霞が関から見た永田町

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グレートリセットが起こりつつある日本、テクノロジーが都市に与える影響を政党は語れ

 

 

 

 

“The Great Reset :How New Ways of Living and Working Drive Post-Crash Prosperity”

 

2010年に社会学者のリチャード・フロリダ氏が出版した本だ。邦訳は「グレート・リセット」。2011年に日本でも早川書房から出版された。

 

リチャード・フロリダといえば、クリエティブ資本論やクリエイティブ・クラスの世紀、クリエティブ都市論、新クリエティブ資本論など、都市を取り巻く、世界的な流れの分析の第一人者だ。

 

 

リセットの引き金は不況

 

グレート・リセットによると、過去を振り返ると2回、大きなリセットがあったという。1回目は1870年代。この時は工業化時代の号砲が鳴った。次のリセットは1929年。この時はアメリカをはじめ、日本でも郊外住宅ブームが起き、大量生産・大量消費の時代が訪れた。

 

リチャード・フロリダの言うリセットの引き金は大不況だという。これにより社会的・経済的リセットが発生するというのが彼の論である。1970年代は長期不況、1927年は大恐慌、である。

 

そして、今、3度目のリセットを迎えているという。モノ離れによる所有からシェアへの動き、家すらも持ち家にこだわらない風潮。

 

 

9年経っても古びないグレート・リセット

 

この本は2010年に出版されたものだ。当時はまだウーバーもなかったし、airbnbもまだ、なかった。出版から9年が経過し、本の中に書かれていた世界観がだいぶ、世の中にも形として現れている。この3回目のリセットでは、可動性と柔軟性が重要な要素になるとされている。都市化はますます進み、その先にはメガリージョン(巨大都市圏)が登場する。今はそこに向けた端境期にあるのだ。

 

確かに所有からシェアという動き一つとっても、ここ数年でだいぶ変化したし、これは経済には大きなインパクトを与える。日本でもっとも産業の裾野が広く、雇用を含めて大きな影響を与える自動車産業もこのままでいられるか、といえばノーだろう。

 

 

自動車メーカーからサービス・メーカーへ

 

それはトヨタの動きを見ていれば明白で、毎年年初にラスベガスで開催される世界最大のITテクノロジーの展示会「CES」で、トヨタは2年前、コンセプトカーを展示し、それが話題となった。一言でいえば、それは形こそ車だが、提供するものはサービスだった。つまり、トヨタはこれからサービスを提供する会社への生まれ変わることを宣言した。

 

この流れは今、MaaS(mobile as a service)として世界的に大きな潮流となっている。今、世界ではガラガラと音を立てて、産業構造が大きく変わろうとしているのである。リチャード・フロリダのいう、グレート・リセットはそういう形で進行している。

 

さて、こうした世界と日本を取り巻く産業構造の変化、それに伴う都市の変化を前にして、日本の政治、行政の問題意識はどうなっているだろうか?経済産業省など省庁のウェブサイトを見れば、それなりにリサーチもしているようだ。実際、いくつかの都市で社会実験も始まっている。

 

 

政党は社会の変化に敏感であれ

 

一方で、政治はどうかというと、こちらはかなり残念な状況と言わざるを得ない。与野党問わず、今、政党のリサーチ力が落ちているからに他ならない。MaaSしかり、SaaSしかり、社会の動きをリアルタイムに把握し、その変化の本質を捉えられている政党は今のところ、見当たらない。かろうじて、国民民主党は基本政策の中に、可能性を感じるものがある。掲げるスローガンも「作ろう、新しい答え。」だ。ぜひ、このスローガン通り、新しい社会を設定してほしいものである。

 

多くの政党が永田町の論理で、狭い村社会の中で汲々しているからこそ、大所高所の視点でこれからの日本のビジョンを堂々と語る政党の出現が望まれる。