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北方領土返還は遠のいた 外交失策の安倍総理の尻拭いは誰がするのか

 

 

 

北方領土でロシア国旗を降ろす計画はない

 

 ロシアのプーチン大統領は6月22日に放映されたロシア国営テレビの番組で、北方領土でロシア国旗を降ろす計画はないと断言した。これは国営放送での発言であり、プーチン大統領によるロシア国民へ向けての事実上の領土問題終結宣言となりそうだ。

 

this.kiji.is

 

 

 日本から見たとき、これは北方領土問題が完全に暗礁に乗り上げてしまったことを意味する。
 日本の外交青書から「北方四島は日本に帰属する」という記述が消えたことをとらえて、「北方領土は安倍総理によって売り渡された」と書いたが、まさに予想したとおりの展開である。

 

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 もう北方領土は日本に返って来なくなってしまったのかもしれない。
 国会も会期末を迎え、このまま参議院議員選挙に突入していくことから、この件も有耶無耶になりそうだが、これは日本国としての一大事である。

 

 

北方領土問題をめぐる安倍総理の大失策

 

 プーチン大統領の今回の発言をめぐるニュース。これはヤフーニュースにも転載されており、それには多数のコメントがついているが、「北方領土を返還する気がロシア側にないのは明らかだった」とか「安倍総理の責任ではなく、前から問題の進展はなかった」といった内容が目に付く。
 それらのコメントは今回の安倍総理の大失策を見落としてのものである。どういうことかと言えば、安倍総理はこれまでの歴代の政権が対ロシア外交で積み重ねてきた成果を一気に投げ捨ててしまったのだ。この大失策を、改めて確認しなければならない。
 具体的には、「あらゆる前提条件を抜きにして、今年末までに平和条約を結ばないか」というプーチン大統領の提案に安倍総理が乗ってしまったことである。

 

 歴代の自民党政権での外交交渉によって、日本とロシアの間で領土問題が存在していることをロシア側に認めさせていた。もちろん、領土問題があることを認めたからといって、それが直ちに領土返還へとつながるわけではないが、少なくとも問題が問題として存在していることを両国で認め合わない限り、問題の解決に進むことはない。
 もちろん、これまでも今回のプーチン大統領のそれのような強硬な発言はあった。それでも国と国の間では、領土問題が存在するという共通理解があるなかであれば、そのような強硬な発言も、あくまで国内向けの発言であると冷静に受け取ることが出来た。
 しかし、もはやそのような冷静な受け取り方を日本は出来なくなってしまった。何故ならば、両国間で領土問題が存在しているという共通理解は、「あらゆる前提条件を抜きにして」ということを受け入れた瞬間に、霧散してしまっているからである。

 

 それでも、日本とロシアの間で平和条約が結ばれれば、そこには2島返還も含意されていたのかもしれない。2島返還となれば、それは外交上の大成果であったと言える。
 その成果を焦り、あるいは「外交の安倍」の自縄自縛に囚われたのか、安倍総理は「あらゆる前提条件を抜きにして」ということを飲んでしまった。その結果どうなったのかと言えば、平和条約はいまだ結ばれず、プーチン大統領の甘言に安倍総理が取り込まれて以降、むしろロシア側は北方領土問題に対して強気な対応を続けるようになった。

 

 

北方領土問題についての経緯を再確認せよ

 

 日本側から見た時に、北方領土問題は大幅な後退となった。
 その失策を糊塗しようするのであれば、今回のプーチン大統領の発言には反応しないという対応を安倍総理や関係閣僚は取ることになるだろう。そうすることで、さらにロシア側の立場を強固なものにしてしまうのではないだろうか。

 

 ここで、あらため安倍総理には歴代の政権が積み重ねてきた北方領土に関するロシアとの交渉の経緯を確認して欲しいところだ。

 

 1991年、海部総理とゴルバチョフ大統領が署名した「日ソ共同声明」では、北方四島について、それが領土問題であることが確認された。
 1993年、細川総理とエリツィン大統領が署名した「東京宣言」では、日ソ間の全ての国際約束が日ロ間で引き継がれることが確認され、北方四島は島名も列挙した上で、その帰属が両国間での問題になっていることも明確にされた。
 そして、2001年、森総理とプーチン大統領が署名した「イルクーツク声明」では、「東京宣言」に基づき、北方四島の帰属の問題を解決した上で平和条約を締結すべきことを再確認している。

 

www8.cao.go.jp

 

 「あらゆる前提条件を抜きにして」というのは、端的には「北方四島の帰属の問題を解決した上で」という部分を無しにしてということである。ロシア側からすれば、交渉の足枷となっていた部分が外れたのだから、笑いが止まらないだろう。これからは、北方領土問題はなきものとして日本と交渉にあたることが出来る。

 

 一気に巻き戻されてしまった日本とロシアの北方領土をめぐる交渉。あらためて、安倍総理の思慮に欠いた発言の前までに押し戻すのは困難を極めるだろう。
 自民党の参議院議員が野党の首相問責決議案に対して、「自民党は民主党政権の尻拭いをしている」との討論を行ったが、安倍総理の大失策の尻拭いには、この後に何年かかるのだろうか。その長さは計り知れない。