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プルトニウムの削減問題で難題に直面する日本

 

 

 

30年の節目を迎える日米原子力協定


「原子力の平和的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(日米原子力協定)がこの7月で30年を迎える。
同協定において、当初30年の効力、それを過ぎた後の効力については、以下のように規定されている。

 

<第16条>
1 この協定は、両当事国政府が、この協定の効力発生のために必要なそれぞれの国内法上の手続を完了した旨を相互に通告する外交上の公文を交換した日の後30日目の日に効力を生ずる。この協定は、30年間効力を有するものとし、その後は、2の規定に従って終了する時まで効力を存続する。


2 いずれの一方の当事国政府も、6箇月前に他方の当事国政府に対して文書による通告を与えることにより、最初の30年の期間の終わりに又はその後いつでもこの協定を終了させることができる。

 

 日米どちらから終了させようと動きは見られないので、自動的に延長されることは確定している。しかし、これまでの30年に比べると、協定の持続性・安定性は揺らぐことになる。いつ何時でも、片方の国が止めたいと考えれば、それで効力はなくなってしまうので、従来のままの問題意識を持ち続けるわけにはいかない。

 

 

プルトニウムの大量保有を認められる日本


 日米原子力協定は、日本が核兵器を保有しない国であるにもかかわらず、日本においての再処理を包括同意方式によって認めている。これはわが国の核燃料サイクル政策の基礎ともなっている。


 政府は再処理やプルサーマル等の推進を打ち出している。資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進が基本的方針として位置づけられている。

 

 燃料を消費した以上にプルトニウムを生産することが可能な高速増殖炉によるサイクル、既に存在している軽水炉の原子力発電所でウランとプルトニウムを混合した燃料(MOX燃料)によるサイクルに大別される。


 前者については、頻繁にトラブルが起こっていた「もんじゅ」の廃炉が決定したことにより、見通しが厳しくなっている。後者についても、現実的な手段として位置づけられているが、福島第一原発事故後はより限定的な取り組みをせざるを得ない状況になっている。

 

 政府は「我が国のプルトニウム管理状況」という資料を公表している。昨年8月1日に示された資料においては、2016年末時点で国内外において管理されている日本の分離プルトニウム総量は約46.9トンであり、うち、約9.8トンが国内保管分で、約37.1トンが海外保管分との報告がなされている。


 このプルトニウム総量は原爆6,000発分に相当するともよく言われている。いずれにしても、核兵器の非保有国であり、核エネルギーは平和利用に厳しく限定されているが、プルトニウムの大量保有が認められていることは事実である。

 

 

米国がプルトニウム削減を要求したとの報道


 ここにきて、米国が日本にプルトニウム削減を要求してきたとの報道が流れている。たとえば、『日本経済新聞』(6月10日付)は「米、プルトニウム削減を日本に要求 核不拡散で懸念--政府、上限制で理解求める--」との記事を報じた。かなり具体的な内容まで書かれており、日本政府の今後の対応まで言及されている。


この問題に限らず、あらゆる事項について、外務省は「外交交渉だから表にできない」と情報公開に非協力的な体質なので、公式見解を求めても、回答は得られないだろう。
以下のように、外務省のウェブサイトで「河野外務大臣会見記録」(平成30年6月12日(火曜日)9時40分 於:官邸エントランスホール)が公開されているが、当たり前のことしか言っておらず、踏み込んだ内容にはなっていない。

 

【記者】日本が保有するプルトニウムについて,原発再稼働が進まないことによってアメリカ政府から削減を求められているという指摘がありますけれども,アメリカから求められているのかという点と,日本としてどういうふうに対応するのかということですが。


【河野外務大臣】利用目的のないプルトニウムというのは,国際社会おしなべて保有しないというのが大原則でありますから,日本としても,当然そういう方針を貫くことで,これは別に,アメリから求められる,求められないにかかわらず,我が国として利用目的のないプルトニウムは持たないということは,やらなければならないと思います。

 

 米朝関係、北朝鮮の非核化などをはじめとして国際情勢の動きは予断を許さないが、こうした流れが日本のプルトニウムの存在を一層目立たせることになっていることは明らかである。既に述べたように、日米原子力協定が当初の30年の期限を迎えることが大きな節目となる。


 何事につけて、日本の政策決定については、アメリカ政府の庇護、監視、お墨付きなどが求められる分野が少なくない。原子力政策、核燃料サイクル政策はアメリカの関与が最も大きい分野の一つである。


 核燃料サイクル政策への取り組みについて、日本の動きを厳しく見ているのはアメリカ政府当局だけではない。世界中の政府が絶えず関心を持っている。政府だけではなく、非営利団体などの関心も高い。特にアメリカにあるNGO・NPOにおいては、日本の核燃料の再処理を詳細にウォッチングしているところが少なくない。

 

 

単純な回答はないが、与野党で建設的な議論を


 日本政府としては、従来の原発政策を維持したいところだろうが、日本の再処理政策のあり方については、根本から議論する必要があるだろう。エネルギー政策、核の拡散防止策、東日本大震災復興策、地球温暖化対策、日米関係や北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を含めた外交・安全保障政策など様々な要因が関係するだけに、単純な割り切りで答えが出る問題ではない。

 

 東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえ、40年運転制限制を厳格に運用する、新増設は認めない、安全確認を得ていないものは再稼働しないとの原則を徹底させること、また責任ある避難計画がなければ再稼働すべきはないことを基本とすべきであるが、安倍内閣がこの要請に十分応えているとは思われない。


他方、この3月9日、立憲民主党・共産党・自由党・社民党の4党は、「原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革基本法案」(「原発ゼロ基本法案」)を衆議院に共同提出しているが、将来に向けた明確な目標とそこに至るまでの達成可能な対応策・ロードマップが示されていないのではないか等の批判も出ていた。

 

政府といくつかの野党の間に挟まれて、国民民主党は目立たない存在のように思われているきらいもあるが、エネルギー政策については、自公政権との対立軸を示す中で、現実的な取り組みを進めていくことを訴えている。


以下は同党の結党大会で採択された「基本政策」であるが、無駄な言葉を省いて、短い項目の中にも凝縮された重要な方向性・課題が示されている。

 

〇原子力エネルギーに依存しない社会のシナリオを
・野心的な温室効果ガス削減目標の設定
・再生可能エネルギーへのシフトによる分散型エネルギー社会の実現
・省エネルギー社会の実現
・2030年代原発ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入
・使用済核燃料の最終処分に関する国の責任の明確化
・廃炉、使用済核燃料の減容化等を担う労働者・技術者の確保と育成
・廃炉後の原発立地地域における雇用・経済政策を国の責任で推進
・火力発電の最新鋭化・蓄電池技術開発等の国家プロジェクトとしての推進

 

 核燃料サイクル政策、日米原子力協定への対応などについては、与野党で一致して取りくめとは気軽に言えない課題ではあるが、それを承知の上で、公党間での議論を深めていくべきことを強調したい。エネルギー、安全保障と縦割りにならずに、複雑な課題を包摂する視点から建設的な議論が行われる場所と機会が少しでも確保されるように関係者の努力を求めるものである。

 

 

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