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「老後は2000万円必要」の衝撃 100年安心の年金制度はどこへ?

 

 

 

「老後は2000万円必要」の衝撃

 

 金融庁が3日に公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」において、「老後は2000万円必要」という記述があったとされる件。国会の委員会に出席した安倍総理も早速野党からの追及を受けることとなった。

 

mainichi.jp

 

 

 麻生金融担当大臣は不適切な表現であったとしたが、金融庁の報告書は題名通りに、高齢社会における資産形成や資産管理についてのものであり、2000万円必要というのも、一定の仮定に基づいた試算結果である。そのこと自体、不適切な表現とされるようなものでない。もしも間違いがあったとするのであれば、その仮定や試算の方法のはずだが、その部分での間違いを麻生大臣や安倍総理も認めていない。あくまで、「誤解を招く表現だった」とするに留まっている。つまり、金融庁の報告書の試算そのものには誤りはないということを安倍総理や麻生大臣は認めている。
 そもそも、金融庁の報告書は大きな誤りを含むものではない。「老後には2000万円が必要」の部分は、ある仮定の下で、老後に生活の不安がない程度に夫婦で暮らすには、90年生きるとして、年金の他に2000万円程度は必要と、試算しただけだ。もちろん、全ての人がそうだと断定したわけでもなく、ある仮定に基づいたモデルケースではそうなるとしただけである。そうである以上、報告書に示された2000万円という数字は否定しがたく、これだけ批判される事態になって、どう処理するものかと考えていたところ、これまでにない奇策を麻生大臣は打ってきた。

 

 

報告書を受領しない

 

 麻生大臣は金融庁が出してきた報告書を正式なものとして受け取らないという対応を取った。麻生大臣が審議会に諮問して作成されたにも関わらず、それを受け取らないというのは、異例中の異例の出来事だ。

 

www.jiji.com

 

 

 この報告書は金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」において作成され、3日の会合で明らかとされたものである。

 

www.fsa.go.jp

 

 

 報告書の案は、5月23日の会合で既に提示されており、これに対しても批判がないわけではなかったが、実際に6月3日に成案として出来上がってきたものを見て、「老後は2000万円必要」が改めて注目を集めてしまったというのがここまでの流れである。

 

 この報告書は「市場ワーキング・グループ」の事務局である金融庁総務企画局、そして、グループの委員を務める専門家によって作成されたものである。最終的に公表されるまでに12回の会合も重ねており、そこでも十分な議論がなされている。
 報告書を確認すると直ぐに分かるが、報告書の中には、「市場ワーキング・グループ」のメンバー名簿とオブザーバーの各機関の名称一覧が掲載されている。この報告書は、彼ら専門家や政府機関およびに日本証券業協会などの組織の協力を得て作成されたということである。少なくとも専門家として自らの名前を掲げて公開するものである以上、その内容には責任を持っているはずで、2000万円という試算の部分についても誤りのないものとして公表したはずだ。
 そういう種類の報告書であるにもかかわらず、その内容が国民受けしなかったからという理由で、麻生大臣は受け取りを拒否するというのである。
 専門家の知見よりも、政権の都合を優先するという姿勢がそこには表れている。

 

 

大事なのは都合の悪い真実も認めること

 

 「100年安心の年金制度」と胸を張っていたのが現在の自公政権である。野党からは、その都度、その制度設計のあり方に疑問が投げかけられていたが、心配ないとそれを突き返してきた。それが現在の自公政権である。
 「100年安心」を国民のどれだけが信じていたのかは不明だが、年金制度への漠然とした不安は多くの国民に共有されていたはずである。だからこそ、「老後には2000万円必要」という核心を突くような事実が告げられて、それが直接響いた国民が多くいたのではないだろうか。

 

 ただ、ここであらためて、金融庁の報告書は年金制度が崩壊するとは一言も言っていないことも確認しておきたい。100年安心かどうかは別として、年金制度自体は持続可能なものとなるように、工夫がなされている。ただ、その工夫には給付額の減額といったことも含まれる。だからこそ、年金の給付額だけでは不安があるので、それに備えましょう、そのためには2000万円くらい必要になることもありますよ、そして、そのために資産運用を行いましょうというのが今回の報告書の趣旨である。
 金融庁としては、資産運用を奨励することで、投資を促したかったということだろうが、それが裏目に出てしまったとも言える。

 

 2000万円という数字が独り歩きしてしまったが、報告書の中身は決しておかしな内容ではない。専門家が真摯に議論をして、その結果をまとめあげたものであることは一目瞭然である。そこには、現政権にとっては都合の悪い情報も含んでいたわけだが、それを気に入らないからと葬り去るのはいかがなものだろうか。
 年金だけでは満足な生活が出来ない可能性もある。だから、それに備えましょう。かくの如く、至極当然のことを報告書では言ったに過ぎない。そして、そういう不都合かもしれない真実に目を向けて政策を考えるのが政治家の役割であるはずだ。参議院選挙も近くなり、選挙を心配して麻生大臣も報告書を受け取らないという奇策を打ったようだが、そういう誤魔化しはもう止めてもらいたいものである。