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「いずも」空母化で日本が守れるのか

 

 

 

新防衛大綱の閣議決定

 

 18日、今後の日本の防衛の方針を示す新防衛大綱が閣議決定された。合わせて、中期防衛力整備計画も決定された。
 新大綱では、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域の対処力の強化を謳い、陸海空の各自衛隊を含む全ての能力を融合した「多次元統合防衛力」の構築が打ち出された。さらに、「いずも」型護衛艦を事実上の航空母艦として運用することが示された。

 

平成 31 年度以降に係る防衛計画の大綱について

 

 護衛艦を航空母艦として運用することに対しては、野党から専守防衛を逸脱するものと強い懸念の声が上がっている。
 そのような批判の声が野党からあがるのは驚かないが、野党はもっと本質を突いた批判をすべきだろう。「そもそも日本の国防のために航空母艦を運用することが現段階で優先すべきことなのか」と。

 

 

専門家からは以前から懐疑の声

 

 「いずも」型護衛艦の航空母艦化については、既に専門家の中からも懐疑の声があがっていた。
 慶應義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮氏は、「「いずも」空母化が日本のためにならない4つの理由」と題する文章を、今年3月の時点で公表している。

 

news.livedoor.com

 

 部谷氏があげる4つの理由は以下のとおりである。
(1)高額な改修費がかかる
(2)政治的効果が見込めない
(3)軍事的効果が乏しい
(4)海自をさらに疲弊させる

 


 要言すれば、費用がかかる割に効果に乏しく、かえって戦力を削ぐ結果になりかねないのが「いずも」の空母化だということだ。
 むしろ、空母化した「いずも」は日本の国防にとっては足手まといにすらなってしまいそうである。

 

 

個別装備の議論ではなく国防の議論を

 

 部谷氏は、「個別の装備品」の議論からの脱却の必要性も主張している。日本が置かれた外交安全保障に関わる環境下で、必要な戦略を構想し、その戦略の下で必要な装備を検討する。これが真っ当なあり方であって、強力な装備を揃えれば事足りるという個別装備品の導入ありきの議論では、日本にとって真に必要な防衛体制を築くことにはつながらないのだ。

 

 新防衛大綱には、次のような一節がある。
「厳しさを増す安全保障環境の中で、軍事力の質・量に優れた脅威に対する実効的な抑止及び対処を可能とするためには、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域と陸・海・空という従来の領域の組合せによる戦闘様相に適応することが死活的に重要になっている。」

 

 「死活的」とまで言い切る程の危機感。特にサイバー分野では日本の対策は立ち遅れているとされている。「多次元統合防衛力」というのであれば、まず真っ先に手を付けるべきは遅れているサイバー分野なのではないだろうか。

 

 ひるがえって、「いずも」の改修に具体的に言及されているのは新防衛大綱と合わせて決定された中期防衛力整備計画の9ページ目においてである。

 

中期防衛力整備計画(平成 31 年度~平成 35 年度)について

 

 多額の費用が今後必要とされる割には、簡潔な記述であり、一瞬、「いずも」の空母化なんて書いていないようにも見えるが、そうではない。短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機の運用が可能となるよう検討の上で改修を行うと明記されている。
 「いずも」の空母化は「航空優勢の獲得・維持」のための一環として行われようとしている。強力な装備を導入すれば、それで問題は解決されると思っているのではないかと疑ってしまう。付け焼刃のようにしか見えないが、本当に大丈夫なのだろうか。

 

 戦艦大和や戦艦武蔵の苦い経験を持つ日本。「これさえあれば」とばかりに何かに頼るのではなく、体系立てた対策が必要とされているのであり、その体系にそぐわない巨額の費用をかける護衛艦の空母化というのは愚策としか言いようがない。
 現在の日本に必要な国防戦略とそれを実現するための装備に関する整備計画。この関係が整合的ではないように見える点こそ、野党は強く批判すべきである。このままでは、「空母化はしたけれど、サイバー空間上で敗北し、日本の防衛に失敗しました」ということにもなりかねない。