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国家の根幹を揺るがす厚労省の統計不正事件、日本はどこへゆくのか?

 

 

 

国家の信用が揺らいでいる。厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正事件である。毎月勤労統計とは、賃金の動向等を調査し、景気の分析や労働保険の給付金等の算定に用いられるもので、統計の信頼性を根底から失わしめる、重大事件である。
統計は政策の根拠である。政策によって社会が回っている。その根拠に不正があったとなると、その上に築かれた様々な政策はその正当性を失う。もともと、この問題は以前から指摘されてきた。1月に統計の作成手法を変更した影響で数値が高めに出ていることなどもあり、毎月勤労統計の正確性を疑問視する声が根強かった。

 

 

政策の根拠を失った厚労省


今回のニュースが与える影響は単なるデータの不正というレベルにとどまらない。雇用保険の失業給付や労災に遭った場合の休業補償給付などの算定にも使われる厚生労働行政にとって、基幹データといっていい。このほかにも、日銀は毎月勤労統計から賃金動向を判断している。それらのすべてが根拠を失ったのである。
批判は政府与党からも出ている。政府は雇用保険の追加給付などでおよそ795億円を追加費用として支出する案を取りまとめ、雇用保険や労災保険の追加給付など被保険者に直接支払う費用としておよそ600億円が必要だとの数字を示した。また、菅官官房長官からも「統計法違反のおそれがある」との発言も出たところだ。
不正の手口も明らかになっている。(1)常用労働者数500人以上の事業所について全数調査をすべきだったところを、2004年から東京都だけ一部の調査に変更、(2)一部調査の数字の合計は全体の数字の合計よりも小さくなるため、調査した割合の逆数をかけて復元するのが通常だが、それを実施していなかった、(3)この運用が常態化し、違反行為を15年にわたって行い続けていた、というのが今回の全体像だ。

 

 

民主党政権下でも行われていた不正


1月下旬から始まる国会論争の大きなイシューになることは間違いない。問題は野党が戦略を誤らないことだ。なにせ15年にわたって行われてきた不正である。
その間に民主党が政権を担っていた時期もある。当時、民主党で政権運営に当たっていた政治家の多くは立憲民主党に財政している。もし、彼らが政権与党の不作為、責任論を口角泡を飛ばすように批判すれば、それは天に唾をするもので、まさにブーメンランといえよう。


とはいえ、だからといって政権与党の責任が減じるものでもない。政権に塩を送る必要はないが、今こそ、野党は国民を唸らせる論陣を張り、対案を示してほしい。国民民主党の玉木代表が指摘しているように、追加給付の根拠をどこに寄せるのだろうか。「雇用保険や労災保険の真の給付金額を算出する根拠がないのではないか」(玉木代表)。
玉木代表の指摘はこうだ。本来、毎月雇用統計を算出するには、東京都内であれば調査対象の500人以上規模の事業所は2018年時点で1464事業所あったのに対して、実際に調査対象とした事業所数は491事業所だった。「全数調査で算出していない数値に基づき給付することは法律に基づいた給付ではないので、根拠法律を定めないとないと予算の組み換えもできないのではないか」というのが玉木代表の主張である。
すでに政府は追加給付について閣議決定しているが、この数字も根拠の正当性が揺らぐ。もちろん、それは給付しなくていいということではない。ただ、ことほど左様に、何をするにしても、その根拠が揺らいでは、手の打ちようもないのである。

 

 

参院選を控え野党がやるべきこと


繰り返すが、これから始まる国会で野党がやるべきことは、政権を口撃することではない。その姿に国民は辟易としている。何より、自分たちが政権を担当していた時にも起きていた不正なのである。
だからこそ、今、野党がやるべきは、日本社会の根幹を揺るがしている問題に対して、どうすれば、国家が国民の信頼を取り戻せるのか。政権与党から適切なアイデアが出てくるとは思えないからこそ、野党はチャンスである。自らも過去に政権を担った責任において、この問題に正面から取り組んでほしいところだ。