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逆進性対策だけに溺れずに、「社会保障と税の一体改革」の原点に返るべき(2/2)

 

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古証文になるが、消費税は財政再建には充てないはずだった

 

 古証文を出すわけではないが、かつて「一般消費税」という税金が政局を左右するほどの争点となったのだが、最終的に国会で決議が行われ、消費税と財政再建との関係などにおいて一定の方向性が示された。


 1975年度補正予算で、初めて赤字国債が発行された。今の感覚では想像できないが、危機感は相当なものであり、やむを得ざる禁断の措置として行われたという受け止め方がほとんどだった。

 

 赤字国債の発行を是が非でも終息させるための政治的意図を裏づけに、一般消費税の構想が浮上してくる。大平内閣のもと1978年11月に政府税制調査会の一般消費税特別部会で税率5%の一般消費税についての大綱がとりまとめられた。実際には、政府や自民党が一般消費税を導入することを正式に打ち出し、公約にすることはなかったが、大平総理は一般消費税に対して積極的な姿勢を示していた。


 1979年 10月7日の総選挙で、自民が大敗し、一般消費税導入の構想は完全に絶たれることになる。さらに自民党内で抗争が続き、政局が不安定になる中で、同年 12 月 21 日、「財政再建に関する決議」が衆参両院本会議で採択された。以下が決議文である。

 

財政再建に関する決議(1979年12月21日、衆議院・参議院本会議)

 

 国民福祉充実に必要な歳入の安定的確保を図るとともに、財政によるインフレを防止するためには、財政再建は、緊急の課題である。
 政府が閣議決定により昭和五十五年度に、導入するための具体的方策として、これまで検討してきたいわゆる一般消費税(仮称)は、その仕組み、構造等につき十分国民の理解を得られなかった。従って財政再建は、一般消費税(仮称)によらず、まず行政改革による経費の節減、歳出の節減合理化、税負担公平の確保、既存税制の見直し等を抜本的に推進することにより財源の充実を図るべきであり、今後、景気の維持、雇用の確保に十分留意しつつ、歳出、歳入にわたり幅広い観点から財政再建策の検討を進めるべきである。
 右決議する。

 

 財政再建と消費税を結び付ける考え方は根本的に否定され、増税なき財政再建路線が主流の動きとなっていく。その後、売上税、消費税の導入の論議に際しても、税収を国債償還等に充てるという発想は採られることなく、大型間接税を財政再建にストレートに活用する考えはタブー視されることとなった。

 

 

ネット増税に踏み込んだ野田内閣

 

 そもそも1989年4月に消費税が導入された際も、その後税率が5%に引き上げられた際も、全体の税収が大きく増えるという構図ではなかった。

 

 消費税導入の際には、減税先行、減税超過という枠組みであり、全体としてはむしろ税収が減る改革だった。所得税(3.3兆円)、法人税(1.8兆円)、相続税(0.7兆円)、個別間接税の調整(3.4兆円)の減税合計は9.2兆円で、消費税の導入(5.4兆円)と課税の適正化(1.2兆円)の合計は6.6兆円にとどまり、ネットでは 2.6兆円の減税となった。これに、修正協議をしていた民社党向けに退職金減税(1300億円)、公明党向けに寝たきり老人家庭減税(100億円)が加わって、さらに減税額が増えている。

 

 その後の1994年4月の5%への引上げは、ほぼ増減税同額となる枠組みだった。所得税・個人住民税(3.5兆円)、相続税(0.3兆円)、社会保障支出の増加(0.5兆円)で、減税・受益の合計は 4.3兆円。消費税率の引き上げ(4.1兆円)と消費税の課税強化(0.3兆円)の合計は4.4兆円となっていた。税制改革だけで見ると、若干の増収ではあるがわずか6000億円でしかない。

 

 このような減税超過、増減税同額という枠組みでは、そもそも財政再建につながるものになるわけがない。ある意味、1979年の国会決議の線がしっかり守られており、「増税なき財政再建」の原則が貫徹されていたとも言える。

 

 しかし、バブル経済は崩壊し、少子高齢化が急速に進み、社会保障関係費は増大し続け、財政事情の悪化も止まらなくなる。


 当初予算における社会保障関係費の規模と一般歳出における割合は、9兆5736億円(22.6%、1985年度)、13兆9898億円(24.2%、1995年度)、そして26兆3901億円(38.6%、2012年度)、32兆9732億円(44.3%、2018年度)となっている。

 

 こうした状況にも鑑み、2012年1月24日、野田内閣総理大臣は施政方針演説で「過去の政権は、予算編成のたびに苦しみ、様々な工夫を凝らして何とかしのいできました。しかし、世界最速の超高齢化が進み、社会保障費の自然増だけで毎年一兆円規模となる状況にある中で、毎年繰り返してきた対症療法は、もう限界です」と発言する。


 そして、「引上げ後の消費税収は、現行分の地方消費税を除く全額を社会保障の費用に充て、全て国民の皆様に還元します。『官』の肥大化には決して使いません」として、大胆なネット増税へと踏み込んでいった。

 

 

「社会保障と税」を通じた安心社会の確立こそ原点

 

 「消費税を増税して、社会保障を充実させ、財政健全化に取り組む」というのは主張としてはわかりやすい。ただ、消費税は厳密な意味での特定財源ではないし、これらの原則については何とでも解釈できるところがある。


 国民が一番知りたいのは、消費税率10%という水準は当座のものか、本来は何パーセントまで引上げなければならないいのかということを本音で示すことである。持続可能な財政、社会保障制度というのはどういうものなのかという点も釈然としない。国有資産の売却も含めて、行革の徹底でどれだけ財源が出るのか、出ないのかという点も明確にしておくべきだ。

 

 社会保障制度に関わる「国柄」を一体どうするつもりなのか。自助努力を前提とした中程度の社会保障制度しかできないと割り切るのか。税や保障費の負担はかなり大きいが、貯金などなくても安心して生涯を送れる制度を構築していくのか。


 今や「長生きするリスク」が顕在化しており、「貯金2,000万円、年金月額20万円」でも100歳まで生きたら、確実に破綻するなどという文章があちこちに出ている。施設に親を入れたはいいが、長生きしたら身元保証人たる子どもの家計も脅かされるということも各所で聞かれている。

 

 適宜、消費税率を上げて、現行の制度をかろうじて支える、あるいはサービスも少しずつ減らしていくというのが限界だとするのだろうか。高齢でもめいっぱい働いてもらって、極力社会保障費を減らしてほしいという一点に尽きるのだろうか。そうだとしたら、この点を明確に国民に説明していかなければならない。


 消費税の逆進性対策はそれなりに重要である。しかし、消費税率を大胆に上げても、日常の買い物などでは負担増となるが、格段に社会保障が充実して、多額の貯金をしたり、民間の保険に入ったりしなくても、安心して人生を送れる社会ができるのなら、国民が受け入れるかもしれない。

 

 いずれにしても、「社会保障と税の一体改革」を通じた持続可能な経済社会、社会保障制度を構築することが本筋である。逆進性対策や景気底割れ防止策は必要ではあるが、しっかりした哲学やビジョンのないままに、奇をてらったような対症療法ばかり並べても意味がない。