税制の基本原則から外れる愚策がさらに
今年10月に消費増税が予定されている。増税による景気減退を避けるために、政府は様々な対策を講じようとしている。
そのひとつに軽減税率の採用があるが、これは税制の基本原則から逸脱する愚策であることは既に指摘したとおりである。
愚策は軽減税率に留まらない。さらには、ポイント還元制度なるものを政府は考え出してきた。これも税の公平性を損なう問題含みの策であるが、実際の運用のあり方が見えて来るにつけ、その愚策ぶりが顕著となり始めた。
ポイント還元制度の概要
政府が導入しようとしているのは、新たなポイント制度ではなく、既に企業が運用しているポイント制度を利用した還元である。
様々な企業が顧客に対してポイント還元を行う制度を運用している。そのポイント還元制度を政府が利用しようというのである。例えば、あるポイント制度を持つ企業から商品を購入した場合、代金の数%分がポイントとして還元される。この数%分につき、政府が費用を負担してポイントを上乗せするというのが、政府が導入を予定している消費増税に対する対応策となる。
ただし、このポイント還元制度はキャッシュレス決裁の普及を企図しているということもあり、基本的にはクレジットカードを利用した決裁に関して行われるものである。さらに、中小企業への支援も合わせて考えられているために、大手スーパーなどはその恩恵をあずかることが出来ないとされている。
ここまで書いて、既に複雑な仕組みであることが分かってもらえるだろう。この複雑さについて、野党は国会の質疑でも取り上げている。
以下は、国民民主党の後藤祐一衆議院議員による解説であるが、不正が行われる可能性の指摘も含めて、政府が採用しているポイント制度の問題点を明確に突くものとなっている。
クレジットカードを利用して、一部の場所で買い物をした人にポイント還元というかたちで多くの優遇がなされる制度。これがポイント還元制度の概要である。そこに税制の公平性など跡形もない。
ポイント還元対象外のICカードが続出
政府が採用しようとしているポイント還元制度は企業による既存のポイント制度に相乗りするかたちとなる。そこで、各社のポイント制度での対応状況が気になるところとなるが、そこで大きく対応が分かれている。
交通系ICカードも決済手段として利用可能で、ポイント還元制度への参加が想定されていた。しかし、JR北海道の「Kitaca」やJR東海の「TOICA」、福岡市交通局の「はやかけん」は同制度には参加しない見込みと報じられている。
交通系ICカードではJR東日本の「Suica」は対象となる見込みとされているが、その他は現段階で未定というところも多い。
参加を見送ったところは、それぞれの組織としての判断でそうしたのであって、政府が「参加させない」としたわけではない。それゆえに、制度に参加しない企業のポイント制度があったとしても、それだけをもって政府を批判すべきではないのかもしれない。しかし、このままでは、例えば同じ交通系のICカードでもポイント還元があるものとないものが混在することになってしまい、公平であるべき税制が歪むことになる。
不公平なポイント還元が蔓延する
交通系ICカードに関して、消費増税と合わせて導入されるポイント還元制度への対応が分かれることとなった。このような事態は交通系ICカードに限らないことは容易に想像できる。
今回、ポイント還元制度への不参加を表明した各社はシステム改修費用を要することをその理由のひとつにあげている。当然、その他にポイント制度を導入している企業も同様にシステム改修費用を要することになる。実際のところ、その費用がどの程度のかかるのかは不明だが、政府の思い付きに付き合って、わざわざ手間をかけたくないというのが多くの企業にとっては本音だろう。
様々な分野で、交通系ICカードと同じように、ポイント還元を受けられるものと受けらないものが混在することになるだろう。もちろん、納税者の立場で考えれば、ポイント還元があり、なおかつポイント還元が有利な場所で消費を行えば良いということではある。しかし、クレジットカードの保有の有無がポイント還元の有無を左右したりと、極めて不公平な事態が招来することは明白である。
税制は公平性を原則とする。その原則を、ポイント還元などという愚策で政府が率先して毀損するというのはどういうことを意味するのか。公平性が税制への納税者の信頼を担保する。公平性を損なって納税者の信頼を失ったときに、政府はどれほどの損害を被ることになるのか。あらためて、現政権には考え直して欲しいところだ。