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国会空転の責任は与党にもある

 

 

 

最近では例外的な通常国会の会期延長

 

国会の会期が1ヵ月ほど延長された。国会の開会日数の少ない安倍政権下では、久しぶりの通常国会における会期の延長である。

 

www.ksmgsksfngtc.com

 

 

 野党側に立つと、会期を延長させないことにより、審議未了で議案を葬り去ることも出来るようになるため、会期の延長を阻止しようとする。与党側に立つと、議案は成立させたいものの、政権にダメージとなるようなスキャンダルがあるようであれば、追及を逃れる意味でも会期延長には二の足を踏む。この両者の思惑の奇妙な一致により、会期の延長がなされないというのが安倍政権下で起きていたことである。

 

 本年度の通常国会では安倍政権の最重要案件であった働き方改革関連法が未成立であり、さらに、ここに来て内閣支持率も若干の持ち直しが見られることから、会期延長という判断につながったようだ。

 

 

冒頭から空転しているが

 

 延長した途端、その冒頭から国会は審議が行われず空転する事態に陥っている。野党としては、会期が延長される以上、森友学園や加計学園問題に関する集中審議を行うべきだと主張することになる。対して、それに与党は難色を示している。その結果、与野党の折り合いがつかず、審議が行われない状況となっているのである。

 

 

headlines.yahoo.co.jp

 

 

 この空転を見て、野党に対して批判の矛先が向かうことが当然に予想されよう。「何でも批判ばかりで、審議をしようとしない」「国会議員としての仕事を放棄している」など、これまでも野党の審議拒否により国会が空転すると、そのような批判が投げつけられてきた。

 

 ここで、一点確認しておく必要があることがある。与党も国会の審議を止めているという事実である。

 

 現在の衆議院は、与党が絶対安定多数を握っている。つまり、議員の数の上では全ての常任委員会の委員長を独占し、委員の過半数も占めることができるのである。ただし、実際には、常任委員会のうち懲罰委員会の委員長は国民民主党、決算行政監視委員会の委員長は立憲民主党に譲られるかたちとなっている。


 対して、参議院は参議院委員会先例録により、常任委員会の委員長は参議院に所属する各会派の議員の数に比例して各会派に配分されることになっている。

 

参議院委員会先例録:関係法規等:参議院

 

 

 このため、衆議院と比較して参議院では、野党が委員長を務めている常任委員会の数が多い。

 

 各常任委員会の開会の日程や議題、質問の時間は委員会の理事会において決定される。この理事会のメンバーは各常任委員会を構成する各会派の議員数に応じて決められるため、現在の国会ではいずれにおいても与党が多数を占めている。

 

 この理事会は全会一致を基本とするため、一人でも反対する理事がいたら委員会を開くことはできない。そこで、野党の理事が反対をすることによって委員会が開催されないことになり、議事が前に進まず、国会が空転することになるのだ。

 

 

与党も国会空転の片棒を担いでいる

 

 しかし、委員会の委員長は議事整理権を持っている。


 議事整理権とは、会議の日程や議題などを決める権能を指す。つまり、理事会で野党の理事の反対により、委員会が開けない状態に陥った場合、委員長が委員長職権による決定を行い、会議の日程や議題を決めてしまうことが出来るのである。


 いわゆる強行採決が行われることが予想されるような緊迫した場面では、この委員長職権による委員会の開催、そして、採決へと進んでいくということがなされている。野党がどんなに抵抗しても、委員会は開催され、そして審議は進んでいくのである。

 

 この理事会による事前の協議のあり方については、未だ十分な整理が行われていないという側面もある。

 

参照:「国会の議事運営についての理事会協議」

 

 

 いわば制度の整備が不十分なところを突いて、委員長の独断で議事を進めていくことも可能であるということだ。結局のところ、委員長のポストを与党が確保していれば、その委員会の審議は与党のペースで進めることが出来ると要約される。

 

 委員長職権の濫用は控えるべきであろうが、本当に必要というのであれば、野党が何と言おうが委員会を開き、審議を行い、採決を行えば事足りる。


 ただ、国民の批判をおそれてのことか、あるいは野党に国民の批判が向かうように企図してか、委員長職権で委員会の開催を強行するわけではなく、審議を止めて、国会を空転させている。つまり、与党も国会空転の片棒を担いでいるのである。

 

 国会の空転は直ちに野党の怠惰には結び付かない。与党としては野党を説得しつつ、必要とあれば強硬に見える手段であったとしても、委員長の職権を利用して、与党だけでも審議を進めて、国会を空転させないようにする。そういう努力と胆力が求められているのであって、ともすれば、国会空転は与党の怠惰であるとも言えるのだ。