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来月11月20日に戦後最長内閣を迎える安倍晋三首相、相次ぐ閣僚の辞任が物語る長期政権の弊害。

 

 

 

相次ぐ閣僚の辞任が物語る長期政権の弊害

 

菅原経産相の辞任の余韻が未だ漂う中で、またもや公職選挙法に抵触する疑惑が永田町を駆け巡った。河井克行法相が、7月の参院選で当選した妻の河井案里氏の事務所が運動員に法定額を超える報酬を支払っていたとの週刊誌報道を受けて辞任した。報道が出てすぐに辞任に至ったのも、相次ぐ閣僚の不祥事に関わる醜聞の幕引きを急ぎたい政権中枢の想いがにじむ。

 

安倍首相にとってみれば現在の任期中に悲願である憲法改正に漕ぎ着けたい想いがあるだろうから、支持率を降下させかねない話題は、自身にとっても党にとってもマイナスでしかない。

 

それにしても菅原氏同様、一体、何を考えているのか。

 

今回の報道では、妻の案里氏の選挙事務所が7月の参院選で法定上限である15000円を超える3万円の報酬を支払っていた疑いがあるという。この選挙を実質的に仕切っていたのが、夫である河井法相だった。

 

「私も妻も預かり知らない」と河井氏は話しているそうだが、選挙事務において会計責任者は超重要ポスト。候補者以外でもその任に就くことはできるが公職選挙法に抵触した場合、候補者自身も連座制が適用されるため、その任用には細心の注意を払うもの。つまりは、勝手に法律違反を起こすような信頼できない人を会計責任者に置く候補などいない。万が一、会計責任者が公選法違反となれば、選挙の目的である「当選」が無効になってしまうからだ。さらには、公選法違反で逮捕起訴と刑事罰を受けることにもなる。なので、候補者と会計責任者というのは一蓮托生。

 

逆に言えば、法定額を超える報酬を支払う時には、候補者と会計責任者でその事実を共有し、秘密にしておくこともできる間柄というわけだ。

 

そういう意味では、ビジネスにおける社交辞令で言う「今度飲みに行きましょう」みたいなものであって、「預かり知らない」などというその言葉を文字通り鵜呑みにする人などどこにもいない。

 

 

いよいよ安倍首相は在任期間最長へのカウントダウンが始まった

 

そもそも今回の9月の組閣人事は、70人とも言われた「入閣待機組」の処遇が焦点ともされた内閣改造だった。メディアが報じた待機組の中に、菅原氏も河井氏も無派閥組の有力候補として取り上げられていた。奇しくも新閣僚には“失言”や“不祥事”のリスクを指摘する声もあっただけに、両氏の不祥事も予想通りの起結だったのかもしれない。

 

さらには“失言”も飛び出た。大学入学共通テストで導入される英語民間試験に関して「自分の身の丈に合わせて頑張って」との発言は、英語民間試験の延期をある意味後押しすることになった。国の文部科学行政を取り仕切るトップが、国民に「身の丈にあった」とは、その認識の甘さに誰もが眉をひそめたことだろう。

 

ちなみに、萩生田氏は自民党細田派。安倍首相の出身母体である。また“不祥事”で辞任に追い込まれた菅原氏と河井氏は菅官房長官に近い面々といわれており、政権中枢にとってはやはり痛手だろう。菅官房長官はポスト安倍の一人とも目されていることから、相次ぐ不祥事はポスト安倍の権力争いの匂いもどことなく漂う。

 

今月11月19日には桂太郎の持つ通算在職期日数2886日に並び、翌日にはこれを更新することになる。しかしながら問題は山積だ。閣僚は長期政権を笠に失言や不祥事が繰り返されている。これが長期政権による弊害というものなのか。通算在職日数は桂太郎と安倍首相のほかには、佐藤栄作、伊藤博文、吉田茂と歴史にその名を残す大物政治家が名を連ねる。教科書にその名が刻まれる面々であるが、そんな彼らよりも安倍首相は在職期間が長い安倍首相が果たしてどんな功績を残したというのか。

 

安倍首相の存在感を一躍高めたのは、小泉政権時の北朝鮮による拉致被害者問題。首相の座についても、一丁目一番地とも呼べた拉致問題に進展はない。アベノミクスの成果を自画自賛するものの、その効果を失敗と指摘する意見は数多い。意欲を示しているとされる日露関係に関しても停滞感は否めない。近年はアメリカ至上主義のトランプ大統領と、大国としてアジアのみならず世界でその存在感を示す中国の間で世界におけるプレゼンスが低下していることは明白だ。

 

 

説明責任と再発防止。この問題はリトマス紙になる

 

閣僚の不祥事に話を戻せば、政治家が法律の運用を軽視しているということ。これが長期政権によるタガの緩みであるのだろう。河井案里氏の事務所が参院選で法定額を超える報酬を支出したとされる疑惑も氷山の一角に違いない。SNSでは、運動員への法定額を超えた報酬支払いが珍しくないことを指摘する関係者もいる。河井氏はもちろん、菅原氏は十分な説明責任を果たすとともに、疑惑が確かであるならば司直の手に委ねなければならないが、政権としても党としても説明責任が伴う問題だ。さらには党所属の国会議員、地方議員の実態を調査できるかどうか。安倍首相の任命責任は重い。

 

この問題を指摘する野党側はもちろん、国・地方議員の状況を調査し、報告することは容易なはずだ。長期政権の歪みを正し、真に政権を担える議員集団が誰であるのかを示せる良い機会でもある。

 

こうした問題が起こった時こそ、国民に対し、どれだけ真摯な姿勢を示せるかが、一種のリトマス紙になる。疑惑の解明と再発防止に党としてどう対処し、立法府を担う議員としてどのようにこの国の制度を正していくのか、国民の厳しい視線が向けられていることを改めて自覚してほしい。