霞が関から見た永田町

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世界標準化・プラットフォーム競争にどう臨むか

 

 

 

アマゾンで注文した商品が職場に届く光景が当たり前に

 

 最近、アマゾンで注文した商品を職場に届けてもらっているケースをよく見かける。平日の業務時間に届けてもらえば、本人がいなくても誰かが受け取ってくれるからありがたい。宅急便によくある不在・再配達も減ることになる。

 

 物流の効率化のためか必要以上に大きな段ボールが使われ、中身も記されていないようなので、他人には何を注文したか分からない点も高く評価されている。かつては書籍というイメージが強かったが、今や品揃えも多く、いろんなものを早く配達してもらえる。

 

 勿論、Kindle本、音楽、ビデオなどダウンロードできるサービスも重宝されている。他の欧米諸国と比較して格安となっている日本でプライム会員になれば、急ぎの配達や無料ダウンロードなど恩典も広がる。

 

 ITビッグ5として、アップル、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックの5社の存在はあまりにも強大であることは今さら言うまでもないだろう。

 

 マイクロソフト、グーグルに比較すると、アマゾンは何が何でも利用しなくてはならない存在にはなっていない。オフィスでウィンドウズのパソコンを使って、グーグルで検索を行っているビジネスマンでも、アマゾンのサービスを使ったことのない人、よく知らない人もけっこう多い。

 

 

“雇用喪失”などの破壊力も半端ではない

 

 しかし、ITビッグ5の中でも、アマゾンは経済取引、消費などに目に見える形で私たちの生活に急変をもたらす潜在力を一番に有している。

 

 消費者の立場からしたら、アマゾンは本当にありがたい存在である。ここまで多様なサービスと品揃えがあり、ワンクリックで注文ができることは、一昔前には想像できなかったことである。

 

 アマゾンが斬新なビジネスを開拓しているということは、逆に“既存産業の解体”、“雇用の喪失”などの破壊力も半端ではないという事実を受け止めなければならない。何もアマゾンだけに原因があるわけではないが、ネットの普及・発展と相まって、書店が次から次へと閉店に追い込まれていることはその一例だろう。

 

 

世界標準化・プラットフォーム競争から立ち遅れる日本

 

 アメリカの企業ばかりではなく、中国の企業の勢いも目立っている。『日本経済新聞』(7月10日付け朝刊)の「世界シェア 米中激戦—米、ソフト強み/中国ハイテク猛追--」という記事によると、主要商品・サービスシェア調査において、対象71品目のうち日本企業首位が10ほどあるが、スマートフォン、パソコン、タブレット端末、クラウドサービスなどでは軒並みアメリカ、中国の企業が攻勢をかけていることが報じられている。

 

 個々の技術・製品のレベルにおいて、まだまだ日本企業の水準は捨てたものではない。しかし、ビジネスのシステムを大転換する、それを世界のルールとして定着させるというようなスケールの大きなことを仕掛けるのは苦手である。IT、メーカーなど異業種が大胆なタッグを組んで、斬新な仕組みをつくることにも及び腰である。その意味で、わが国は世界標準化・プラットフォーム競争から大きく立ち遅れている。

 

 政府は6月15日、閣議において、「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)と「未来投資戦略2018」を決定した。しかし、プラットフォーム企業のグローバル戦略を後押しするような視点が極めて弱い。「未来投資戦略2018」においては、目次や見出しなどの重なりもあるが、「検討」という言葉が202回も出てくる。中長期的なビジョン・哲学に基づくものではなく、実態は官僚の作文の寄せ集めであることを証明している。

 

 

小売りから宇宙ビジネスまで進出するアマゾン

 

 次から次へとアマゾンは大胆な取り組みを行っており、連日のようにニュースとなっている。昨年、アマゾンが米国の高級スーパー「ホールフーズ」を買収したことにはびっくりさせられた。今年1月には、シアトルで無人コンビニである「アマゾン・ゴー」を正式にオープンしている。アマゾンを率いるジェフ・ベゾス氏がつくった航空宇宙企業“Blue Origin”は宇宙飛行チケットを来年から販売する予定だと発表している。一般の消費者にはそれほど知られていないが、アマゾンが提供しているクラウドサービスであるAWSも圧倒的な優位に立っている。アマゾンだけを見て、産業政策をつくるわけでもないが、絶えず斬新なビジネスを開拓している象徴的な存在である同社の動きからは目が離せない。

 

 世界のハイテク技術について、米中の企業の勢いがあることに触れたが、ジャック・マーが率いる中国のアリババ集団の動きからも目が離せない。アリババが日本のネット取引に本格的に進出してくる可能性も高い。中国はキャッシュレス社会の先端を走っているし、フィンテック関連の技術開発にもかなり力を入れている。中国のGPSについて、北斗(英語名Compass)というシステムがあるが、アメリカ軍事衛星によるGPSより性能がいいと断言する人までいる。

 

 

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「世界水準の最先端技術立国」に向けて

 

 ビジネスフレンドリーの姿勢を打ち出している国民民主党の基本政策には、「世界水準の最先端技術立国」を目指すことが明記されており、「第4次産業革命に対応した投資減税、研究開発支援」「クリエイティブ人材の育成と蓄積」「規制改革と知的財産権戦略の推進」「IoT、AI、自動運転、ビッグデータ、ブロックチェーン技術、ロボット等の活用」「宇宙空間を利用した研究・産業の促進」「様々な技術・製品分野における世界標準化・プラットフォーム戦略の推進」などのメニューが並んでいる。これらの政策の具体化がどこで議論されるかはわからないが、新しく設置された「ABC調査会」の動きにも注目したい。

 

 国民民主党の政策でも触れられている「クリエイティブ人材の育成」は特に重要である。教育となると授業料、奨学金のことばかりが議論される。簡単なことではないが、創造的な人材を育てていくための教育論議が薄いように思われる。官僚を変えただけで日本が良くなるわけでもないが、文部科学省(その中でも旧文部省)の官僚はもっと世界に目を向けるべきではないか。財務省、経済産業省などの官僚が海外留学をしている話はよく聞かれるが、文科省の役人こそ外に出ていくべきではないか。

 

 1995年にウィンドウズ95が日本でも発売され、インターネットが一般にも普及しだしてから23年になる。その間、「iモード」のように、日本国内では盛り上がったが、国際的な規格とならず消えてしまったものもある。日本企業はマイクロソフトやアップルなどに対抗できるような、あるいはその規模に匹敵するようなプラットフォームづくりには至らず、ITビック5などの後塵を拝し、それらが引いたレールの中でビジネスを展開することを余儀なくされてきた。


 結論や方向性を明確に打ち出すことは難しいが、一般の人々の消費生活や物流産業の根本までも大きく変え得るようなアマゾンに象徴される世界的企業の活動を見据えつつ、世界水準の最先端技術立国づくり、世界標準化・プラットフォーム競争への取り組みについて、政策議論を活性化させる必要性がますます高まっている。