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専業主婦vs共働き、時代にマッチしていないPTA

 

 

 

部活動の教員負担が大きいことから、外部リソースを活用しようーーー最近、ようやく、この議論が陽の目を見るようになった。2017年度から学校教育法施行規則の一部が改正されたからだ。これによって、外部人材が部活の顧問を担えるようになった。

 

今更と思うかもしれないが、わずか数年前には「部活の顧問に外部人材を」なんてことは、少なくとも地方議会では口にすら出せない状況だった。それくらい部活というのは学校の現場の中で聖域なのだ。

 

 

外部人材の登用は10年近く前から議論

 

こんな話がある。大阪府教育委員会の教育長を務めた中原徹氏がかつて府立和泉高校の校長だった時のこと。保護者からの大反対があったが、彼は土曜日の午前中に限って、すべての部活動を禁止した。月曜日から金曜日まで部活をやって、生徒がくたくたになって、土曜日も日曜日も部活をやって、一体、いつ勉強するのか、そして顧問の先生はいったいいつ教材開発をするのか、という問題意識からだった。とても当たり前のことだが、そんなことでさえ、保護者から大反対が起きた。

 

この話には続きがある。彼の取り組みを当時、日経ビジネスが誌面を割いてレポートした。興味深いのは、その日経ビジネスの記事を読んだ、大阪とはまったく関係ない、富山県立高校のベテラン教員から中原氏の元に一通の手紙が届いたことだ。そこには次のように書かれていた。「まったく同感です。私自身、土日も部活の顧問でヘトヘトになって、週明けの月曜日の授業が1週間の中で、最もパフォーマンスが悪い」。

 

 

部活動は聖域中の聖域

 

筆者がこの話を聞いたのは、もう6年か、7年も前の話だ。当時は部活の時間を制限する、あるいは外部顧問を迎えるといった話は学校現場の中で聖域中の聖域でなかなかメスが入らなかった。学歴のある先生が言い出せば「ガリ勉だ」と批判され、運動の得意な先生が言い出せば「裏切り者」と呼ばれた。

 

これはある特定の学校に限った話ではなく、全国的な傾向で、筆者も取材を通じて感じていたし、実際に中原氏も自身の校長職を通じて体験していた。

 

本稿で冒頭になぜ、ここまで部活の話を書いたのかと言えば、これと同じくらい聖域になっているものが学校の中にあるからだ。それはPTAである。あまりにも当たり前の言葉で、知らない人はいないといってもいいだろう。parent teacher associationの略称で、保護者と教職員による団体だ。

 

 

PTAはもう一つの聖域

 

ポイントは、というよりも極めて重要なことは、PTAは結成や加入を義務つけている法律はなく、あくまでも任意団体なのである。この事実は学校関係者をのぞけば、ほとんどの人は知らないだろう。子供が学校に通えば、PTAには自動的に加入するものと、あまりにも当たり前に、自然に受け入れているだろう。しかし、任意団体なのだ。

 

筆者はPTAをなくすべきだとは思わない。子供たちの学校の登下校の守りをはじめ、必要とされる活動は多いからだ。ただ、大きな問題点がある。それはPTA活動が専業主婦モデルを前提にした仕組みになっていることである。

 

 

制度の前提と社会に大きなズレ

 

小学生や中学生の子供を持つ家庭の過半数は夫婦共働きという状況にあって、PTAは専業主婦モデルのままであれば、制度と現状が合っていないわけだから、当然、色々な場面で不具合が発生することになる。

 

最も分かりやすい事例は、朝の登校の見守りだ。都内の中心部ならいざ知らず、千葉や埼玉、川崎、横浜といった東京の郊外に位置する都市の場合、会社がフレックス勤務制度でも整えていない限り、8時半ないし9時には出社しなければならない。当然、自宅を出るのは7時から8時ということになる。まさにちょうど、子供達が登校する時間帯だ。すると何が起きるかというと、専業主婦の人に当番の順番が周り、働いているお母さんたちは仕事を理由に登板を回避する。

 

このケースは専業主婦サイドにどうしても不満が溜まってしまう。PTAの活動はこれだけではなく、他の仕事も多いからだ。しかもPTAの現場はかなり生産性が低く、一部の例外をのぞけば、IT化が相当遅れている。今度は働いている女性がIT化の遅れに我慢がならなくなる。「イベントの出欠管理くらい、エクセルでやればいいのに!」みたいなことはよくある話だ。

 

 

制度を現場に合わせて改善すべき

 

IT化の遅れは専業主婦の努力が足りないことに原因があるわけではないのが、働く女性の怒りはPTAを一生懸命やっている専業主婦の女性に向きがちだ。大なり小なり、どの学校でも専業主婦vs働く女性の構図は存在する。

 

PTAなどは任意団体であるし、そもそも、それなりに負荷のかかる作業が一定の人に集中しがちなのだから、PTAの会費を傾斜させればいいと思うのである。専業主婦の家庭が500円払っているのであれば、共働き世帯は2000円といった具合で解決を図るのも一案だ。

 

 

法的根拠がないからこそ国会議員が世論喚起を

 

問題はPTAが任意団体で、法的な位置付けもないために、こうした議論をどこで、誰が喚起するのか、ということだ。そこで政治の役割は大きいと筆者は考えるのである。何もPTAを法律で位置付ける必要はない。そこまで大げさにやらないまでも、世論を喚起していく。「専業主婦モデルのPTAを今の時代に合った形に作り変える必要があるのではないか」。そんな問題提起を国会の委員会でやってもらえば、テレビや新聞の記者が関心を持ち始めるだろう。国会議員は他の誰よりも発信力を持った人たちだ。世の中にある、ちょっとした歪みにしっかりと関心をもって、時代に合った形に作り変えてほしいものである。