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楽天の参入で通信業界に風穴は開くか

 

 

 

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早々につまずいた楽天の10月事業スタート

 

楽天が10月に予定していた携帯電話事業参入の延期を発表した。サービスの本格稼働の時期は最長で2020年春まで遅れる。

 

三木谷社長は6日に開いた携帯電話事業の説明会で、事業進捗について説明し、10月から来年3月末までは5,000人に限定した利用者に無料でサービスを提供し、安定稼働を確認できたところで事業の本格スタートに移行することを明かした。

 

楽天が「携帯電話業界の民主化」を旗印に掲げて携帯キャリア事業への参入を表明したのが2017年のことだった。翌18年4月に総務省から参入許可を得たわけだが、この間、菅官房長官が携帯料金について「4割下げる余地がある」という旨の発言があったことを覚えている人も多いだろう。楽天の参入は、既存三社による寡占状態が続く携帯電話事業業界に風穴を開け、新たな価格競争をもたらすものとして期待されていた。

 

ところが、今年10月のサービスインを目指す楽天に対し、総務省は再三にわたって整備を急ぐよう行政指導を行っていた。8月15日に開かれた記者会見で石田総務相(当時)は、楽天が3月に示した計画に比べて、6月末時点での進捗状況が遅れていたことを明かしている。

 

報道によると、2020年3月末までに3432か所の自社基地局を設置する計画だったのに対し、9月6日時点でその数は586か所と大幅に遅れていたという。三木谷社長はオペレーション面は問題ないことを強調するが、ネットワーク環境の安定稼働が実現しなければ消費者の信用を失いかねないだけに、苦渋の決断というよりも、実質的なサービス開始延期の選択は必然だったのだろう。

 

 

楽天の出遅れは既存各社にとって「吉」か「凶」か

 

こうした楽天側の整備の遅れは、すでに市場が知るところではあったとはいえ、グローバル企業へ成長を遂げる「Rakuten」の動向には、既存3社も気が気ではなかったはずだ。10月1日から改正通信事業法が施行され、月々の通信料と端末代金を切り離した「分離プラン」の提供が義務付けられるほか、2年契約の違約金が現行の9500円から1000円以下に引き下げられるなど、業界内でも新たな対応を迫られる制度改正が行われる。

 

今回の楽天の参入最大の特徴は、独自の完全仮想化クラウドネットワークだった。既存事業者のネットワークでは個別の基地局で行っている通信処理を、楽天はクラウドネットワーク上に集約する。しかも、専用のハードウエアではなく、オープンソフトウエアと汎用サーバーで処理できるようにした。楽天が強調する大幅なコストダウンと他社には絶対追従できない料金プランが実現するはずだった。

 

事業の進捗から想定し得たこととはいえ、肝心の基地局整備が後手に回ったのは楽天にとって痛い出来事には違いない。

 

こうした楽天の動きに対し、今年4月にNTTドコモが最大で4割の値下げとなる新料金プランを発表し、これに追随するようにKDDI(au)も新料金プランの導入を決め、顧客流出を防ぐ先手を打っていた。ソフトバンクも今月に入って、携帯電話契約の定番となっていたいわゆる「2年縛り」を廃止する方針を表明。10月に控える黒船への緊張感が市場を包んでいたのは間違いない。

 

ドコモもKDDIも2019年度第一四半期決算で減収に苦しんでおり、飽和状態にある携帯電話業界を取り巻く状況は決して穏やかなものではない。

 

 

来たる「5G」時代は業界地図を塗り替えるのか

 

これに加えてこれからは次世代の通信規格「5G(第5世代移動通信システム)」の到来が迫っている。楽天も7月に「Rakuten Optimism 2019」を開催し、「iPhoneがデバイスの革命ならば、楽天はネットワークの革命を起こす」と三木谷社長が高々と宣言していたのは記憶に新しい。

 

すでにMVNOで220万人のユーザーを抱えるほか、楽天が手がける各種サービス利用者を通信事業者として一つに巻き込んでいくことができれば、多種多様なユーザー体験を提供できることになる。プロ野球の東北楽天イーグルスや海外のビッグネーム獲得で話題になるJリーグのヴィッセル神戸を傘下におさめ、世界最高峰のチームとしても名高いスペインの強豪FCバルセロナとの関係もある。スポーツビジネス一つとっても、5Gを自社ネットワークとして余裕する強みを生かしたサービス展開を想像することが可能だ。

 

5Gは社会基盤を支えるインフラになる。ありとあらゆるものがネットワークに繋がる時代において、これまで人と人が繋がってきた時代から、あらゆるモノがつながる時代へと大きく変貌を遂げていく。5Gネットワークが社会にもたらす価値は計り知れない。

 

当面は、KDDIのネットワークを借り受け運用を開始し、自前基地局での運用を掲げているが、自前基地局を設置するハードルの高さは業界関係者ならよく知っているはず。

 

果たしてここからどんな追い上げを見せるのか。数々の業績を打ち立ててきた三木谷社長の手腕に業界の熱い視線が注がれる。10月から無料サービスの開始と今後の展開に期待したい。