世代はどうせ投票にいかないから、と政治関係者は諦めがちだが、今投票に行かない彼らの心をつかむ政策を打ち出すことができれば、彼らの関心はその政策を打ち出した政党へ向かうことだろう。いつの時代も未来の希望を語る者が強いのだ。問題は、彼ら大学の心情を理解している政党が今のところ、見当たらないところにある。野党の情報発信に期待したいところだ。